ドレッサー舞踏会

ikhisa

ドレッサー舞踏会

舞踏会、それは出会い場であり、社交場。そして女たちがセンスを競う、闘争の場でもある。

ここに一人、闘争に備える少女が居た。

パーマの掛かった金髪に、碧眼。この美少女をエマと言う。彼女は、次の舞踏会に備えて、ドレスと言う戦闘服を吟味していた。


白は、金髪には合うかもしれないけど、ありきたりだ。

紫は、最近の流行りだ。ただ、髪の色に合わない。黒髪のあの子と、同じ土俵で戦うのは不味い。

赤は、ありかもしれない。しかし、奥ゆかしさで売っている、外面に合わない。


彼女はいつも悩んでいた。そんな彼女の見かねて、兄が言う。

「どれでもいいじゃないか。エマなら、なんでも似合うよ」

エマは兄を見つめる。欲しいのは、そんな誉め言葉ではない。

「兄さんは、あのスーツを着ていくの?」

エマが尋ねた。あのスーツ、とは、祖父から譲り受けた、緑色に白い刺繍の施されたスーツだ。

「うん。今日、仕立て屋に渡した。舞踏会には間に合うかな」

兄が答えた。

エマはそのスーツを思い出す。

格調高い艶やか緑色に上等な生地。そして、精緻にして大胆な刺繍。エマは羨ましかった。

(私も、あんなドレスを着てみたい)


そして舞踏会当日がやって来た。




当日の花形になったのは、エマ。美しいシャンデリアが照らす、その艶やかな緑色のドレス。精緻にして大胆な刺繍。それは彼女の金髪と合致した。優雅に踊る彼女は、まるで森の女王。

男たちの目は釘付けになり、女たちは悔しさでハンカチを噛む。エマは、最高にいい気分になっていた。


そんなエマに、ひときわハンサムな男が近づいた。エマが前々から狙っていた、兄の友人だ。彼が言う。

「いつも素敵だけど、今日はそれ以上に素敵だね。そのドレス、とても似合っているよ」

エマは有頂天になっているが、顔に出さない。恥ずかしそうに、俯いて一言、

「…ありがとう」

(勝ったな!)

そう内心で呟くエマに、男が聞く。

「そういえば、今日はお兄さん、来てないんだね」

エマは、ぎくりとしながら言う。

「今日は、体調が悪いみたい」




家では、兄が、わなわなと震えていた。

仕立て屋に出したスーツは、切れ端しか残っていない。そう、エマはスーツを勝手に、自分のドレスに仕立て直してしまったのだ。

温厚な兄も、これにはキレた。

「ふざけんなよ!エマのヤツ!おじい様のスーツをズタズタにしやがって!」


家に帰ったエマは、兄はおろか、家族全員から滅茶苦茶怒られた!

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