『俺達のグレートなキャンプ231 キャンプしていたらイエティと遭遇した!まいいや』

海山純平

第231話 キャンプしていたらイエティと遭遇した!まいいや

俺達のグレートなキャンプ231 キャンプしていたらイエティと遭遇した!まいいや


「はぁー……今回は普通だね」

千葉が心底つまらなそうに、焚き火の薪をつついた。火の粉がパチパチと夜空に舞い上がる。その顔は退屈そのもので、目は虚ろ、口元はへの字に曲がっている。

「普通って言うな!これが本来のキャンプなんだよ!」

富山が眉をひそめながら反論する。彼女の表情には安堵と若干の不満が混ざり合っていた。両手でマグカップを握りしめ、ホットココアの湯気が彼女の頬を赤く染めている。

ここは埼玉県秩父の「おくちちぶキャンプ場」。至って普通の、家族連れやソロキャンパーで賑わう一般的なキャンプ場だ。午後7時、周囲には20組ほどのキャンパーが思い思いにテントを張り、焚き火を囲んでいる。子どもたちの笑い声、ギターの音色、肉を焼く香ばしい匂い。どこにでもある、平和なキャンプ場の夜の風景。

「いやいや、千葉の言う通りだよ!今回は231回目なのに、普通にテント張って、普通に焚き火して、普通に飯食って……これじゃあただのキャンプじゃん!」

石川が両手を大きく広げて立ち上がった。その動きで焚き火の光が彼の顔を照らし、目が異様に輝いている。完全にスイッチが入りかけている顔だ。

「ただのキャンプで何が悪いのよ!」

富山が立ち上がって叫ぶ。彼女の顔は真っ赤で、額には青筋が浮かんでいる。マグカップを握る手が小刻みに震えている。

「前回はキャンプ場で即席ラーメン早食い大会して、他のキャンパーさん30人巻き込んで大騒ぎになったでしょ!前々回は深夜にキャンプ場内かくれんぼして管理人さんに怒られたでしょ!その前は焚き火でマシュマロ焼き過ぎて煙だらけになって消防車来たでしょ!!」

富山の声がキャンプ場に響き渡る。周囲の他のキャンパーたちが、チラチラとこちらを見ている。「また始まった」という顔だ。

「それがグレートなキャンプじゃん!なぁ千葉!」

「そうそう!どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなる!っていうか、普通のキャンプなんて――」

その時だった。

ドサッ!!

突然、三人のテントの真横に、何かが倒れ込んできた。

「うわっ!?」

三人が同時に飛び上がる。焚き火の光に照らされて見えたのは――

全身白い毛に覆われた、身長2メートルを超える巨大な生物。筋骨隆々とした体、長い腕、そして明らかに人間ではない顔立ち。それは地面に倒れ込み、荒い息を吐いていた。

「イ、イエティ……?」

千葉が震える声で呟く。

「嘘でしょ……」

富山が目を見開いたまま固まっている。顔面蒼白で、口がパクパクと開いたり閉じたりしている。

「……う、うぅ……腹減った……もう……あかん……」

その生物――どう見てもイエティとしか呼びようのないそれは、か細い声で呟いた。しかも流暢な日本語。関西弁。

「お、おい!大丈夫か!?」

石川が慌てて駆け寄る。イエティの体は痩せ細り、白い毛はところどころ抜け落ちている。明らかに衰弱している。

「何日も……何も食べてへん……もう……ワイ……ここまでや……」

イエティの大きな黒い瞳から、涙がポロポロとこぼれ落ちる。その姿はあまりにも哀れで、見ている方の胸が締め付けられる。

「ちょ、ちょっと石川!どうすんのよこれ!?」

富山が慌てふためく。両手をバタバタと動かし、完全にパニック状態だ。

「とりあえず何か食わせないと!千葉、ビーフジャーキー持ってきて!」

「了解!」

千葉が慌ててクーラーボックスを漁る。ガサゴソと音を立てながら、袋入りのビーフジャーキーを取り出した。

「ほら、これ食えよ!」

石川がイエティの口元にビーフジャーキーを持っていく。

イエティは弱々しく手を伸ばし、ビーフジャーキーを受け取ると――

「う……うまい……うまいで……」

むしゃむしゃと食べ始めた。その食べっぷりは必死で、大粒の涙を流しながらビーフジャーキーを噛み締めている。

「もっとあるぞ!遠慮すんな!」

千葉が次々とビーフジャーキーを差し出す。イエティは感激の表情で、むさぼるように食べ続けた。

5袋のビーフジャーキーを平らげたところで、イエティの顔に生気が戻ってきた。

「あ、ありがとうございます……ワイ、もうあかんと思てました……」

イエティが深々と頭を下げる。その仕草は妙に丁寧で、背筋がピンと伸びている。

「いやいや、気にすんなって!それより、なんでこんなとこにいんの?」

石川が屈託のない笑顔で尋ねる。

「それが……ワイ、ヒマラヤから日本に観光に来たんですわ。せやけど、道に迷て……気づいたら秩父の山奥で……人間に見つかったらあかんと思て、隠れながら彷徨っとったら、何も食べられへんくて……」

