第4話 主人公は出会ってしまう ②

 鉢合わせたウサギが自分の容姿に見とれているなんて微塵にも思わないだろう。

 青年は整った眉を顰めながら、この三匹が集まっている理由を懸命に考えていた。

 ふとドラゴンの足元にハンカチが巻かれているのに気付き、青年は手を伸ばした。


「これは……」

 

 しかしミアとクロノは、触れさせないよう竜の前に立ちはだかる。

 それを見てようやく青年は理解したようだ。


「お前達、まさかその竜を助けようとしてるのか?」


 青年の言葉にミアとクロノはパァッと目を見開き、コクコクと頷いた。

 するとそれに応えるように青年も小さく頷いた。


「大丈夫だ。 俺はその竜を保護する為にきた人間だから安心しろ」


 よく見ると、黒を基調とした軍装で腰には剣を携えている。

 滲み出る気品の良さから、きっと本物の騎士なのだろう。

 ミアとクロノは顔を見合わせ、そろりと竜から離れた。


「よし、いい子だ」


 青年はゆっくりと竜を抱き上げ、傷ついた足の様子を伺った。


「やはりこの布はうちの団のものだな。 どこで手に入れたのかは知らないが、これはラッキーだ」


「騎士団長! ジル騎士団長ー!」

 

「ここらで狩りをしていた男の身柄も確保しました!」


「よし! 俺もすぐそちらへ向かう!」


 どうやらミア達を狙ってきた男も捕まったようだ。

 二匹は胸を撫で下ろし、青年に向かって頭を下げた。

 まさか我々の話を理解してるのか。

 青年は一瞬目を疑ったが、僅かに頬を緩めミア達に会釈する。

 

「礼を言うのはこちらの方だ。 この布のお陰でアネロス騎士団の手柄になる。 感謝するよ」


 青年が指でパチンと鳴らすと、ミア達を居場所を突き止めた銀色の豹が、風を纏って本物さながらの姿へと形を変えた。


((く、食われるーー!!))


 目を瞠る光景ではあるが、小動物からするとかなりの脅威である。

 

「俺の使い魔だから食ったりはしないぞ」


 確かによく見ると、クロノと同じく額にはダイヤモンドのような透明の宝石が埋まっている。

 青年の隣りで行儀よく座る姿からも、その従順ぶりが伺える。


「シエル、こいつらに上等な寝床を作ってやってくれ。 頼んだぞ」


 青年は豹の頭を撫でると、竜を抱いて呼ばれた方向へと歩いていった。


(元気でねー!)


 その背中を見送ると、ミアとクロノは安堵の溜息をついた。

 

(何者なの、あの人……)


「オレの事も見えてたみたいやし、こんな立派な使い魔がおるってことは相当な能力者なんやろ」


(きっとそうよね。 こんなにも立派な豹が使い魔になるなんて信じられない)


 プラチナの豹を撫でながら、ちらりとクロノの方を見ながらミアは呟いた。


「何やねん、その目は」


(あなたも早くこんなふうにカッコよくなって頂戴)


「ほんならはようレベル上げて、俺を立派にしてくれや」


 二人の口喧嘩を他所に、シエルと呼ばれる使い魔は周囲を見回し辺りを探索し始める。

 そして青年の言いつけ通り、小さな洞穴を見つけると、風の力を使って乾燥させた干し草をたっぷりと敷き詰めてくれた。


(すごい! これで夜も安心して過ごせる!)


 ミアは目をキラキラさせて使い魔に何度も頭を下げた。

 すると使い魔は満足気な表情で、風に巻かれてフッと姿を消した。



 まるで夢を見ているようだった。





 日が暮れ森も静かになってきた頃、ミアはふかふかの干し草のベットにごろりと寝転び、先程の出来事を思い返していた。

 

(赤い竜といい使い魔といい、すごいものを見ちゃったな……)


 合わせて出逢った青年の顔も思い出し、ミアはポッと頬を赤らめた。

 

 感情の機微は少なかったが、動物である自分達をちゃんと尊重しお礼の品まで残してくれた。

 何よりあの容姿だ。

 あんな素敵な男性に出逢えるなんて幸せ極まりない。

 思い出すだけでも未だに胸がときめく。

 ミアは干し草のベッドの上でウフフと転がりながら、その余韻にどっぷりと浸った。


 ピロリロン♫


(ん?)


 頭上から何やら電子音が鳴った。


「何や今の」


 同時にクロノの耳にも届いたらしい。

 クロノは額の宝石から女神様から預かったというガイドブックを取り出し、パラパラと頁を捲る。


「あ――――!!」


(何よ! 大きな声出して)


「なんか、項目が増えてきとる……」


 ミアは横からガイドブックを覗くと、炙り出しの様に文字が浮き出ているところだった。


________________


条件クリアにより、〈人間ルート〉解放


________________



 二匹は顔を見合わせた。


(〈人間ルート〉解放って、どういうこと?)


「他に説明文も見当たらんからオレにもわからん。 慌てて作ってたから細かい説明忘れたんちゃうか? 雰囲気からして人間になれそうやけど……っあ!」


(今度は何?)


「なんかオレのレベルが上がっとる―!!」


________________


使い魔クロノ:『音魔法』『加工魔法』習得

________________


 また二匹は顔を見合わせ、小首を傾げた。

 

(『音魔法』ってなんだろう。 こういうのって最初は『火』とか『水』じゃないの?)


「確かにな。 もしかしたらミアが歌ったからか?」


(そっか! 女神様が私の為に用意してくれた世界だから!)


「まぁ命懸けの時にこれが役に立つかはわからんけどな……、ん?」


(何? まだ何か書いてるの?)


________________


 注意:途中でのルート変更は不可。 外れた場合には〈食用ルート〉へと転向


________________



(食用、ルート……?)


 ミアの顔からサッと血の気が引いた。


 どうやらルートに沿ってハッピーエンドを迎えなければ、食用になるという最悪のバッドエンドを迎えるらしい。

 正しく死と隣り合わせ。


「これはガイドブック、いや、ステータスをまめに確認せんとあかんなぁ……」


 ウサギという不利な状況下から生き延びる為の人生ゲームが、いよいよ本格的にスタートした。


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