星占いは追いつかない

宇宙(非公式)

1

 どんな光にも影がある。そしてどんな影にも朝がある。

「それはなんですか」

「コペルニクスの言葉です」

「あの?」

「その」

「初雪さんはコペルニクスが好きですね」

「私はコペルニクスが大好きなんですよ。彼がいなければ今頃人類は滅亡しています」

「初雪さんが言うならそうなんだと思います」

「そうなんです」

 初雪さんは無表情で、かつ自慢げに頷いた。初雪さんは3ヶ月前に転校してきた転校生で、なぜか僕は仲良くさせてもらっている。初雪さんの白い肌を夕陽が焼く。非日常の塊である初雪さんが、非日常の海である修学旅行の景色に溶けかけていた。

 ちなみに、なぜ今冒頭の名言を引用したのかは皆目見当もつかなかった。

「なぜ今さっきの名言を引用したんですか」

「『いつ言うか』ではなく『何を言うか』が大事んですよ、惑斗くん」

「はあ」

「今日はどうでしたか」

「どうって」

「楽しかったですか」

「めちゃくちゃ楽しかったです」

「そう」

 初雪さんの口が少しだけ緩む。殿を務める引率の先生が角を左に曲がる。それに続く生徒のダラダラした列も続いた。当然、その中の僕たちも従う。

「初雪さんは」

「今が一番楽しいです。君と話しているから」

「え」

「そしておそらく、夜はもっと楽しくなることでしょう」

「まさか、抜け出すんですか」

 よくないですよ、と注意する前に彼女が僕を指差した。指を刺すのは良くないですよ、とは流石に思わなかった。

「君と抜け出すんです」

 僕?自分を指差した。

「そう、君と」

「君?」

「私から見て君です。わたしは君と、夜の街に繰り出したいんです。君といられるのも残りわずかですし」

 確かに、この修学旅行が終わってしまえばあとは受験勉強三昧だ。それはきっとすしざんまいと双璧を成し、日本をざんまいの恐怖へと陥れることだろう。

「でもバレたら」

「そんな悠長なことは言ってられません」

 初雪さんは想像以上に焦っている様子だった。

「何でそんなに焦っているんですか?」

 初雪さんはしまったという顔をした、と思う。初雪さんは明後日の方向を見た。未来予知が済んだのか、こちらを向き直した。


「もう全部言います」

「はい」

「実はわたし、地球人じゃないんです」

 何とも言えない声を漏らした。何となくそうであってもおかしくないと冗談半分で思ってはいたが、本当にそうとなると話は違う。同じ話であってほしかったなと切に思うのであった。思ったら冷静さを取り戻した

「そして、この修学旅行が終わったら君たちとはお別れしなきゃいけないんです」

 電撃が走った。四足走行だった。衝撃という衝撃が悲しみという悲しみと共に、体という体を駆け巡った。僕は走馬灯のように初雪さんとの3ヶ月の記憶を思い出していた。気づいたら、僕は口走っていた。

「初雪さん」

「何ですか」

「ホテル、抜け出しましょう」

「危ないですよ」初雪さんはからかうように言った。

「そんな悠長なこと言ってられません」僕はきっぱりと言った。

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星占いは追いつかない 宇宙(非公式) @utyu-hikoushiki

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