吾輩は猫又である 〜子守編〜
八尾 遥
プロローグ
吾輩は猫又である。名前は死ぬほどある。
行きつけの魚屋では「タマ」と呼ばれ、公園を歩けばガキンチョたちが「ミー」と呼んでくる。少女の家族からは「きなこ」と呼ばれ、おじいさんからは「シロ」と呼ばれる。
漆黒のベルベットのような美しい毛質の時には「クロ」と呼ばれていたし、もふもふオッドアイでは「ミルク」と呼ばれた。
ふぎゃー。
ほんともう、やめてほしい。
疾風のような風をまといながら、吾輩は走っている。
なぜか。
がきんちょに追い回されているからである。
あんなに小さな身体のくせに、集団で襲ってくるやつらは本当に手強い。
「ミー、
ミー待ってー」
みーみーみーみー、うるさーい!
いまだ!
吾輩は紅葉のような小さな手を華麗にかわすと、がきんちょたちの隙間を縫って、一目散に走り去った。
ぜい、ぜい、ぜい。
(無事に逃げられた。まあ、吾輩が捕まるわけないのだが。
少しは、相手にしてあげないと……)
ぜい、ぜい、ぜい。
安全な場所まで来たので、一度息を整える。
どこの地に行っても、このがきんちょたちが一番やっかいだ。
無邪気という名の野犬である。
群れをなしてやってくる。
ふぅ……。
(さて、気を取り直して、商店街の魚屋を目指すかな)
ふん、ふん、ふん。
と、さっきまでとは違い、今日は何の貢物かなと、よだれを垂らしながら鼻歌を歌う。
そうしてお腹が膨れる一日のルーティンをこなしつつ、久々に訪れたこの町の猫会議に参加するべく、真夜中の公園へと向かった。
そこには、この辺に住む地域猫たちが、情報を交換し合っていた。
中には、家猫もこっそり抜け出して参加している。
吾輩は颯爽と登場すると、
「……」
今までワイワイ話していた猫たちが、ピタリとやめ、静寂に包まれた。
そして、頭を下げて目を泳がせている。
(おい、吾輩は楽しい飲み会に、いきなり来た場違いな上司かよっ)
と、ツッコミたくなる。
「お、オホン。
いつも、ご苦労様。
気にしないで、話を続けて。」
そう言うと、恐る恐る喋り出した。
「……ということがあってね。」
「それは危なかったね。保健所に連れて行かれなくて良かった。」
「あそこにネズミの赤ちゃんがたくさん……。」
など、多くの情報交換が行われた。
「じゃあ、今日はこの辺で。」
と、この町のボスが言うと、各々帰る方向を向き、散っていった。
ポツン。
そこに一匹の鯖猫が残っている。
まだ小さな身体だ。耳の先端は切られているので、生殖能力を人間に取られてすぐくらい、生後七、八ヶ月といったところか。
小刻みに震えながら、チラッと吾輩を見て口を開き、すぐに下を向く。
ぺこりと小さく頭を下げると、そのまま帰っていった。
(何か言いたげだったな……)
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