第3話
夜明けの最初の光が、古びた木の壁に走るひび割れから差し込み、ムーランをいつものように眠りから呼び覚ました。
彼女は、祖父母の眠りを妨げぬよう、かすかな咳が時折聞こえる中、できる限り静かに薄い藁の寝床から身を起こした。
彼女の朝の支度は、手際よく、無駄がない。
竈に火を起こし、昨夜の残り物を温め、新しい薬を煎じて朝食の準備を整える。すべてが整ってから、ようやく祖父母を起こし、顔を洗わせ、食事と薬をとらせた。
「今日も勉強に行くのかい、ムーラン」
祖母は、粥を食べさせてもらいながら、優しく彼女の頭を撫でた。
「はい、おばあさま。今日は陳先生が“四つの王国の歴史”をお話ししてくださるんです。とても楽しみです」
ムーランは、目を輝かせて答えた。
「それはよい……しっかり学びなさい」
祖父が温かな声で言葉を添える。
「知識は、必ずお前の身についていく」
祖父母の世話を終えると、ムーランは古い書物一冊と、毛が抜け落ちた筆を掴み、毎朝通う場所へと駆け出した――村外れの学び舎へ。
そこは決して立派な学校ではなかった。
村の端にある、かつて放置されていた古い木造の東屋を、村人たちが少しずつ修繕し、貧しい家庭の子どもたちが学ぶ場として使っているに過ぎない。
この場所を支えているのは、ただ一人の人物の善意――官職を退いた老学者、陳先生だった。彼は報酬も求めず、子どもたちに学問を授けていた。
ムーランが到着した時、東屋の中はいつも通りの光景だった――混沌。
十数人の子どもたちが走り回り、玉遊びに興じる者、こっそり菓子を食べながら大声で話す者。
誰一人として、目の前の古い机に置かれた書物には目も向けていない。
教室の最前に、白髪の老学者が静かに立っていた。
七十を越える陳先生は、背をわずかに丸め、顔には深い皺が刻まれていたが、その瞳には今もなお、知恵と慈愛の光が宿っていた。
多くの者は、彼がこの無秩序な子どもたちに失望していると思うかもしれない。
しかし、違った。
彼がここに立ち続ける理由は、ただ一つ――今まさに東屋へ駆け込んでくる「唯一の希望」のためだった。
「先生! 来ました! 遅れてすみません!」
ムーランは前列の机に書物を置き、深々と礼をした。
陳先生の顔に、その日初めての微笑みが浮かぶ。
「構わぬ。祖父母の世話をしていたのだろう。座りなさい」
「はい」
彼女はきちんと座り、墨をすり、真剣に授業の準備をした。
「さて、静かに!」
陳先生は咳払いをし、声を張った。
「今日は我らの大地について学ぶぞ!」
その声は騒音にかき消され、多くの子どもは聞いていなかった。
だが陳先生は、もはや周囲を気にしていない。
彼の視線は、ただ一人、真正面でまっすぐ見つめ返すムーランに注がれていた。その澄んだ瞳に宿る知への渇望が、彼の教師としての魂を満たしていた。
「以前話したな。我らの地――『森龍の大地』は、四つの大王国に分かれている。ムーラン、覚えているか?」
まるで二人だけの世界のようだった。
ムーランは立ち上がり、はっきりと答える。
「はい。東の樹華王国、北の城壁王国、西の山岳王国、南の海原王国です!」
「見事だ」
陳先生は満足そうに頷いた。
「では、その四王国を結びつけているものは何だと思う?」
誰も答えられなかった。
騒がしさは続く中、ムーランだけが真剣に考え、首を横に振った。
「分かりません、先生」
陳先生は優しく微笑み、黒板に簡単な地図を描いた。
「四王国の境が交わる中心に、太古より存在する場所がある。歴史よりも古く、天を衝くほど巨大な石柱――」
その言葉に、わずかに教室が静まる。
「それは、すべての始まりであり、我らの世界を他と隔てる存在。
人々はそれを――『天魂の柱』と呼ぶ」
その名を聞いた瞬間、ムーランの身体を小さな電流が走った。
天魂の柱――
想像するだけで胸が高鳴る。
彼女は静かに手を挙げた。
「先生……
天魂の柱とは、何なのですか?」
沈黙が、東屋を包み込んだ。
その真っ直ぐな問いは、すべての子どもたちの意識を引き寄せた。
陳先生はすぐには答えなかった。
ムーランを見つめるその瞳には、誇りと喜びが宿っていた。
「良い質問だ、ムーラン」
静かな声が、教室に深く響く。
「今日の授業に、これ以上ふさわしい問いはない」
彼はゆっくりと彼女の前に立ち、子どもたち全員に向かって言った。
「よく聞きなさい。
これから語るのは、この世界の根幹――
すべての歴史の始まりなのだ」
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