イエティが項垂れる。その姿は巨体に似合わず、どこか可愛らしい。

「なるほどな!でもラッキーだったな、俺たちに会えて!」

「ほんまに……あんたら、ワイの命の恩人や……この御恩は一生忘れへん!何かお返しさせてください!何でもしますわ!」

イエティが再び深々と頭を下げる。その目は真剣そのもので、必死さが滲み出ている。

その瞬間――石川の目が、ギラリと光った。

「何でも……?」

「はい!何でも!ワイ、仁義を大事にする生き物やから、恩は必ず返します!」

イエティが力強く頷く。

「……おい、千葉」

「なに、石川」

二人の顔が同時に、満面の笑みに変わる。目が異様に輝き、体が小刻みに震え始める。完全にテンションMAXの顔だ。

「やばい予感しかしないんだけど……」

富山が顔面蒼白で呟く。

「なぁ、イエティさん!」

「はい!」

「俺たちに一生の思い出になるキャンプを一緒にやろうぜ!!」

石川が両手を広げて叫ぶ。その声は夜空に響き渡り、周囲のキャンパーたちが一斉にこちらを向いた。

「キ、キャンプ……ですか?」

イエティが首を傾げる。

「そう!グレートなキャンプ!釣りして、薪割りして、料理作って、銭湯入って、一緒にテントで寝る!最高の思い出作りだ!」

「ええんですか!?ワイみたいなもんと一緒に!?」

イエティの目がキラキラと輝く。その表情は感激で満ちていて、大きな手をぶるぶると震わせている。

「当たり前だろ!なぁ千葉!」

「どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなる!イエティさんも仲間だ!」

千葉が親指を立てる。

「あんたら……ええ人や……」

イエティが号泣し始めた。大粒の涙がボロボロと流れ落ち、地面に水たまりができる。

「ちょ、ちょっと待って!本気なの!?イエティとキャンプって!?」

富山が慌てるが、もう止められない。石川と千葉とイエティは、すでにハイタッチを交わしていた。

パァン!

その音が、グレートなキャンプの始まりを告げる鐘だった。


翌朝、午前6時。

「よっしゃ!まずは釣りからや!」

石川が張り切って釣り竿を担いでいる。その顔は朝日を浴びて輝き、目は爛々としている。

「釣り……ワイ、やったことないんですけど……」

イエティが遠慮がちに言う。その巨体が朝日に照らされて、白い毛がキラキラと光っている。

「大丈夫大丈夫!簡単だから!」

千葉が釣り竿をイエティに渡す。イエティの手は人間の3倍はあり、釣り竿が割り箸のように見える。

キャンプ場の奥には小さな渓流が流れている。そこへ向かう道すがら、他のキャンパーたちとすれ違う。

「お、おはようございます……」

「……あの、それ……なんですか……?」

若いカップルが、イエティを指差して固まっている。完全に腰が抜けそうな顔だ。

「ああ、これ?友達のイエティさん!」

石川がさらりと答える。

「イエティ……」

「イエティ!?」

カップルが目を丸くする。

「どうも、イエティです。お見苦しいとこお見せしてすんません」

イエティが丁寧にお辞儀する。その礼儀正しさに、カップルは言葉を失った。

渓流に着くと、石川が早速釣りの準備を始める。

「よし、イエティさん、こうやって竿を振って……」

「はい……こう……ですか?」

ブンッ!!

イエティが釣り竿を振った瞬間、すさまじい風圧が発生した。釣り糸が音速で飛んでいき、仕掛けが対岸の木に突き刺さる。

「つ、強い……」

石川が呆然と呟く。

「すんません!力加減が……」

イエティが慌てる。その顔は真っ青で、大きな手をわたわたと動かしている。

「ま、まぁ大丈夫!もうちょっと優しく!」

今度は、イエティが慎重に竿を振る。今度はうまく川に着水した。

「やった!」

イエティが喜ぶ。その笑顔は子どものように無邪気で、大きな目がキラキラしている。

しかし――

グイッ!!

