姉の影を追う

@nonoh

(読切)

 チリンチリンと音を鳴らしながら扉を開ける。

 一番奥のカウンター先を目指して、一瞬のためらいも無く歩き、席につく。


「いつものでよろしいでしょうか?」


 俺に向かってそう尋ねるのはこの店の店員。長いまつげにゆるく巻いた髪、顔はとても整っていて誰が見ても美人だと言う顔立ちをしている。


「はい、いつものでお願いします。」


 俺はこのカフェの常連客だ。おそらく一年ほど。そこまでの年月になっていないのはまだ俺が高校生なのだから仕方がない。これから何十年も通う常連になる予定である。

 コーヒとバニラアイスが出てくる。コーヒーにアイスをそのまま載せたものもメニューにあるが、2つに分けて苦さと甘さの両方を味わうのが俺の一年間でできたこだわりだ。

堪能し終えると、会計をしてそのまま外に出る。

「また来ます」「ぜひ」




 家の扉を開け、リビングの扉も開けると、双子の妹がソファーで座っていた。俺の顔を見るなり急に笑顔になって抱きついてくる。いつものことだ。

 静かだから、お母さんはまだ帰ってきていないらしい。


「おかえり、お姉ちゃん今日もいた?」

「うん。元気そうだった、いつも通り」


 抱きついて見上げながら俺に聞く妹___瑠衣を引っ張りながらソファーまで移動すると、瑠衣は抱きついていた手を離して、どうぞと席を先に譲る。2人分座るには十分すぎるのに先に譲った瑠衣の理由は言わずともわかる。

 俺は一番右端に座ると、妹の頭が膝の上に乗ってくる。義妹であればスペシャルイベントだったかもしれないが、俺達は双子でこれが日常なのだから、夢見る男子たちには申し訳ないがこの状況には特に何も思わない。


「港がお姉ちゃんを見つけてから一年くらいだっけ?まだ何も言ってないの?」


 瑠衣は俺の髪をいじりながら聞く。なんだか猫みたいだ。

 カフェの店員、あの美少女が俺達の姉___遺伝子とは不思議なもので、俺も瑠衣も人間離れした顔の良さを持っている。姉とは二年前に生き別れた......はずだったのだが、運がいいのか悪いのか、あのカフェで姉によく似た人物に出会ってしまった。

 生き別れたと言っても姉の遺体は見つかっておらず、俺達はあの店員こそが姉なのではないかと思っている。いや、願っているといったほうが正しいのかもしれない。


「言ったところで混乱するのがオチだ。もう少し情報を集めよう。」

「分かった!!」


 素直に返事する瑠衣。そのまま起き上がって俺の隣に肩を密着させて座る。


「お兄ちゃん、瑠衣疲れた〜」


 距離が近すぎて瑠衣の息がかかる。俺は反射で身を引いた。

 無邪気さとは真逆の、全てを見透かした目。

 瑠衣はまた俺に抱きつく。帰ってきたときのハグとはわけが違う、心が落ち着かない。

 無意識のうちに体がこわばる。

ガチャ、という音がして家の扉が開いた。


「ママー荷物持つよ」


 瑠衣は走って荷物を取りに行って、すぐに帰って来る。俺にしかみえない角度で舌をベッと出す。

 次に何が起きるかは考えないようにしようと固く決意する。

 俺は、ソファに座り込んだままだった事に気づき、急いで体を起こして瑠衣と荷物の整理をする。

 姉に似た人物がいることはまだお母さんには言えていない。

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