第11話 主人公はルート攻略に頭を抱える

 女神様、貴女のご好意は私をどんどん『食用ルート』へと導いております。

 お願いですから、私に平穏な人生をおくらせて下さい……。



 イベントの報酬により『恋愛ルート』を解放してしまったミアは『人間になること』に加えて、『攻略対象の男性と結ばれること』の二つを叶えなければならない羽目になってしまった。

 

 相手はミアを『国を脅かす喋るウサギ』と疑うジル・ハーソン。

 どうやら報酬を受け取る際の三つの選択肢が攻略対象を決めるものだったらしい。


(よりによって彼だなんて……)


 既に好意をもってもらえるような状況ではない。

 寧ろマイナスイメージからのスタートだ。

 『食用ルート』まっしぐらな現状に、ミアはまだ立ち直れずにいた。



 するとドアの向こうからコツコツと足音が聞こえる。

 ジルが戻ってきたのかもしれない。


「クロノ、私が良いって言うまで隠れてて!」


「え? 急にどない……」


 次の瞬間、ミアの言葉通りクロノはまた金属音をたてミアの前から姿を消した。

 強く願えば使い魔の意思より主の意思の方が優先されるようだ。

 

「おい、ちゃんと待ってたか?」


 何やら入った皿を持ち部屋に入ってきたのはやはりジルだ。

 ミアは何とかクロノの姿を隠すことが出来たと安堵の溜息をついた。


「コレをもらってきたんだが食えるか?」


 そう言ってミアの前に差し出されたのは緑や赤といった鮮やかな彩りで盛られた野菜スティックのサラダだった。

 人間だった頃はサラダなんて好きではなかったが、今ではそれすらも恋しくて仕方ない。

 転生前によく食卓に並んでいた馴染みのある瑞々しい野菜達を見て、ミアは感動して齧り付いた。

 

「しっかり食っとけよ」


 そう言ってジルはミアの頭を撫でた。


 報酬の『一日三食』はきっとこの事なのだろう。 

 できればいつかケーキも食べたい。

 ウサギの体はケーキが食べられるようにはなっていないようなので、それは人間になった時のお楽しみだ。


 寝床と食事とを確保できたのは良かったが『恋愛ルート』だけはいただけない。

 そもそもウサギがどうやって人間の男性を攻略すればいいのだろうかと頭を悩ませる。

 転生前でも彼氏など作ったことも無かった自分にとっては、勉強もせずに有名大学を受験するようなものだ。 

 全くできる気がしない。


 もぐもぐと口を動かしながらチラリと目線を上げると、ジルがこちらを見ている。

 漆黒の髪からのぞくハチミツ色の瞳と長い睫毛。

 スッと通った鼻筋に薄い唇。

 初めて見た時にも思ったが綺麗な顔立ちだ。

 そんな人と自分が結ばれるなんて嬉しい話だが、やはり自分では釣り合わない。

 それ以前に、不可能ではないだろうか。



「ねぇジル。 貴方普段は何してるの?」


「事務仕事だったり、命令が下れば今日みたいに討伐や探索に出たり、稽古つけたり……かな」


「稽古をつけるって、ジルは教える側なのね。 若そうに見えるけど、実は三十超えてる?」


「まだ二十二だ」


「そうなの?! 一体何者……」


「風を司るアネロス騎士団長、ジル・ハーソンだ」


 それを聞いて、ミアはポロリと食べかけの野菜を皿に落とした。

 この国の事にまだ詳しくなくても『騎士団長』という地位がスゴイ事ぐらいは流石に解る。


「何……このハイスペック男子は……」

 

 思ってることがつい口から出た。


「ハイ……? 何言ってるのか知らないが、別に大して珍しくもないぞ。 『水』や『火』の団長もまだ二十代だ」

 

 いやいやいや、私の知ってる二十代は管理職すらまだまだで必死に働いてる年頃ですよ。


 ミアは自分の常識がこの国の常識に当てはまらないということを理解する。

 そして益々自分とは釣り合わないということも解り、大きく溜息をついた。


「なんだ、もう終いか?」  


 ジルはミアの口元に付いた細かい野菜を指で拭った。

 『ご飯粒ついてるぞ』なんて少女マンガのイケメンがヒロインにする場面を思い出して卒倒しそうなミアを余所に、ジルは残った野菜スティックを噛りながら皿を下げた。


「明日もウサギ探索だから無理だが、明後日なら昼まで事務仕事の予定だから時間を見つけて例のドラゴンの所に連れて行ってやるよ」


「ホント?!」 


「あぁ。 お前が『魔物を誑かさない』っていうんだからそれを証明してもらわないとな」


 そうだ、話すようにはなったがまだ疑いは晴れた訳ではない。

 今は『恋愛ルート』のことは一旦忘れて身の潔白を証明するのが優先事項だ。

 

「わかったわ! 証明してみせる!」


「よし、じゃあ今日は少し早いが寝るとするか」


「そうね。 私もお腹膨れて……ってきゃあ!!」


 突然目の前で寝間着に着替え始めたジルに驚き、ミアは思わず目を覆った。

 チラリと見えたのは、鍛え抜かれた彫刻のように美しい肉体。 

 外見からは細身に見えていたのに、そのギャップにミアは鼻血が出そうな程頭に血が上ってしまった。

 

「なんだ、騒がしいな。 ほら、寝るぞ」


 着替え終えたジルはホカホカになったミアを抱え寝床に入り、ミアを枕元に置いて眠りに付いた。


(え、一緒に寝るの……?)


 犬や猫ならともかく、ウサギでも寝床に上がるものだろうか。

 益々ジルが自分をどうしたいのか解らない。

 とにかく今後のことは明日ゆっくり考えるとして、今は心を無にして眠るのに専念するのだった。

 






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