第22話 焼け跡に残るもの

朝の光は、柔らかく街を包んでいた。


宿での朝食を終えた彩葉たちは、静かな四国の街を歩いていた。

昨夜の余韻がまだ身体に残っているのか、足取りはどこか穏やかだ。


「いい朝だね」


彩葉いろはがそう言って、空を見上げる。


雲は少なく、澄んだ青が広がっている。

平和――そう言葉にすれば簡単だが、この空の下にどれほどの歴史が積み重なっているのか、彼女はまだ知らない。


そのとき。


「……これは……」


レナが足を止めた。


視線の先には、広い敷地。

草木に囲まれた公園の中央に、明らかに異質な建造物が残されている。


崩れた校舎の跡。

黒く焼け焦げた壁。

そして――奇妙なほど無傷で残った体育館。


「廃校……ですね」


陽菜ひなが静かに言った。


「しかも、体育館以外壊れてやがるな……」


村正むらまさは顎に手を当て、破壊の痕を見渡す。


「……この壊れ方は……」


「えぇ」


陽菜は焼けた壁面に近づき、指でなぞるように見つめる。


「第一次神怪世界大戦の時の空爆……でしょうね。この焦げ方は」


空気が、少しだけ重くなった。


しおりは古びた看板の前に立ち、文字を追っている。


「ふむ……」


やがて、ゆっくりと口を開いた。


「今はどうやら、平和の象徴として公園にしてるようじゃの……」


「平和の象徴……」


彩葉はその言葉を繰り返し、崩れた校舎を見つめる。


「……何があったんでしょう。第一次神怪世界大戦って?」


陽菜は少し間を置いてから、答えた。


「人類以外と共存を目指す『日本側』と――

人類以外を道具として使い、戦争の道具にしようとした『アメリカ側』の戦争だ」


彩葉は、言葉を失った。


「……」


「どうなったんだ?...」


くろが腕を組んだまま聞く。


「日本側が勝ったさ」


村正は淡々と言った。


「でなきゃ、俺達はここにいない」


影は何も言わず、ただ地面を見つめている。


「……あのときはの」


栞は遠くを見るような目で語る。


「存在が、共存を目指し戦い合った……

……もう、あんな戦いはごめんじゃ……ん?」


そのとき、栞の視線が一点に留まった。


「祠がある……」


「祠?」


エイが小さく首をかしげる。


「……あの祠は、いったい……」


そう言いかけた瞬間だった。


――ブロロロロロロ……!


空を引き裂くような音が、低く、重く、頭上を覆った。


全員が反射的に空を仰いだ。


「……あれは!」


村正の声が鋭くなる。


「爆撃機じゃと!?」


栞が目を見開く。


「まさか……アメリカ側が条約を破って……!」


陽菜の声が強張る。


「問題ありませんよ」


その声は、不思議なほど落ち着いていた。


「え?」


彩葉が振り返った、その瞬間――


ヒューーーーーー……!


「……っ!」


次の刹那。


――ドカァァァァン!!


凄まじい爆音と衝撃。

地面が揺れ、空気が裂ける。


「わわわぁ!」


レナが思わず彩葉にしがみついた。


だが――

爆撃機は、炎と共に空中で砕け散っていた。


「ね?」


先ほどの声の主が、何事もなかったかのように言う。


「えっと……あなたは……」


彩葉は、改めてその人物を見る。


桃色の髪を揺らす、背の高い少女。

制服のような服装に、腰には識別章。


「それに……あれは……」


「あぁ」


少女は軽く会釈した。


「申し遅れました。

わたくし、ヤマノケの山乃やのと申します。一応、怪異警官です」


「怪異警官の人……私は...」


彩葉は少し驚いたように呟く。


「はい、存じています。

彩葉さん、陽菜さん、喰さん、影さん、栞さん、村正さん、レナさん……ですね。

コトリから話は伺っています」


山乃は頷く。


「そして、あれは『トドマリ』といいます。

……そうですね、想霊の仲間です」


「トドマリ……」


村正が低く復唱する。


「い、今のは!?」


レナが震えた声で聞く。


「あの体育館に住んでいる守護者による攻撃です」


山乃は、体育館の方角を指差した。


「彼女は戦争をひどく嫌っていて……

トドマリが近づくと、ああやって破壊するんです」


「……」


「まぁ、危険性が分からないとはいえ……

トドマリは想霊ですので」


山乃は一息つき、彩葉たちを見る。


「これから、彼女のもとに行くんですが……

ついてきますか?」


彩葉は一瞬だけ迷い、そして頷いた。


「……うん。会ってみよう。みんな」


「あぁ」


村正が応える。


「なにか理由がありそうだ。

この時代、戦争を嫌ってるやつなんて、そうそういないからな」


「いろんな、しなのじゃ」


栞も静かに同意する。


「……はい……」


影が小さく頷く。


「おう!」


喰は迷いなく言った。


「私も!会いたい!」


レナは力強く手を挙げる。


「もちろん、ついて行くよ」


陽菜も微笑んだ。


「決まりのようですね」


山乃は穏やかに笑う。


「それでは、わたくしについてきてください」


こうして一同は、桃色の髪の少女の後を追った。


――視点は、変わる。


薄暗い体育館の中。


ひび割れた床に、埃が舞う。


「ダンッ……」


「ダンッ……」


「ダンッ……」


乾いた音が、反響する。


バスケットボールが床を叩く音。


「………………許さない…………」


低く、抑えた声。


「ダンッ! ダンッ! ダンッ!」


その音は、怒りと憎しみを刻むように、

体育館の中に響き渡っていた。

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