暗い空の下でミオラは笑う

@tukizizyou

プロローグ

「おはよう、昨日もよく眠れたかしら」

そんないつもの定型文であいさつをしてくるいつも笑顔のまぶしい親友が声をかけてくる。

「おはよう、昨日も相も変わらずぐっすりだけど。そっちはどうなの」

私も同じようにいつもと変わらない言葉を繋ぎ彼女の顔をそっと眺める。

いつにもましてふわふわなクリーム色の髪が、彼女のシルエットを強調するように決まっており、顔ももちろん美人さん。

「わたしももちろん...?私の顔に何かついてる?」

あまりにも直視しすぎていたためか、少し笑顔が消え困ったように彼女は自分の顔をペタペタと触り始める。

「いや違うって、ただ今日も元気そうだなって思っただけ」

そう濁して私は歩き出すことにした。

ちょっと待ってよ、と後ろから聞こえたがあえて無視して、背を向けて自分の笑顔を隠すようにいつもの仕事場に向かう。


私の名前はロザ、親友はミオラでどちらも14歳。

仕事といっても大人がするような重労働ではなく軽労働、私たちの住む国は大国ではある物のまだまだ人手が足りないということで、本来勉学に励むであろう年齢の私たちも仕事に駆り出されているのだ。


今日の仕事は何だろうねと2人で話し合いながらいつもの通りを歩いていると、風で舞ったであろう紙が目の前に降りそれをタイミングよくキャッチして確認する。

「来週発売予定、苺タルトとレモンケーキ先着200名限定です。乞うご期待..」

意味を理解するための前段階としてのただの読み上げをしてしまう。

「昨日はパンを焼いて一昨日は果樹園の収穫したし、今日は接客でもするのかしら..って何それ?」

遅れて私の一直線な視線の先にある紙に目を落とす。

「さっき風で降ってきたみたいで、苺タルトとレモンケーキが来週発売するんだって」

「わたしどちらも食べたことないし、どんな味がするのか分からないわ」

未知の味への興味より不安の方が強いのかミオラは困ったような顔をする。

「私も食べたことないけど、機会があれば食べてみたいな。もちろん一緒にね」

多分来ることなはいだろうけど、提案をして期待をさせるとふっと華やかな雰囲気を漂わせありがとう、楽しみにしてるとミオラは言ったのだ。


いつもの事務所に到着して上司にあいさつを交わす、するとその返答として今日の仕事はこれねと言わんばかりに一枚の紙を手渡される。

「今日は配達ですか」

仕事に良いも悪いもないけれど、少しは楽な方がいいと思ってしまう自分にとってはハズレ寄りに感じる。

「そうだよ、配達だ。お前みたいに体力のある若者には打って付けだからな」

意地の悪そうに言う上司をよそにミオラが何の仕事を貰ってるか気になって声をかけようとすると、彼女が振り向いて満面の笑みで駆けつけてくる。

「今日は接客業みたい、わたしの予想が当たったわ。嬉しい!」

「それは良かったね。接客ならミオラの強みが存分に発揮されるから、羨ましいよ」

「そんなことないわ、わたしだって別にそんな愛想良くないもん。そういうロザは何の仕事貰ったの?」

「配達だって何を配達するのか書いてないから、行ってからのお楽しみではあるけど絶対に面倒なの話買ってるしな...」

つい愚痴がこぼれてしまい、ミオラは私のことをまっすぐじっと見てから目を瞑る。

「あんまりマイナスなことばかり言ってると幸せが逃げちゃうわ、わたしはロザに幸せになって欲しいんだから」

急に告白されたのかと思い、耳が赤くなり少し硬直してしまう。

そんな状態の私を見てかミオラが即座に謝ると、今日も頑張ろうねと言い残していそいそと外に出て行った。


私は身長は平均的ではある物の、体力が女子の中で人並み以上にあるらしく配達のような体力系の仕事をよく貰う。

別にそれが嫌ってわけではないけれどミオラと離れるこの時間は苦痛に感じてしまう。

でもそれを隠して仕事をしなければ生きてはいけないし、しょうがないことだと分かっている。

10歳の頃そんなに体力があるといわれるのなら、軍に入ろうかと悩んでいた時がある。

私がミオラを守るんだと思って、でも入ることはなかった。

今、国としては安定しつつあって別に戦争も隣国と起きそうな気配もない、そう子供ながらに考えていたのもあるが、ミオラと離れるのが途轍もなく嫌だった方が大きいのかもしれない。