いきなり竿がしなる。何かが掛かった。

「お、おおっ!?掛かりましたで!」

イエティが興奮して竿を引く。

ブチッ!

糸が切れた。

「……あれ?」

「力強すぎ!」

千葉がツッコむ。

「すんません……ワイ、繊細な作業が苦手で……」

イエティがしゅんとする。その巨体が小さく見えるほど、肩を落としている。

「大丈夫大丈夫!次いこ次!」

石川がポジティブに励ます。

結局、30分後――

イエティは10回糸を切り、5回仕掛けを木に引っ掛け、3回竿を折った。

「も、申し訳ないです……」

イエティが項垂れる。

「いやいや、楽しかったからオッケー!な、千葉?」

「うん!イエティさんの全力っぷりが最高だった!」

千葉が笑う。

そして――富山の竿に、立派なニジマスが掛かった。

「や、やった!釣れた!」

富山が嬉しそうに叫ぶ。その顔は朝日のように明るく、目が輝いている。

「さすが富山!」

「ベテランは違うな!」

「すごいですわ!」

三人と一体が拍手する。


午前10時、キャンプ場に戻ると、次は薪割りだ。

「よし、薪割りいくぞ!」

石川が斧を構える。キャンプ場の管理棟から借りた斧は、よく手入れされていて刃が鋭く光っている。

「薪割り……これならワイでもできそうですわ!」

イエティが意気込む。その目は自信に満ちていて、両手をグーパーグーパーと開いたり閉じたりしている。

「じゃあ、イエティさんやってみて!」

千葉が丸太を台の上に置く。直径30センチはある太い丸太だ。

「よっしゃ!いきますで!」

イエティが斧を構える。その手は丸太より太く、筋肉が盛り上がっている。

そして――

ドゴォォォン!!

イエティが斧を振り下ろした瞬間、丸太が粉々に爆発した。木片が四方八方に飛び散り、まるで爆弾が爆発したかのような光景。

「うわあああっ!?」

三人が慌てて伏せる。木片が雨のように降り注ぎ、地面に無数の穴が開く。

「……す、すんません……」

イエティが青ざめる。

「つ、強すぎる……」

石川が震える声で呟く。

「も、もうちょっと優しく……」

今度は、イエティが慎重に斧を振り下ろす。

ドガァン!

また丸太が爆発した。

「だから優しく!!」

富山が叫ぶ。

結局、イエティは10本の丸太を粉々にし、斧を3本折った。

「ワイ……役立たずや……」

イエティが完全に落ち込む。その巨体が地面に座り込み、両手で顔を覆っている。

「いやいや、パワーはすごかったから!な?」

石川が励ます。

そんな騒ぎを見ていた隣のサイトの家族連れのお父さんが、呆れた顔で近づいてきた。

「あの……すごい音がしてるんですけど……」

「あ、すみません!ちょっと薪割りを……」

「いや、薪割りって……爆発してましたよね?それに、あの、その……」

お父さんがイエティを指差す。

「友達のイエティさんです!」

「イエティ!?ほ、本物ですか!?」

お父さんの目が輝く。

「どうも……イエティです……」

イエティが落ち込んだまま挨拶する。

「す、すごい!息子に見せたい!」

お父さんが興奮して、家族を呼ぶ。

「パパ、どうしたの?」

小学生くらいの男の子と女の子が駆けてくる。

「見て!イエティだよ!本物のイエティ!」

「うわぁ!本当だ!」

「すごーい!」

子どもたちが目をキラキラさせる。

「あ、あの……お騒がせしてすんません……」

イエティが恐縮する。

「いやいや!貴重なもの見れて嬉しいです!あ、一緒に写真撮ってもらえます?」

「え……ええんですか?」

「もちろん!」

こうして、イエティは家族と記念撮影。その後、周囲のキャンパーたちも集まってきて、イエティは人気者になった。

「イエティさん、写真お願いします!」

「握手してください!」

「サインください!」

「サ、サインって……字、書かれへんのですけど……」

イエティが困惑しながらも、嬉しそうに応対している。その顔は照れくさそうで、白い毛が赤く染まっているように見える。


午後2時、いよいよ料理の時間だ。

「よっしゃ!今日のメインディッシュは石焼ビビンバや!」

石川が宣言する。テーブルの上には、牛肉、ナムル、卵、コチュジャン、そして石鍋が並んでいる。

「石焼ビビンバ……美味そうやな……」

イエティがゴクリと唾を飲む。その目は料理に釘付けで、よだれが垂れそうになっている。

「イエティさん、火起こし手伝って!」

「はい!」

イエティが炭に火をつけようとする。

フゥーーーッ!!

