第5話 主人公は歌うとフラグが立つ
ミアがこの世界に転生してから幾日か経った。
あれからミア達は、作ってもらった寝床を拠点にこの世界を探索して回った。
ミアが転生したジュエルスタンは竜王の加護により栄えてきた国。
火や水といった自然を扱う魔法はその竜王から与えられた恩恵だという。
しかし竜王といっても魔物である。
その為動物以外にも竜王に従順な魔物も多く、ミア達がいるこの森にも多く存在している。
数歩進めばキツネのような魔物に出くわしたり、ワシのように大きな鳥の魔物に空から追いかけられたり、動物の熊に襲われたりと、ウサギの姿でいるのは決して楽ではなかった。
しかしせっかく転生したのだから、一日でも長く生き延びて人生を謳歌したい。
その為にミアは毎日必死に生き抜くのだった。
(一体いつになったら、人間になれるのかしら)
先日解放された〈人間ルート〉。
どうやらミアが人間になる為に用意された女神様オリジナルのシナリオらしい。
しかしどうすれば人間になれるのか、何を攻略するのかといった情報は全くなかった。
いそいで作った所為か、要所要所が雑だ。
ただ今はクロノの加工魔法のお陰で食べ物にはあまり困らず暮らせている。
このまま平穏に暮らして人間になれたらラッキーだ。
けれど欲を言えばもっとやりたい事がある。
それはギターを弾く事だ。
ミアは転生前、毎日のようにギターを鳴らし路上で歌を披露していた。
沢山の歌や音楽に触れていた記憶が転生後の体にもしっかりと残っている。
それが益々愛らしいピンクの肉球をもつ手を疼かせた。
「ちょっとお疲れか? 今日はもう休んだ方がええんちゃう?」
午前中の探索を終え干し草のベットに暗い顔で寝転ぶミアの顔を覗き込み、珍しくクロノが労りの言葉をかけた。
(歌いたい……ギターを弾きたい……)
ぽつりと呟いた言葉を聞き、クロノは頭をカリカリとかいて『今日はそのまま待ってろ』と言って一人森の中へと消えていった。
ミアはその後ろ姿をぼんやりと見送った後、また干し草のベットに顔を埋めた。
そして覇気のない声でゆっくり歌を口ずさんだ。
暫くスローテンポだったが、歌っている歌詞の意味を思い出すとその曲の持つパワーを借りるように少しずつ曲調をテンポアップさせていく。
それを何度も繰り返し歌っていると、体も目覚め、伸びやかな声も出せるようになっていた。
そして最後には自分のモヤモヤした気持ちを吹っ切るように歌い切った。
ミアはフゥっと大きく息を吐くと、ガバッと起き上がった。
(大丈夫! 方法はきっとある筈だわ!)
今はギターに触れなくても、生きていれば何か良い策が浮かぶかもしれない。
幸いこうして歌も、その歌詞の意味もしっかり覚えている。
自分を奮い立たせる方法は幾らでもあるのだ。
(こっちの世界でもいつかギター弾いて歌うぞー!)
ミアが大きな声を出した途端、洞穴の入り口付近で何かがバタバタっと逃げていく気配を感じた。
(あら、動物が集まってたのかしら?)
ソロリと表に向かうと、入口付近には木ノ実やきのこなどが置いてある。
(クロノの仕業かしら。 きっとコレ目当てに集まってたのね)
そう解釈したミアは、置かれた木ノ実を洞穴の中へと運ぼうとした。
その時だ。
バキバキバキッ
突然、木を薙ぎ倒したような音が聞こえた。
その音にミアの耳がピクリと反応し、バッとその音の出処を探した。
グァオォォ…
すると向こうから、通常のクマよりも1.5倍はあると思われる異様な大きさのカギ爪をもつクマ型の魔物が現れた。
ミアがいる洞穴前に置かれた木ノ実やらに惹かれてきたのか、ドスンドスンと足音を立ててゆっくりとこちらへ近づいてくる。
(そんな、どうしよう……!)
外へ逃げそびれたミアは一先ず洞穴の一番奥へと身を隠した。
するとクマの魔物はミアの存在に気づき、追いつめるようにゆっくりと洞穴へと近づいていく。
そしてとうとう洞穴の入り口までやってきたクマの魔物は、ミアのいる洞穴に鼻を突っ込みスンスンと中の匂いを嗅ぎはじめた。
穴の中に届くその鼻息は荒く生暖かい。
ミアの中に戦慄が走る。
ミアはブルブルと身体を震わせながら、いよいよ死を覚悟した。
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