「次が最後だな、あんたのお陰で大分早く終われたよ。ご褒美にジュースおごってやるよ、考えときな」

そんな声がしてふと我に返る。ミオラがいないだけで視界にも記憶にもこの光景が残らないんだなって改めて感じてしまった。

「なんでだろ」

そう、小声でつぶやくが車のエンジン音の前では掻き消えて誰にも伝わることはなかった。


「これで終わりだお疲れさん。さっき話したがどれにするんだ?」

売店に並ぶジュースを指して、今日の仕事の偉い人?がこちらを見てくる。

「そうですね、じゃぁ..このリンゴジュースでお願いします。

「そうか分かった、他のやつも早く言えよじゃないと買っちまうぞ」

そう大声をあげて店の中に入っていった。

「ミオラはもう仕事終わったのかな」

そう呟いて空を見上げる。空はすっかり暗くなっていて少し外を歩くのを躊躇ってしまうレベルだった。

家まで送ってもらい、お礼をしたのち車を降りる。何てことのない日常。

そして家に入りそのまま突っ伏して寝るのだった。


朝というには少し早い時間に起きて。身支度を済ませていた。

「今日はこれとこれとこれを持っていこう」

そんなお洒落さんのような言い回しをしつつシャワーを浴びる。

「なんか今日空が暗いような...」

シャワールームにある窓を見て呟く。本来ならもう明るくなってもいいころ合いなのに、雨とかのレベルではなくもっと違う何か。

それを理解するのはすぐ後になるとも今は知る由もなかった。


いつもと同じ待ち合わせにつき、改めて空を見る。

「やっぱり今日は一段と暗いな」

「何が暗いって?」

空だよと指をさしミオラも空を見る。

「確かに暗いけど前もこれくらい暗い日なかったかしら?」

そう、こちらに視線を落とす。

「おはよう、昨日もよく眠れたかしら」

とミオラが話題を変えてくる、いや..いつもの挨拶なんだけど、急に言ってくるとは思わず理解が追い付かなかった。

それを分かったであろうミオラはもう一度繰り返した。

「おはよう、昨日もよく眠れたかしら」

「おはよう、昨日も相も変わらずぐっすりだけど。そっちはどうなの」

流石に2回目は理解し返答する。

私ももちろんぐっすりよ、といい満面の笑みでこちらに視線を送る。

世界が暗くても彼女が光となって明るく照らしている、そう感じるほど眩しかった。

そんな矢先ゴーンゴーンと低い音が遠くから鳴る。

「何この音?なんか怖いわ..」

一気に彼女から笑顔か崩れ落ちて不安な表情に変わる。

「とりあえず広場に行こ?そこならきっと分かるかもしれないし」

そういい温かみのある手を引っ張り、いつもとは違う方向に歩みを進めることにした。


「ここが広場..?」

そう呟くほど人がひしめき合っており、そこに飛び込めばきっと離れ離れになってしまうと感じるほどだった。

待ち合わせから広場までそこそこ距離があるとはいえ、ここまで遅れて到着になるとは思っておらず少し驚いてしまう。

「みんな考えることは同じなのね」

ミオラがポツリと呟き私の視線が人の波から彼女に向かう。

「そう、みたい。中心にきっと何か置いてあるのかもしれないけどこれじゃ、確認のしようがないね」

「仕方ないわ、でもここで待っているのが安全よね」

そう納得するミオラを横目に人混みの声を聴くことにした。

戦争、訓連、お祭り、どれもピンとくるものではなく途方に暮れてしまう。

そんな中1人の軍服を着た男性が、私たちの後方から広場に向かって走ってきた。

「戦争が始まった、今すぐにここから離れるんだ。急げ!」

と大声で叫びながら中心に消えていく。

その瞬間人混みが一気に動き始め、右へ左へ上へ下へとバラバラに動き出す。

「戦争って何かしら?何かのイベント?」

こんな状況下でもミオラはいい方向に捉えているらしく、そんな彼女を人の流れから守るべく道の端っこに誘導し、物陰に隠れた。

