また夏が来る

駱駝視砂漠

1 夏、来たる

 都会には似合わない風鈴の音、入道雲のある青空を見上げる。私は入道雲というものを見た記憶がなかった。いや、今までは興味がなかったから空というものをまじまじと見たことがなかったのだろう。

「氷雨ちゃん。これどうぞ」

「ありがとう、ございます」

「大変だと思うから休憩しながら頑張ろうね!」

「うん」

 教室の壁際に座ってオタク友達と話していた私にクラスの明るい子はペットボトルを渡した。やっぱり頭のいい人と話すのは慣れない。

「夕凪ってめっちゃ陰キャだよな」

「いやもう中学の時にできちゃってるじゃん、グループ的なの」

「まあ特進クラスは二クラスしかないし大体見たことある顔だからなー」

 私は勉強を頑張った。中学受験をしたのだ。結果は普通クラスだけ合格。高校に入るときにあるクラス希望で特進クラスと書いた。そしてその希望に見合った努力をした。すると入ることができたのだ。

 私は嬉しかった。だが、少し困ったこともあった。中学のときは特進クラスのメンバーに変動がないゆえにみんなほとんど友達という田舎スタイルの交友関係になっていたのだ。なのでそこに割り入って仲間になる、なんてことができなかった。


 そして、勉強をしているはずの時間に駄弁ることができているのには大きな理由がある。

「陰の者に文化祭はきついよなー」

「文化祭誰とも一緒に歩いたことないんだよなあ」

 文化祭準備期間中は授業がない。ゆっくり学祭の準備に時間を使うことができるのだ。

「今年もぼっちかー?」

「どうだかねー」

 私はスマホを開き、一件のラインを見た。

『文化祭一緒に回らない?』

 私と一緒で普通クラスから特進クラスに上がった人だ。中一から中三までずっと同じクラスだった。

「それ、飲んだら?」

 オタクの友達は先ほどもらったペットボトルを指さす。

「そうだねー」

 私はキャップを開けて水を飲んだ。教室を出て中学と高校を繋ぐ渡り廊下へ向かう。そこには色とりどりの光があった。そこにペットボトルを照らしてみる。

「青春小説のワンシーンかな?」

 そう一人でつぶやいたのだった。



 文化祭二日目には花火がある。夜九時に学校のグラウンドで大きな花火があるらしい。

「氷雨ちゃん、どうする? 花火行く?」

「あー……ごめんなさい予定あるからその日は行けないかも」

「何か用事あるんだ」

「うん。文化祭終わった記念にご飯外で食べるらしいんだ」

「そーなんだ! 楽しんでね!」

 嘘だ。私はとてつもなく優しいクラスメイトに嘘をついてしまった。花火が嫌なわけではない。

(みんなと同じような青春で自分は満足できるのかな)

 厨二病が抜けていなかった。花火を見るのは確かに感動的だったがそれだけじゃあ私の想像していた『青春』は満たせない気がする。覚悟を決めてスマホを開いた。


『明坂天文台』


 私はスクロールして時刻表を確認する。

「七月十三日……よし、ちょうど被ってる」

 天文台は決まった週の華金と土日に天体観測ができる。とても楽しみにしていた。

 親には嘘をついて花火を見るという話にまとめていた。

 そしてまた一件のメールが届いた。

「『一緒に回るのがダメなら花火見ない?』って私はもう見ないんだよ!!」

 私はただ一言ごめん。と返してスマホを閉じた。


 自分の何かを変えるため。私は最終日の日曜日に天文台に行く。そして星を見る。私は「えいえいおー」と一人で士気を上げるのだった。



 七月十二日。文化祭が始まった。憂鬱さと楽しさを両方抱えながら私は学校へ向かった。展示をする教室に入るとまず大きなトランプが目に入った。私たちのクラスがするのはイカサマとカジノのミックス。

「はあ」

 おかしい。私は教室内装飾をしていたはずなのに。クラスの可愛い女の子と内装を考えていたはずなのに。私は本日のシフト表を見て改めて絶望する。

「あぁシフト入ってる」

「じゃんけんで負けるって氷雨も結構運ないよねー」

 そう言うのは昨日、私と一緒に内装を考えていた女の子の友達だ。シフトを入れていた人がグループラインで突然の熱を訴えたのだ。明日は来れるそうだが今日に関してはどうしようもない。だから通話を繋いでじゃんけんをしたのだ。

 結果は大負けであった。クラスみんなで円陣をして早速仕事を始めた。



「あー疲れたー……」

 電車の中。土曜日ということもあってか私のいる車両には誰もいなかった。私は独り言を続ける。

「今日は天文台までの道のり確認するかー」

 仕事は結構楽しかった。審査のための先生が来るのは胃が痛かったが、人がたくさん来ているのは悪くはない。天文台までの道のりを想像して喜ぶ。地下鉄の階段を登り、自転車にまたがって都市部に向かう。親は何時に帰ってくるかを把握していないから私は自由だ。何かものすごく嬉しくなって好きな曲を歌った。

「越えてーゆーくー遥かー夏よー」

 青空があった。私はそれを懐かしげに見た。風が吹いて大変心地いい。


「夏、来たる。今年は楽しそうな青春が送れたらいいなあ」


 私の少し不思議な夏が始まる。そう自信を持ってペダルを漕いだ。

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また夏が来る 駱駝視砂漠 @TaroSab

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