短編:中学時代は清楚系だった俺の幼馴染が高校でギャルになっていた話

柊梨

第1話

 厳かな雰囲気の体育館。そこには期待に満ちたおよそ300ほどの顔があった。


 そこに一人の女子生徒がいた。


 一言で言えば、派手だ。


 二言で言えば、とても派手だ。




 地毛を思わせる金髪に、がっつりとしたメイク。


 典型的なピアス。


 校則違反ぎりぎりの短いスカート。




「……おっ? 翔っちじゃん~。やっほー」


「ア、ハハハハハ……」




 反射的に手を振る。


 そして、警戒するかの如く、すぐに前を向いた。




 そして、脳内で頭を抱える。




(あれ~~? あいつ、あんなやつだっけ~~~?)




 と。




 ちらり、と後ろを向くと、自分の爪を見ながらのんきに鼻歌を歌っていた。


 入学式なのによく調子に乗れるな。




 脳内に記憶する姿と今の姿があまりにも違いすぎる。


 中学校までは、黒髪ロングに重めの前髪にぱっちりした目。


 アニメにでも出てきそうな清楚系女子だったはずだ。


 別人かと疑うも、名簿に掛かれた名前を見る限り、どう見ても同一人物。






 …………落ち着け、落ち着け。


 ゆっくりと、俺が最後に会ったあいつの姿を思い出すんだ……!






 例えば、そう。


 卒業式の分かれ道。


 同じ高校だが、一旦は中学生と言う関係が終わりを告げる日に、彼女――稲田鈴花はこう言った。




「…………高校生になっても、ずっと幼馴染でいようね、翔くん」






 すっげー、可愛かった。


 幼馴染ゆえに持てない二文字の感情が初めて芽生えた気がした。






 なのに。


 鈴花はこの容姿のまま高校入学すると思っていたのに、この状況だ。




 本当にどうした?


 気でも狂ったか……!?






 混乱していると、みんなが立ち上がった。




「何、何……?!」




 みんなが後ろを向いて、退出しだしたので、そこで俺はようやく、式が終わったのだと気が付いた。


 あわてて、俺も追従しようとすると、




「――ねえ、ちょっと待って?」


「断る」




 背筋がゾワっとする猫撫で声で俺の手をつかまれる。






「ねぇねぇ、翔っち、一緒に教室まで行かない?」


「行かない」


「まあまあ、そんな固くならずにさ~?」


「断る」


「そんなに私が変わったの嫌なの?」


「……」


「あっ、その反応、嫌じゃないんだぁ~~? ふぅ~ん?」




 ちょっと抵抗感のある口調で俺は、ばっと手を振り切り、式を後にしようとする。




「ちょっとまってよ、翔っち」




 すたすた、と駆け寄る音がしたと思ったら、




「やぁっ!」


「……っ……!? っも……」




 強制的におんぶをさせられていると気づいたのは、背中になにか柔い感触を感じてからだった。


 後ろから匂う、めっちゃいい匂い。


 人目をはばからず、鈴花は俺に抱き着いていた。




(まじで? なにをしてんの?!)




 頭の中が疑問符だらけである。




「へへへ」




 ばきばきと記憶の中の鈴花が壊れていく音がぁっ……!




 苦しくも、俺はすず(鈴花のあだ名だ)をおぶって4階の自分の教室に運ばなければならなくなった。


 目の端に映る金髪を見るたびに、俺は誰を運んでいるのだろうかと困惑して、すぐにすずを運んでいることを思い出す。




 ……ああ、周りの目が痛い。あの子何したの。犯罪でもしたの?という目だ。


 俺の高校デビューはどうやらここまでのようだ。






ーーー






「――東中から来た、稲田鈴花でーす。すずって呼んでくださーい。一年間どうぞヨロシク~」




 どうやら俺は変なやつと幼馴染していたらしい。


 目の前にいる人は、まさに……




「ギャルじゃん」




 教室の隅の、いかにもチャラい男子が代弁してくれた。


 そこまでは俺も同意見だ。だが、そのあとの発言がまずかった。




「男遊びメッチャやってそー」




 突如、すずは親の仇ぐらいに目を睨んで、ちっと舌打ちして、自分の席に帰ってきた。


 そして、小声で「お前も女遊び激しそう」と毒舌した。




 さて、これは俺の経験則だが、物事って言うのは大体、行ってほしくない方向に行くものだ。


 つまるところ……




「翔っち、うち男遊びなんかしないよね?」




 すずは俺の席の隣になった。


 俺の苗字は柿谷。すずの苗字は稲田。


 体育館で後ろの席だった時点で俺は気付いておくべきだったのだ……!




「あ、ああ。そうだな。すずは男遊びしてるの見たことないな」


「だよね!? やっぱり、翔っちはわかってるぅ~~」




 へいっ、とハイタッチ。




 うーむと腕を組み考える。


 議題はなぜすずはギャル化したのか、だ。


 答えはすぐに出た。


 垢抜けたかったのだ。




 ……。


 いや、分かるよ? 高校生になったら、中学生とは違う自分になりたいーだとか、散々いじってきたあいつらを見返してやるんだーとかそういう理由が大部分を占めていることは俺だってわかる。


 現に俺だって、それなりに頑張った。


 でも、ここまで変わることってある?




 顔の美形は同じまま、髪色と、メイクをした明らかに男子が大好きな体つきのギャルである。


 心なしか、声質も少し変えている気がする。




 俺としては昔のすずのほうがよかった気がするが、案外こっちも悪くないと思い始めていて、特に髪色を変えたことによる体のラインの出方とか、喋り方とか、こっちを見る視線とか……!


 頭をかきむしる。朝頑張ってつけたワックスなんてとうに消えていた。




「あ~っ! どっちも可愛いけどっ!」


「………………」




 あ、やべ。


 思わず思ってたことが口から。


 でも、口を押えた時にはもう遅くて、


 さくらんぼのように赤くなった頬を抑えるすずを見る目は止められなくて。




「………ばか」




 拗ねちゃった。   

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編:中学時代は清楚系だった俺の幼馴染が高校でギャルになっていた話 柊梨 @Shuri110957

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る