イエティが息を吹きかけた瞬間、炭が吹き飛んだ。

「だから優しく!!」

三人が同時にツッコむ。

結局、火起こしは富山が担当。イエティは食材を切る係になった。

「じゃあ、ニンジン切って」

「はい」

イエティが包丁を持つ。その手はあまりにも大きく、包丁が爪楊枝のように見える。

そして――

ザクッ!

まな板ごとニンジンを真っ二つにした。

「まな板も切った!?」

千葉が驚愕する。

「す、すんません……」

「もういい!イエティさんは見てて!」

富山が呆れながら調理を続ける。

30分後、石焼ビビンバが完成した。石鍋の中で、具材がジュージューと音を立て、香ばしい匂いが漂う。

「うわぁ……美味そう……」

イエティの目がキラキラ輝く。

「よし、食うぞ!」

石川が宣言し、四人で石焼ビビンバを囲む。

「いただきます!」

まず石川が一口。

「うま!最高!」

次に千葉。

「これはグレートだ!」

富山も。

「ほんと美味しい……」

そしてイエティが、スプーンで石焼ビビンバをすくう。熱々のビビンバが湯気を立てている。

「いただきます……」

イエティが一口。

「……!!」

イエティの顔が真っ赤になる。明らかに熱い。口の中で火傷しそうなほど熱い。目から涙が溢れ、鼻水が垂れる。

「だ、大丈夫!?」

富山が心配する。

「あ、熱い……熱いですけど……うまい……うまいですわ……」

イエティが涙を流しながら、ビビンバを食べ続ける。その姿は感動的で、食べる一口一口に魂がこもっている。

「ふーふーしながら食べて!」

千葉が慌てる。

「はい……ふー……ふー……」

イエティが必死にふーふーしながら食べる。その様子がなんとも可愛らしく、三人は笑いながら見守る。

そして――

「ごちそうさまでした……」

イエティが完食。空っぽになった石鍋を見つめ、満足そうに微笑む。

「美味かったか?」

「最高でした……ワイ、こんな美味いもん、生まれて初めて食べましたわ……」

イエティの目から、また涙が溢れる。今度は感激の涙だ。


午後4時、一行は近くの銭湯へ向かった。

「よっしゃ!汗流すぞ!」

石川が意気揚々と銭湯の暖簾をくぐろうとする。

「ちょ、ちょっと待って!イエティさんどうすんの!?」

富山が慌てて止める。

「そうや……ワイ、人間の風呂入られへん……」

イエティがしゅんとする。

「大丈夫!俺に任せろ!」

石川が自信満々に銭湯の番台に向かう。

「すみません、友達のイエティも入れますか?」

「……は?」

番台のおじいさんが固まる。

「だから、イエティ。ほら」

石川がイエティを指差す。

おじいさんは――イエティを見て、数秒固まった後、

「……まぁ、入浴料払えば誰でもいいよ」

あっさりOKした。

「マジか!?」

三人が驚く。

「驚くことないじゃろ。わしも若い頃、色んなもん見てきたからのぅ」

おじいさんが飄々と答える。

こうして、イエティは人生初の銭湯体験。

脱衣所で服を脱ぐ――といっても、イエティは全身毛だらけなので、特に何も脱がない。

「じゃあ、入るぞ!」

石川、千葉、イエティの三人(?)が浴場へ。富山は女湯へ。

浴場に入ると――

「うわぁ……」

先に入っていた常連客たちが、イエティを見て固まる。

「ど、どうも……お邪魔します……」

イエティが丁寧にお辞儀。

「……ま、まぁ、ゆっくりしていきな」

常連客たちも、意外と動じない。さすが秩父の銭湯、懐が深い。

イエティが浴槽に入ろうとする。

ザバァァァン!!

イエティが入った瞬間、大量のお湯が溢れ出した。イエティの巨体が浴槽の半分以上を占め、まるでプールのようだ。

「うわっ!?」

他の客が慌てる。

「す、すんません!」

イエティが慌てて立ち上がる。

ザバァァァン!!

