また会えるから

みそ

プロローグ

プロローグ

病院のベッドに横たわった身体は冬枯れの木のように乾き、やせ細っていた。

私が最後に見たときよりもずっとずっと老いて、ちいさくなった祖父の身体。近づいてもあの日向の土のようなにおいはせず、鼻を突く強い消毒液のにおいがその時が近いことを無慈悲に告げているようだった。

何かの実験をしているみたいにいろんな管に繋がれて、ピクリともしない身体。

長年農業に励んできた祖父はずっと元気でいるものだと思っていた。私のイメージする祖父は、いつまでも元気に田んぼや畑で農作業に勤しんでいる。もう二度とその足が土を踏みしめ、その手が大地に触れることがないなんて、この姿を目の当たりにしても信じられない。

ひょっこり起き出して、「さてと、今日もやるかのう」といつもみたいにひょうひょうと言い出してくれないか期待してしまう。耳にこびりついた残響だけが、祖父の声を私に届けてくれる。

私を抱き上げたり、歩くときに繋いでくれたり、ほめるときに頭を撫でてくれた、耕した畑みたいにゴツゴツしていた手。不器用で照れ屋だから、そうして愛情を示してくれたことは数えるほどしかなかった。だけど私の身体には、祖父がその手でくれた愛情がまだ熱を帯びて残っている。

ベッドサイドに置かれた機械の平坦な電子音と、呼吸を助ける機械の音だけが、祖父が生きていることを伝えてくれている。まだそこに、命があることを。

年寄りのくせに病院嫌いだった祖父がこんな姿になっているのを見ていると、閉じたまぶたが熱くなってきた。自分は病院嫌いで滅多なことでは行かないのに、私がちょっとでも調子が悪そうにしているとおおげさに心配して、すぐに病院に連れて行こうとしていたのを思い出して。

私に呼びかけてくれるときのすこしおだやかになって、錆びた声が胸にこだまする。こんなにもはっきりと思い出せるのに、もうその声を聞けることはないのかもしれない。

滲んだ視界のなか、祖父はただ静かに、まるではりつけにされた聖者のような潔さで、そのときを待ち受けていた。

あかぎれて、長年の農作業でぶ厚くなったあの手が、こんなに弱々しくなるなんて。その手を握りしめたいと強く思うけど、私にそんな資格なんてありはしない。ただ手を強く握りしめて、こらえるしかない。

祖父は、私に手を握られることなんか、きっと望まないから。

あの日、祖父から差し伸べられたその手を跳ね除けたのは、私なのだから。なのにもう一度だけでもいいから、この手を握ってほしいと強く願ってしまう。

私はいつまで経っても身勝手で、どうしようもない孫だ。

何も言わず、動かず、ただ静かにその時を迎えつつある祖父が、滲んだ視界のなかでゆらめき、遠くにいってしまうようだった。

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