第5話 2026年2月10日午後12:30

「そういえばさ」


昼休みの雑談の中で、

誰かが思い出したように言った。


「前に、行方不明が増えてるってニュース、あったよね」


「そんなのあったっけ?」


「うん、あった気がする。

 でも最近、全然聞かなくない?」


「ああ……言われてみれば」


話題はそれ以上、深まらなかった。



電車の中で、スマートフォンを眺める。

炎上を追うまとめサイトは、更新が止まっていた。

コメント欄は静かで、

強い言葉はほとんど見当たらない。


「最近、ネット落ち着いてるよね」


「平和でいいじゃん」


そんな声が、あちこちで聞こえる。



掲示板を開く。


かつて伸びていたスレは、

いつの間にか過去ログに流れていた。


レスの途中で切れた書き込み。

引用だけが残り、元の発言が見つからない箇所。


それに気づいても、

誰も書き足さない。



行方不明者についての続報は出ていない。

捜索が終わったという話も、

解決したという発表もない。


ただ、

話題にされなくなった。




「言葉、選ぶようになったよね」


「余計なこと言わなくなった」


「まあ、大人になったってことじゃない?」


誰かが笑って、

その話は終わる。




夜、部屋でパソコンを閉じる。

画面は暗くなり、

何も表示されない。


未送信の文章も、

途中で止まった言葉も、

もう見当たらない。



最近、

行方不明の話は聞かない。


最近、

荒れた言葉も見ない。


最近、

何も起きていない。


そういうことになっている。



それは、

叶えてはいけなかった願いだった。


誰にも言われず、

誰にも確かめられず、

静かに、そうなった。


世界は今日も、

何事もなかったように続いている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

炎上と喧嘩はネットの花 綴葉紀 琉奈 @TuduhagiLuna

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画