また大量のお湯が揺れる。

「も、もうちょっと静かに……」

石川が苦笑いする。

結局、イエティは端っこでじっと座っていることに。

「あー……気持ちええわぁ……」

イエティが幸せそうに呟く。その顔は極楽で、目が細くなっている。

「よかったな、イエティさん」

「はい……ほんまに……」

そんな平和な時間が流れていたが――

ハプニング発生。

「おい、あれ見ろ!」

常連客の一人が、イエティの背中を指差す。

「な、なんだあれ……」

イエティの背中に、何やら大きな虫がくっついている。よく見ると、山ヒルだ。それも、かなり大きい。

「ひ、ヒル!?」

千葉が叫ぶ。

「え!? どこですか!?」

イエティが慌てる。

「背中!背中についてる!」

「取って取って!ワイ、虫苦手なんですわ!」

イエティがパニックになり、浴槽の中で暴れ始める。

バシャァァン!バシャァァン!

お湯が大波のように揺れ、浴場が大洪水状態に。

「落ち着け!落ち着け!」

石川が必死に止めようとするが、イエティのパニックは止まらない。

「ぎゃああああ!虫嫌いや!虫嫌いやぁ!」

イエティが浴場中を走り回る。その巨体が動くたびに、地震のような振動が起こる。

「ちょ、待て!」

千葉がヒルを取ろうと追いかけるが、イエティの動きが速すぎて追いつけない。

結局、番台のおじいさんがやってきて、一発でヒルを取り除いた。

「ほれ、取れたぞ」

「あ、ありがとうございます……」

イエティがへたり込む。その顔は真っ青で、全身の毛が逆立っている。

浴場は水浸し。他の客たちは呆然としている。

「……すんませんでした……」

イエティが深々と頭を下げた。


午後7時、キャンプ場に戻ると、最後のイベント――テントで一緒に寝る時間だ。

「よっしゃ!今日は最高の一日だったな!」

石川が満足そうに言う。テントの中には、四人分の寝袋が並んでいる。

「ほんまに……ワイ、こんな楽しい日、初めてや……」

イエティが感激で涙ぐむ。

「イエティさん、このテント入れる?」

富山が心配そうに聞く。

「大丈夫や。ワイ、縮こまれるから」

イエティが体を丸める。その姿は意外とコンパクトで、なんとかテントに収まりそうだ。

「じゃあ、寝るか!」

四人(?)が寝袋に入る。

しかし――

ハプニング再び。

「……くかー……くかー……」

イエティのいびきが始まった。

それも、尋常じゃない音量。

「うるさっ!?」

千葉が飛び起きる。

「ご、ごめん……ワイ、いびきかくんや……」

イエティが申し訳なさそうに言う。その顔は真っ赤で、耳まで赤く染まっている。

「いやいや、大丈夫大丈夫!」

石川が笑う。

「そうそう!どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなる!いびきも思い出だ!」

千葉がポジティブに言う。

「あんたら……ええ人や……」

イエティがまた泣き始める。

「泣くな泣くな!さ、寝よう!」

四人が再び寝袋に入る。

「くかー……くかー……」

イエティのいびきが再開。テントが振動し、まるで地震のようだ。

「……慣れるしかないな……」

富山が諦めた表情で呟く。

しかし、不思議なことに――いびきの音が子守唄のように感じられて、三人はいつの間にか眠りについていた。


翌朝、午前6時。

「……ん?」

石川が目を覚ますと、イエティがすでに起きていた。テントの外で、何かをしている。

「おはよう、イエティさん。何してんの?」

石川がテントから出ると――

「あ、おはようございます。朝ごはん作っとります」

イエティが焚き火の前で、フライパンを振っていた。

「え、料理できんの!?」

「昨日、富山さんの料理見て、勉強しましたんや。ほれ、オムレツです」

イエティが差し出したのは――完璧なオムレツ。ふわふわで、綺麗な黄金色。

「す、すげぇ……」

石川が感動する。

「それと、ベーコンとトースト。コーヒーも淹れましたで」

テーブルの上には、完璧な朝食セットが並んでいる。

「イエティさん……」

「昨日、あんたらにようしてもろたから。これくらいしか恩返しできへんけど……」

イエティが照れくさそうに笑う。

「千葉!富山!起きろ!イエティさんが朝飯作ってくれたぞ!」

石川が叫ぶ。

「え!? マジで!?」

千葉と富山が飛び起きる。

四人でテーブルを囲み、イエティ特製の朝食を食べる。

「うまい……」

「めっちゃ美味しい……」

「イエティさん、才能あるよ!」

三人が感激する。

「ほんまですか?ワイ、人の役に立てて嬉しいです……」

イエティが涙ぐむ。

