幽霊じゃありません、あの世の公務員です
@fuyu_ha
第1話 確認対象:二〇一号室
「あ、君が新卒の◯◯さんだね?部長の津田です。よろしく。」
「え?現世に幽霊っているのかって?急な質問だなぁ。」
「そりゃ君ね…」
*****
「……これ、マジでヤバくない?」
都内某所。ある一人の大学生のスマホを皆で覗き込む。
そこに写っているのは昨夜行った廃病院で撮影した一枚の写真である。
ある病室の窓際に人影がうっすら写っている。
その様子は鬼気迫った表情で窓枠に手をかけ今にも飛び降りようとしているように見えた。
写真はすぐさまSNSにアップされ、
「何度も飛び降りを繰り返す地縛霊」としてちょっとした話題となった。
*****
時は遡ること1日前の廃病院。それは街外れにぽつんと残っていた。
正式な閉院理由を知っている者はいない。
ただ「古い」「夜は近づくな」「昔、何人か死んだらしい」という、心霊スポットに必要最低限で非常にざっくりとした噂だけが都合よく揃っている場所だった。
大学生の男女が廃病院に向かう理由はだいたい以下の3つだ。
・暇だから
・夜だから
・カップル誕生のチャンスだから
先程紹介した廃病院の201病室には幽霊が出ると言われている。
一番奥のベッドで写真を撮ると幽霊が映るのだそう。
そんなベタベタな噂があるのだ。
夜で暇で「ちょっと雰囲気の良い何かしらのチャンス」が起きないかとわくわくしているこの大学生男女4人組も例に漏れず、噂の病室に向かったのである。
深夜2時。廃病院の二階は思ったよりも明るかった。
懐中電灯を点けるまでもなく割れた窓から街灯の光が差し込んでいる。
「ここが201病室だって」
ドアの横に残った部屋番号を見て誰かが声を上げた。個室である。
白かったはずのプレートは黄ばんで、数字の縁だけが妙にくっきりしている。
「こえー…俺幽霊とか見たことねぇよ」
「ちょっとまって…なんか音しない?」
「やめろって。で、誰が入る?」
「え、私やだよ」
「じゃあ俺と腕組めば怖くないよ」
…そんな甘酸っぱくも周りから見れば何の徳もないやりとりを一通りし終えると、恐怖も段々と和らいでくるものである。
四人は恐る恐るも楽しそうに病室へと入りカーテンが掛かっているベットへ近づく。
大学生Aがカーテンを勢いよく開けると、そこにはホコリを被った古いベットがあった。
そのベッドは現実よりもずっと“それ”らしく見えた。影が濃く奥行きがあり、何かがいるような気配だけが増幅される。
雰囲気として最高であり、恐怖を感じることこの上ない。
先程まで余裕をかましていた大学生たちも静かになってしまった。
「とりあえず写真撮ろ。証拠」
「はいはい撮る撮る」
恐怖を拭うようにそそくさとスマホのカメラが起動される。
フラッシュは切ったままだ。
光ると“それっぽくない”という、よく分からない理由からである。
「はい、撮るよー」
カメラが静かにシャッターを切る。
「……今、変な音しなかった?」
「やめてよ!」
「気のせい気のせい」
「写真撮れた?」
「たぶん」
誰もすぐには確認しなかった。その場では何も起きていないことにしたかったからだ。
やはり内心怖いのである。
軽口を叩きつつも彼らはそそくさと家に帰り朝まで飲み明かした。
その写真に“ナニカ”が写っているとも知らずに。
*****
時は遡ること1時間と数十分前。
幽谷 灯、この物語の主人公となる人物は深いため息をついた。
細身で中肉中背。昨日入社したこの新卒の男の仕事内容は単純だった。
現世に赴き確認をする。ただそれだけ。
それだけなのだが。
―――――――――――――――――――――――――――――――
■依頼概要
依頼先:現世対応管理局 亡者依頼案件に係る現世事実確認及び記録管理統括部 記録管理課 第四確認室
依頼元:地獄裁判所 第二審部
対象者:◯◯県◯◯市…◯◯病院201病室で死亡した元患者(匿名)
案件種別:裁判妨害案件(中度)
■ 問題点
対象者は死亡後、裁判所に転送された直後から
一貫して判決進行を拒否している。
拒否理由:病室で読んでいた小説のラストを知りたい
■ 詳細
・当該小説は対象者が亡くなる直前まで読んでいたもの
病室のベッド脇に置かれていたが途中までしか読まれていない
・「小説のラストを知るまでは成仏できない」と発言しており
牛歩、座り込み、黙秘などして判決進行を妨害している
■ 確認課への依頼内容
・201病室に残された小説の内容を把握し報告書にまとめる
■禁止事項
・現世人との接触禁止
・物品の移動禁止
―――――――――――――――――――――――――――――――
「現世対応管理局 亡者依頼案件に係る現世……長い! 名前長いんだよもう!
