「透明薬ー消えた令嬢を探せ!ー」
Peridot(pixiv:マツシマ)
音部探偵事務所1:掛川博士の巻
「ドーベルマンが噛んでいるものを取り上げると、それは死人の指だった」
「ヒッチハイクで乗せた乗客が、道の途中で忽然と消えた。彼女はすでに亡くなっていた」
「ブティックの試着室から妻が出てこない。不審に思った夫がバックヤードへ踏み込むと、そこで妻がレイプされていた」
「行方不明の子供の居場所を、占い師に探させた。占い師は、子供を見つけることはできたが、居場所を特定することは難しいといった。なおも問いただすと、彼は『お子さんは世界中にいます』と答えた」
こうした都市伝説は、古今東西問わず存在するものだ。そして、しばしば好んで語られる傾向にある。それは、あるいは恐怖を娯しむ心理から、語られるのかもしれない。
「音部センセイ、あの依頼マジで受けるんですかあ?」
帰りの車中で、助手の
「なら君が断ってくるか?今更つべこべ言ってもしょうがないだろう。前金は受け取ってしまったんだし。」
ダットサンのハンドルから目を離すことなく、探偵の音部は答える。このダットサンも、知り合いの知り合いのそのまた知り合いから譲り受けたものだった。依頼がなくては仕事にならないのは私立の探偵業につきもののことだが、この音部探偵事務所も例外ではなかった。
「透明になれる薬だかなんだか、研究をしていたら娘がいなくなったって…荒唐無稽ですよコートームケイ。そんなの、どうやって解決するっていうんです。」
「まあ…そこは適当に調査らしいことをしておくさ。」
依頼主の
その研究は娘の真莉子の手伝いで順調に行っていたが、数年前のある日真莉子が失踪したらしい。警察にも届けたが、調査はごく短い期間のうちに打ち切られ、その後は取りあってはくれなかった、と掛川は説明する。
「失踪届は出ていますが、娘が見つかるまでは諦めるに諦められません。帰ってこい、というのは高望みかもしれませんが、せめて安否だけでも知りたいんだ。お願いです」
その落ち込みようは、確かに演技とは言えないほど悲壮なものだった。この依頼費用も、研究費用かどうかはわからないが、身を切るような思いで出しているのかもしれなかった。
「言いたいことはわかりますよ?でもなんとなく胡散臭いというか、なーんか担がれてる気がするんですよねえ。例の、『とある筋』とか言ってましたけどねえ。軍とか海外の機関とか、そういうことを言いたいんでしょう?まあ、透明になれる薬なんて欲しがるところはそんぐらいでしょうねえ。だからって…」
ペラペラ喋ります?んなもん、と高藤はぼやくが、
「それはね、僕も引っかかっているんだ。」
という意外な言葉に、助手席から探偵の顔を覗き込んだ。
「センセイ、そう思ってるんならなぜ断らないんですよ!」
「いやね、引っかかってると言ったのは、君のいうような胡散臭さのことじゃない。いや、うん…あるいはそれに通ずるものではあるんだが…」と、音部は言葉を濁した。
つまり、音部が依頼主から受け取った第一印象は、胡散臭さというよりももっと深刻なものだった。
−彼は
つまり、彼自身、無意識には透明薬など存在しないし、ましてそれが軍や他の機密組織からの依頼でないことなどは理解しているのだろう。しかし、彼はなぜかどうしてもその「透明薬」のことに固執してしまう。そのことに彼なりの理屈を編み出した結果、「自分は軍から依頼されている」という主張につながったのだろう、と音部は直感した。
このように直感したわけは、助手のいう如く、その軍とか機密組織、あるいは肝心の娘自身に当たるものの実態がなさそうだったからだ。掛川が以前依頼した警察もそのことに思い当たったのだろう、実態のないものを捜査することなどできないから、調査を早々と切り上げた、と解釈できた。
それが空気中に表出すると、それを嗅ぎ取った人間には「違和感」として伝達する。つまり、高藤が感じた、「胡散臭さ」というのもこれが正体だったのだろう。
だが、掛川はそんなことでは納得すまい。これが理由で、音部は依頼を断らなかったのだ。これほど変な依頼でもなければ、事務所に回ってこないのも事実ではあるが…。
なんらかの理由で掛川が焦燥状態に陥っており、それには心理的なケアが必要だ。彼をなんとか納得させる材料を探すことが、今回の調査になるのだと音部は説明すると、
「センセイはお人好しっすよお、」とまだもゴネながら、助手は座席の荷物を事務所へと運んだのだった。
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