愚か者の選択-2

愚か者の選択-2




俺の保存食生活が続く。

埋められて、窒息死を繰り返して、気絶する。掘り出されて、喰い殺されて、生き返る。これのひたすら繰り返し。喰い殺されるときに、まれに蛇に丸のみにされるというありがたくないパターン変化がある。蛇に巻き殺される方が痛いので、獅子に喰われた方がマシだった。山羊は見ているだけだ。どうやら見た目通りの草食系らしい。


これで気が狂えたら良かったのだが、どうも気が狂うというのも一種の死亡判定扱いになるのか、全然狂えない。痛みに慣れることもないし、痛い目にあってハイになることもない。本当に嫌になる。

要するに、俺は地獄の最中にあった。




月日が経って、冬が到来した。生き埋めの窒息死に、凍死のパターンが増えた。全然嬉しくない。

相変わらず、化け物に掘り起こされて、喰われて、埋められる日々が続く。化け物にしてみれば、食料の無い冬場の保存食として、これほど都合が良い物もないのかもしれない。俺は、全然嬉しくない。

今日も、化け物に掘り起こされて、頭から喰われる。そして、生えてくる。そして、埋められる。いつものパターンだ。だが、今回はいつもと少し違うようだった。

化け物は、いつものように土でなく、大きい石を転がして、俺の上に落とそうとして来た。

「え、なんで?」

そう呟きながら、獅子の前足を見る。どうやら、2枚程度、爪がはがれているようだ。冬で土が凍結して、掘り返すのに一苦労。それで今回は岩で代用するつもりらしい。

(頭が良いな、コイツ)

そう思っていたら、岩が転がってきた、俺は押しつぶされた。俺は、また死んだ。



目が覚めると、岩に押しつぶされたままだった。かろうじて呼吸が出来る。どうやら、岩の抑えが甘かったようだ。とはいえ、脱出は出来そうにない。

(窒息よりもマシだけど、土の中よりも寒いな。今度は凍死か・・・)

あまりにも死に過ぎたため、俺は臨死ソムリエとなっていた。

そんなことを考えていたら、上から何やら声が聞こえて来た。化け物かと思ったが、どうも人の発する声のようだ。何を言っているのかは分からない。

「おーい!誰か!助けて下さーい!ヘルプミー!」

俺は、出せるだけでの声で助けを呼んだ。ボキャブラリーが貧弱なので、日本語と英語以外でのSOSは知らない。その言葉が届いたのか、人らしきものが二人、俺を見下ろしに来た。

一人が俺を見ながら叫ぶ。

「グルー・ログ・ザ・ガー!」

もう一人が、それに答えるように言う。

「キマ・クゥ・ガ? ゾ・ラグ・バッ!」

二人は窪みに降りてくると、岩をどけて、俺を助けてくれた。


「ありがとうございます!ありがとうございます!」

俺はひたすらに礼を言った。土下座なんて、生まれて初めて使った。

感謝が伝わったのか、二人は嬉しそうに俺を見下ろしている。



二人は、俺を山小屋に案内してくれた。山小屋の椅子に俺を座らせてくれて、一人が俺に、声を掛けてくれている。

「ギガ・ヴォ・ダッ? ゼ・ロ・ガ?」

何を言っているのか分からないが、心配してくれているようだ。俺は、泣きながら、言う。

「大丈夫です。全然、大丈夫です!」

もう一人が、何か椀を持って、俺に渡してきた。何か、粥のような物のようだ。持ってきた、その人が言う。

「ヌ・グ・ガァ」

俺は、それを両手で受け取ると、それを見つめた。何の粥かは分からない。二人も自分の分の粥を椀に注ぐと、うまそうに食べ始めた。再び、自分の手にある椀を見つめる。その時に、気がついた。

(俺、全然、腹が減っていない・・・)

今まで、化け物に喰われ、土に埋められる日々が続いていたので、気がつかなかった。その日々の中でも、腹が減ったと感じたことが無い。

そして、数か月振りであろう食事を目の前にしても、何の食欲も湧かない。

椀にある匙を掴んで、口に運ぶ。食べることが出来る。だが、何の感慨もない。喉には通っていくが、それだけだ。何度か、無表情で匙を運ぶが、相変わらず、何も感じない。

ふと視線を感じたので、顔を上げて、二人を見る。食べ終わった、二人は、俺をじっと見ていた。

「いやー凄い美味しいな。美味しいです!」

俺は、笑顔を作って、強引に匙を口に運んでいく。彼らの好意を無駄にするわけにはいかない。彼らも、そんな俺を、笑ったように見ている。

笑顔を作り、匙を口に運びながら、俺は考える。

(死ななくなったから、餓死もしなくなった。だから、食事を取ろうとする意欲が無くなった?)

この世界に来る前は、食べるのは好きだった。別にグルメでも何でもないので、コンビニのパスタとか、ハンバーガーなんかで満足できる口だった。だが、それらを思い出しても、何の感慨も湧かない。

食事をとりながら、自分の背筋が冷たくなっていくのが分かった。

(俺は、どうなっちまうんだ・・・)


そんなことを考えていたら、突然二人が立ち上がり、弓矢を取り始めた。

「え!?何!?」

そう思った刹那、突如として山小屋の木壁がくだけて、爪の付いた手が飛び出してきた。その手が俺を掴んで、壁の外に引きずり出した。地面に仰向けに叩きつけられて、天を仰ぐ。そこに居たのは、あの化け物。最早、見知りすぎて、悲鳴も出ない。

「お久しぶりです」

そう呟いた瞬間、俺は前足で叩き潰されて、死んだ。



目が覚めると、そこには化け物の身体があった。だが、動かない。手で触れてみても、反応が無い。

「死んでる?」

そう呟きつつ、化け物の身体を見渡す。数多くの矢が刺さっている。獅子と山羊の両目が射抜かれていて、蛇の胴体が切断されている。

「凄い・・・」

そう呟いて、後ろを振り返る。そこには、俺を助けてくれた人たちが、弓と斧をそれぞれ持って、息を切らせていた。

「お二人とも、本当に強いんですね。この化け物を倒しちまうなんて。また助けられました。ありがとうございます」

俺は土下座をしながら礼を言う。そして顔を上げて、二人を見る。

だが、その二人の顔は、恐怖に引きつったままだった。彼らの俺を見る目が、変わっていた。死んだ化け物以上の化け物を見るような目に。


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