追放されたFランクの荷物持ち、実は「ドロップ率100%」の管理者でした。~激レア装備の配信でバズったので、今さら戻れと言われても手遅れです~

kuni

第1話

「おい、カイト。また『ゴミ』じゃねえか」


ダンジョンの薄暗い最深部。

Sランクダンジョン『奈落の顎(あぎと)』の第50階層。


巨大なボスの死骸の横で、金髪の男――Sランクパーティ『光の剣』のリーダー、ケビンが俺を蹴り飛ばした。


ドガッ!


「ぐぅっ……!」


重い衝撃が腹に走り、俺は無様に地面を転がる。

背負っていた重さ80キロの巨大なリュックが、ズシリと背中に食い込んだ。


「す、すまない……。でも、ドロップ判定は俺じゃなくて、トドメを刺したケビンに……」


「あぁん? 口答えすんのか? この無能が」


ケビンは俺の顔のすぐ横に剣を突き立てた。

冷たい刃の感触。

見上げると、そこには侮蔑と苛立ちしかなかった。


「いいか? 俺たちは最強のSランクパーティだ。実力は完璧なんだよ。それなのに、ここ最近レアアイテムが一つも落ちねぇ。……これがどういうことか分かるか?」


「そ、それは……確率の偏りじゃ……」


「ちげぇよ。お前の『貧乏神』体質が伝染(うつ)ってんだよ!」


理不尽だ。

あまりにも理不尽な言いがかりだった。


俺、一ノ瀬 海人(いちのせ かいと)は、このパーティの『荷物持ち(ポーター)』だ。

戦闘力はない。

ただ、人並み外れた頑丈さと、アイテム管理の几帳面さだけを買われて雇われていた。


「カイトさん、私たちももう限界なんですぅ」


クスクスと笑いながら近づいてきたのは、ヒーラーのミナだ。

聖女のような見た目をしているが、その本性は誰よりも冷酷だ。


「あなたのその薄汚い格好を見てるだけで、なんだか運気が下がる気がして。正直、生理的に無理っていうかぁ」


「そ、そんな……。俺は毎日、みんなの装備の手入れも、食事の準備も、見張りも全部一人でやってきたじゃないか!」


「はぁ? それが『荷物持ち』の仕事でしょ? 勘違いしないでよね」


魔法使いの男も、やれやれと肩をすくめる。


「おいおい、恩着せがましいな。Fランクの無能を、Sランクパーティに置いてやってたんだぞ? 感謝するのはそっちだろ」


誰も、俺を見ていなかった。

俺が毎晩、彼らが寝静まった後にボロボロになった剣を研いでいたことも。

ポーションの残量を計算して、自分の食事を削って金を浮かせていたことも。

彼らが華々しく戦えるように、泥水をすすって裏方に徹してきた日々のことを。


誰も、認めてはいなかったのだ。


「……で、結論だ」


ケビンが冷酷に告げる。


「お前、クビな」


時が止まった気がした。


「く、クビ……? ここで、か?」


ここはダンジョンの50階層だ。

地上に戻るだけでも、熟練のパーティで3日はかかる。

戦闘力のない俺一人で帰れというのは、死ねと言うのと同じだ。


「当たり前だろ。街まで連れて帰る『枠』がもったいねぇよ。お前の代わりなんて、いくらでもいるんだからな」


ケビンは懐から何かを取り出し、俺の足元に放り投げた。


カラン、と乾いた音が響く。

泥にまみれた、安物のポーションが一本。


「手切れ金だ。感謝して受け取れよ?」


「まっ、待ってくれ! 俺一人じゃ魔物に勝てない! 家に……病気の妹だって待ってるんだ!」


俺はケビンの足にすがりつこうとした。

しかし、その手は空を切る。


「あーあ、汚い手で触んじゃねぇよ。……じゃあな、ゴミ拾い」


ケビンが『帰還石(リターン・ストーン)』を砕く。

高価な青い光が彼らを包み込んだ。


「せいぜい、そこで野垂れ死んでくれや」

「さよならぁ、カイトさん。あ、死体は魔物に食べてもらってね? 臭いから」


光が弾ける。

次の瞬間、そこに彼らの姿はなかった。


残されたのは、俺と、ボスの死骸と、どこまでも続く暗闇だけ。


「…………はは」


乾いた笑いが出た。

妹の手術費を稼ぐために、プライドを捨てて尽くしてきた3年間。

その結末がこれか。


「ふざけるな……」


恐怖よりも先に、どす黒い怒りが腹の底から湧き上がってきた。

握りしめた拳から血が滲む。


「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな……!」


俺は死ねない。

あんな奴らに使い捨てられて、こんな場所で終わってたまるか。


俺は震える手で、泥だらけのポーションを拾い上げた。

その時だった。


**『ピロン♪』**


静寂なダンジョンに、場違いに軽快な電子音が響き渡った。

俺の目の前の空間に、半透明の青いウィンドウが浮かび上がる。


**【システムエラーが発生しました】**

**【正規ユーザー『ケビン』の消失を確認】**

**【予備権限者へのアクセスを試行します……成功】**


「……なんだ、これ?」


ウィンドウの文字が、目まぐるしく書き換わっていく。


**【管理者権限(アドミニストレータ)を譲渡します】**

**【現在地:深層エリア50】**

**【ドロップ率設定:0.001% → 強制変更:100%】**


**【スキル『神の目(ドロップ操作)』が覚醒しました】**


俺の視界が、一瞬でノイズに包まれた。

そして次の瞬間、世界が変わって見えた。


足元に転がっていたただの石ころの上に、黄金色の文字が浮かんでいたのだ。


**<未鑑定の神話級(ミソロジー)鉱石>**


「は……?」


俺はまだ知らなかった。

この瞬間、世界で一番の「ゴミ」扱いされた俺が、世界中の宝を支配する管理者になったことを。


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