急に何するの、と驚きはしていたものの拒否することはなく今の状態でやり過ごす。

「さっきまでいたところは道の真ん中なんだよ、離れ離れになったらもう会えないかもしれないんだから、でも急にごめんね」

それを聞き彼女は分かったようにいいよと私の目を見て答えた。


人の流れが収まり会話が出来るくらい静かになる。

ずっと2人の間に静寂が生まれていたため、なんて声をかけようか迷ってしまう。

「もう喋ってもいいよね、さっき戦争って聞こえたけど、何が始まるの?」

先にミオラから話すとは思っていなかったが不安な顔を間近で見ると黙っていられなくなる。

「私もちゃんとは知らないけど、もうここには住めなくなるって聞いたことがある..」

ミオラが何か発しようと口を動かすのを人差し指で制す。

「足音が聞こえる」

それだけ呟いてまた沈黙の空間を生む。

「もう人は残っていないと思うが、ここは戦場になる。もし残っているのなら早急にここから離れよ」

歩いている人から拡声器を伝って聞こえてくるその言葉はただ無機質で、とても恐ろしく感じた。

「なんだ軍の人か..」

何かにおびえる自分の心を感じ取りながら、そう呟きミオラを見つめる。

「そうみたいね、改めて今後どうする?仕事、今日は出来ない..だろうし」

ミオラは少し頭を上げ辺りを見回しつつそういうと、とりあえずどこか移動しましょうと言わんばかりに手を引いてきた。

立ち上がってさっきの拡声器を持つ人がどこにいるのか、確認したがもう見当たらなかった。

「とりあえず、上目指しましょう!いいわね」

急に問われ私は行き先がないため、ミオラに従うことにした。


「あんまり真ん中を歩くのよくないと思うけど、もっと端っこによってよ」

「端っこじゃ歩きずらいのだけど」

「何があるか分からないんだから、大事になってからじゃ遅いの」

「そんなにロザは、あたしのこと心配してくれるの?」

「う..そうだよ。悪い?」

「ううん、悪くないの、ちょっと嬉しくて」

道すがら場所自体は遠くはないものの仕事以外での外出は出来なかったため、広場周辺の地理を知らずブラブラと歩く。

私とミオラの2人しかいない空間、2人しかいないとも感じる世界に少し幸せを感じてしまう。


そんな最中いきなりドドドと、何か不穏な音が聞こえ始める。

「何かしら今の?聞いたことない音だけれど」

ミオラは吞気に音のなる方へ視線を向ける。

私もそれが何か、理解はしていなかったがよくない音だと直感が告げていた。

ミオラの手を強く引き、あそこに行くよとドアの空いてる家を指す。

彼女はその異様な雰囲気を感じ取ったのか、口を閉じ手を握り返してきて家の中に入る。

鍵を閉め外を確認しようとするミオラを制し外から見えない角度に誘導して座り込む。

「どうしてここなの?」

「なんとなく、私の直感がそう言ってるから」

「ロザの直感って当てになるから信じるわ」

「ミオラ、私さっきの音聞いて決心した、一緒にこの国から出ていきたい」

急にそんなことを言われてびっくりすると思ったが、彼女は私の目をじっと見つめ目を瞑る。

「ロザがそう思うなら私も行くわ、離れたくないから..」

どんよりとした空気がクリアに感じるほどミオラの言葉は奇麗に聞こえた。

「ありがとう、急に言ったから、断られると思ってた」

「わたしがロザのお願いを断るわけないじゃない、何年一緒にいると思ってるの?」

座っていたため解いていた手を再度握り合い結束を固める。

「絶対この国から2人で脱出しようね」

そういって銃声が鳴りやむまでじっとすることにして、一晩過ぎていった。

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