えっと、小説のラストが気になりすぎて裁判を妨害してる?くだらない!!」
誰もいない病室で依頼書をパンパン叩きながら文句を言う。
静寂? 知った事ではない。
「えっと…本だよな…え、どこ!?」
棚を開け、引き出しを覗き、カーテンの向こうまで確認する。
「ない! ないないない! 場所合ってるよね?!」
そのときだった。廊下の奥から、話し声が聞こえる。
「ここが201病室だって」
ちらりと病室の入口を覗くといかにも人生が充実していそうな大学生4人組の男女がそこにいた。
所謂陽キャと呼ばれる存在で、灯には眩しい存在である。
「やばっ!」
幽谷は勢いよく立ち上がり、頭をカーテンレールにぶつけた。
「痛っ!? いや今それどころじゃ――」
灯は慌てて胸元にある存在希薄化装置のスイッチを入れる。
グリーンに点灯し始めた。まるで3分間しか活動できない某ウルトラな男のような出で立ちだ。
(これで大丈夫だ。現世の人間に自分は見えていないはずだ)
先輩から渡されたこの装置、通称「薄くなるヤツ」があれば現世の人間には存在を察知されない。
だがこの装置は3分のみ使用可能で長くは使えない。
そこも某ウルトラな男をリスペクトしての仕様だろうか。謎である。
「今のうちに退散しないと…」
規定では、人の接近を感知したら即離脱しなくてはいけない。
「えっと書類と、リュックと、ペンと…触ったものは元に戻さないと…ええとどうなってたんだっけ!?!?」
…なのだがこの男、新卒なので恐ろしく手際が悪いのである。
手際が悪いに決まっている。なぜなら本日が初出勤なのだからそんなものだ。
ぞろぞろとベットへ近づく四人組。
大学生Aは勢い良くカーテンをシャーと開ける。
大学生Aの眼前には今まさに退散しようとする灯の顔。今にもkissして何かが始まりそうな距離感である。
『おわーーーーーーーーーーーーッッッ!?』
灯は慌てて両手で口を塞いだが、薄くなるヤツを起動中なため相手には何も見えず、聞こえない。
『び、びっくりした…』
2つの意味でドキドキを隠せない灯を尻目に、何も知らない大学生A。
これでは立場が逆である。
「とりあえず写真撮ろ。証拠」
「はいはい撮る撮る」
灯がいるとは知らずにスマホを構えてベッドを撮り始める。
『うわわわわわわわぁ!?ムリムリ!!!!』
慌てて窓から飛び降りる。と同時にシャッター音がした。
危ない危ない。いや、装置が起動しているので映ることはないのだが。
この男、何分新卒であるため場数が圧倒的に少ないのだ。
「……今、変な音しなかった?」
「やめてよ!」
「気のせい気のせい」
「写真撮れた?」
「たぶん」
病室に残る大学生達は満足したように足早に去っていったようだ。
『はぁ…はぁ…あ、危ない…いや、危なくないけど。先輩には“絶対に撮られるな”って言われてたし…この装置のお陰だな…はは…』
胸元についた薄くなるヤツを指先でなぞりながら地面に手をついて荒くなった息を整える。
電池切れにより効果がなくなっている事も知らずに。
*****
「え?現世に幽霊っているのかって?急な質問だなぁ。」
「そりゃ君ね、いないに決まっているじゃないですか」
「――いるとしたら、確認業務上の不備ですよ」
こうして現世には「何度も飛び降りを繰り返す地縛霊」という怪談が生まれ、
確認課の始末書が一枚、増えるのであった。
幽霊じゃありません、あの世の公務員です @fuyu_ha
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