4年間片想いしていた男をクラスの女に取られた

モンブラン博士

第1話

「僕、梓(あずさ)ちゃんと付き合うことになったの。告白したら、オッケーだって」

「そっか」


 松野剛太郎(まつのごうたろう)は目の前が真っ暗になった。

 虹野春夫(にじのはるお)が誰かと付き合うなんて、悪夢のようだ。

 剛太郎は中学二年から春夫に密かな恋愛感情を抱いていたから、四年間の想いが自分の知らないところで終わる現実が耐えられなかった。

 春夫は可愛い。高二にしては童顔で性格も子供っぽいが、それが剛太郎の心に触れた。

 運命のいたずらか、中二から高二の現在に至るまで、春夫と剛太郎は同じクラスだった。

 普通、進学先が変わることを考えると奇跡みたいな確率だろう。

 同じ時間を過ごしているだけで心が満たされた。視線が合うだけで心臓が高鳴った。

 体育の着替えのときや水泳の授業では心臓が爆発してしまうと何度も思った。

 それほど惚れた相手が、女に取られる。

 正直言って、死ぬほどつらい。

 梓のことは知っている。同じクラスの女子でクラスの委員長をしている。

 顔がよく、リーダーシップもあって明るい性格だから皆から慕われている。

 剛太郎が惚れるのも一応は理解できるのだが、頭では納得しても心が拒絶した。

 できることなら、春夫は自分の傍にいてほしい。結婚は難しいかもしれない。

 だが、高校生活の間だけは誰にも渡したくない。

 身勝手な独占欲というのはわかるが、恋をした人間なら誰しもが持つ感情ではないだろうか?

 春夫と梓が仲良く手を繋いで歩いている姿を想像しただけで、身が裂かれそうになる。

 キスまでした日には憤死してしまうかもしれない。

 けれど、目の前の春夫は満面の笑みを浮かべていて、とても嬉しそうだ。

 剛太郎は自らの心に封をして誠実さを込めた声で言った。


「よかったな。おめでとう。幸せにな」

「うん! ありがとう!」


 花のような笑顔だ。やっぱり春夫のことが好きなんだと思う。

 少なくとも剛太郎は嫌われていない。その事実だけが救いだった。

 春夫が踵を返して自分の席へと戻っていく。彼の姿を目で追って、そっとため息を吐く。

 俺の四年間の片想いはあっけなく幕を閉じてしまった。

 できることなら、最愛の人の幸せを願おう。

 頼む、梓。春夫に幸せな時間を与えてほしい。彼の笑顔を曇らせないでほしい。

 心の中で願いながら、剛太郎は再びため息を吐いた。泣きたかったが、泣けなかった。


 おしまい。

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