朝食を食べ終わると、いよいよお別れの時間だ。

「じゃあ、ワイ、そろそろ帰りますわ」

イエティが立ち上がる。その顔は名残惜しそうで、何度も三人を振り返る。

「もう帰るの?もうちょっといればいいじゃん!」

千葉が寂しそうに言う。

「いや、これ以上おったら、あんたらに迷惑かけますから。ほんまに、ありがとうございました。ワイ、この恩は一生忘れへん」

イエティが深々と頭を下げる。

「恩なんていいよ!楽しかったから!な?」

石川が笑う。

「うん!またキャンプしようね!」

富山も笑顔で言う。

「……ほんまに、あんたら最高や」

イエティの目から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちる。

そして――

「あ、そうや。これ、受け取ってください」

イエティが懐から、小さな石を取り出した。それは不思議な光を放つ、美しい石だ。

「これは……?」

「ヒマラヤの頂上にしかない、幸運の石です。ワイの宝物やったんですけど、あんたらに渡します。この石があれば、どんなキャンプも必ず成功しますわ」

「そんな大事なもの……」

「いいんです。あんたらは、ワイの命の恩人やから」

イエティがにっこり笑う。

「……ありがとう、イエティさん」

石川が石を受け取る。

「じゃあ、ワイ、行きますわ。元気でな!」

イエティが手を振り、森の奥へと歩いていく。その背中は大きく、でもどこか寂しそうだ。

「バイバーイ!」

「また会おうね!」

「元気でね!」

三人が手を振る。

イエティの姿が、森の中に消えていく。

そして――

「……最高のキャンプだったな」

石川が呟く。

「うん、グレートなキャンプだった」

千葉が頷く。

「……まぁ、確かに……思い出には残るわね」

富山が苦笑いする。

三人は、イエティからもらった石を見つめる。石は不思議な光を放ち、温かかった。

「よし!次のキャンプも最高にしようぜ!」

石川が拳を突き上げる。

「おう!」

「どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなる!」

三人がハイタッチ。

その音が、キャンプ場に響き渡る。


それから数日後――

秩父のキャンプ場では、「イエティが現れた」という噂が広まっていた。

「本当にイエティがいたんですか?」

「ああ、見たぞ。白い毛むくじゃらの、でっかいやつが」

「料理も作ってたらしいな」

「銭湯で暴れたって話も聞いたぞ」

キャンパーたちの間で、イエティの伝説が語り継がれる。

そして、石川たちのキャンプグループは――

「次はどんなキャンプする?」

「んー、今度は河童と一緒にキャンプとか?」

「それいいね!」

「……またUMAかよ……」

相変わらず、グレートなキャンプを続けるのであった。

しかし、ある日――

石川の携帯に、一通のメールが届いた。

差出人は不明。

本文には、こう書かれていた。

「石川様、千葉様、富山様。先日はお世話になりました。イエティです。無事ヒマラヤに帰れました。また日本に行く時は、連絡しますわ。それと、ワイの友達のツチノコも日本におるんで、紹介しますわ。次のキャンプ、楽しみにしとってください。イエティより」

「……ツチノコ!?」

石川が目を輝かせる。

「マジか!」

千葉が興奮する。

「……もう知らない……」

富山が頭を抱える。

こうして、石川たちのグレートなキャンプは、まだまだ続くのであった。

―俺達のグレートなキャンプ231 完―

(次回、俺達のグレートなキャンプ232「キャンプしていたらツチノコと遭遇した!まいいや」に続く……かもしれない)


エピローグ

数ヶ月後、ヒマラヤ。

「なぁ、イエティ。日本、楽しかったか?」

雪男の仲間が尋ねる。

「ああ、最高やったで。ええ友達もできたし」

イエティが嬉しそうに答える。

「人間と友達になるなんて珍しいな」

「せやねん。でもな、あいつらは特別や。どんな時も、ワイを受け入れてくれた。見た目で判断せんかった。一緒に笑って、一緒に食って、一緒に寝た。ワイ、あんな楽しい時間、初めてやった」

イエティの目が、遠くを見つめる。

「また会えるといいな」

「ああ、絶対会うで。約束したから」

イエティが微笑む。

そして、ヒマラヤの頂上から、日本の方角を見つめた。

「石川、千葉、富山……また会おうな。次は、もっとグレートなキャンプしような」

イエティの声が、風に乗って、遠く日本へと届く――

そんな気がした。

おわり

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