偉人相談窓口(※反省はしません)
@momolon
第1話 偉人たちの反省会は、だいたい反省しない
死後の世界というのは、もっと神秘的なものだと思っていた。
少なくとも、ここは違う。
白い雲も光の門もない。
あるのは、学校の視聴覚室によく似た部屋と、雑に並べられた丸椅子だけだった。
「……で? ここはどこだ?」
腕を組み、不機嫌そうに椅子へ腰かけている男が言った。
小柄な体格に軍服、三角帽子。
何よりその態度が――負けを認めるという選択肢が、最初から存在しない。
「死後の待合室、らしいわよ」
向かいの椅子で、女が優雅に足を組んで答えた。
微笑みは柔らかいが、視線は鋭い。
人も国も、感情ごと計算に入れるタイプの女王の顔だった。
「待合室? 皇帝を待たせるとはいい度胸だ」
「冬にも負けてた人が言う?」
「聞こえなかった」
――※都合の悪いことは聞こえない。
そのとき、部屋の隅から穏やかな声がした。
「ところで、“待つ”とは何でしょうか?」
いつの間にか立っていた老人は、簡素な服を着ていた。
落ち着いた目、柔らかな声。
そして、答えを出す気が最初からないという確信だけがあった。
「今それを考える必要はない」
皇帝は即答した。
「なぜ必要がないと断言できるのですか?」
「……」
女王は小さく息をつく。
「始まったわね」
その瞬間、天井のスピーカーがノイズ混じりに鳴った。
『偉人の皆さま、ようこそ。
これより、死後合同反省会を開始します』
「反省会?」
皇帝が眉をひそめる。
『生前の行動を振り返り、
次の世界への参考にしていただきます』
「私は振り返る必要などない。すべて最善だった」
一切の迷いもなかった。
「それ、一番反省しない人の台詞よ」
『なお、反省が見られない場合――』
「ちょっと待ちなさい」
女王が手を挙げる。
「その“反省”って、誰基準?」
『歴史的評価です』
「一番信用ならないわね」
最初に映し出されたのは、皇帝の過去だった。
雪原、撤退、敗走。
『大規模遠征の失敗です』
「編集が偏っている」
「冬よ」
「想定外だった」
「冬は来るわ」
次は女王だった。
豪華な船、権力争い、そして最後の場面。
『政治と恋愛の混同について』
「混同してないわ。全部政治よ」
『蛇は?』
「演出」
「演出で死ぬな」
最後に老人。
『反省点は?』
「そもそも、反省とは何でしょうか?」
スピーカーが沈黙した。
――※この時点で進行が止まった。
数秒後、諦めたように声が響く。
『結論。皆さまは、反省する気がありません』
「当然だ」
「歴史は勝者が作るものよ」
「無知の自覚こそ、知への第一歩です」
『よって処置を変更します』
三人が身構える。
『今後、あなた方には
“偉人相談窓口”の担当になっていただきます』
「最悪の組み合わせね」
「私に指図できる者などいない」
「ではまず、“相談とは何か”を定義しましょう」
――※この死後世界、
たぶん永遠に反省は始まらない。
偉人相談窓口(※反省はしません) @momolon
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