何者にもなれた何者でもない僕
広川 海未
何者にもなれた何者でもない僕
風呂でこう考えた。
意見を言えば批判される。言わなければ意見は無いのかと怒られる。やりたいことを言うとうちは違うと言われ、全てをやりたいと言うと具体的に何をしたいか問われる。本当に生きるのは難しい。
大学生。男。理想主義で感受性豊か、創造性に富み、他者に共感しやすく静かで控えめな性格だが、内面にある強い情熱を表現出来ないという悩みを抱えている。社会不適合ではないがやりたいことと合致する企業が無く就活で行き詰まっている。大学のキャリアセンターでは、
「君の強みは共感力だけど、具体性が無い。だからうまくいかない」
と言われた。だから具体的にして面接に向かうも、
「う~ん、うちの企業理念とは違うね」
と言われた。何が企業理念と違うだ。人が足らないのは事実なのに何故採用されないのか分からない。
面接官たちが並べる、どうなりたいの?強みは?君は何が出来るの?といういかにも就活な言葉。それでも必要な言葉。彼らが作り上げた「社会」という精巧な白黒の冷たい歯車の中に、自分の内側にある熱い理想や、色彩豊かな創造性を流し込む隙間なんてのはどこにも見当たらなかった。
そんなある日気分転換に温泉へ向かった。そこで女性と出会う。
「彼氏のふりをして欲しい」
と頼まれる。彼女の家へ向かうと父親が仁王立ちしていた。偽物の彼氏だが頼まれた事は最後までやりきる性格なので父親の前で頭を下げた。その後彼女とは僕に報酬を渡し別れた。そこで気がついた。
「そうか。僕を使えないこの世が悪いのだ。別に人の下につかなくて良いんだ。自分で人の役にたてば良いのか」
と。
何でも屋を始めた。車の整備、売買、庭の草刈り、手入れごみの回収、レンタル彼氏、友達。なんでもやった。実績を重ねていくと1人では手が回らなくなった。だから人を雇う事にした。面接に来る人来る人はどの人もしっかり志望動機があった。詳しく書く人程うちではなく他へいった方が良いのでは?浅く書く人程なんだかよく分からない。なるほどこれは難しい。結局誰も採用しなかった。
結婚して父となった。社長でもあった。一軒家も買った。なにもかもになれた気がした。だが実際は何者でもなかった。その事にやっとの事で気付いた。既に時は遅すぎた。
そうか、この世に僕の居場所は無いようだ。
何者にもなれた何者でもない僕 広川 海未 @umihirokawa
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