AI絵画は汚されて完璧になる

zakuro

第1話 リナ:絵の評価と自己評価

展示会の朝、私はいつもより早く目が覚めた。特別な理由はなかった。カーテンの隙間から入る光が、いつもより白く見えただけだ。部屋の空気は乾いていて、加湿器の水は空のままだった。


私はそのままベッドを出て、顔を洗い、コーヒーを淹れた。豆の種類は前日と同じだったが、抽出時間だけが少し長かった。


会場に向かう途中、地下鉄の広告が目に入った。宣伝には過剰な表現の羅列と、よく知らない顔の断片の並びが見えていた。

私はそれを見ながら、聖母の肌のハイライトについて考えていた。あの部分は、少しだけ数値を下げた方が良かったのかもしれないと思い、すぐにその考えを放置した。


展示会場は、いつもと同じ匂いがした。新しいキャンバスと、床用ワックスと、人の靴底が混ざった匂いだった。私の作品は、正面の壁に掛けられていた。


聖母は、静かにそこにいた。光は左上から入り、頬骨のラインは滑らかで、構図は対称からわずかに外れている。そのずれは、計算済みだった。


私は少し離れた場所から、その絵を見た。キャンバスの厚みが、今日はいつもより重く見えた。理由は分からない。照明の角度かもしれないし、単に私の立ち位置の問題かもしれなかった。


聖母の手は胸の前で重なっていて、指の長さは統計的に最も安定する比率だった。


人が集まり始めた。最初の声は小さく、断片的だった。


「きれいだね」「欠点がない」


誰かがそう言った。別の誰かは、スマートフォンで写真を撮り、すぐに画面を拡大した。

私はその様子を見ていたが、近づかなかった。近づく必要はなかった。


批評家らしい人物が、腕を組んで立っていた。彼は何度かうなずき、何かをメモしていた。ペンの動きは一定で、迷いがなかった。私はそのペン先を見ていた。インクの出方が均一で、紙に引っかかる音がしなかった。


「これ、完璧ですね」


唐突に声をかけられた。私は振り向き、誰だったかを確認したが、思い出せなかったので、すぐに忘れた。


「光が正しい」

「…ありがとうございます」


一言だけ挨拶を返す。

他に答える言葉が浮かばなかったわけではない。ただ、必要以上には語るまいと決めただけだった。


時間が進み、人の流れが変わった。会場の温度が少し上がり、空気が重くなった。聖母の白は、変わらなかった。


私は再び少し離れた場所に立ち、キャンバスの表面を見た。絵の具の層は均一で、ムラはない。その事実が、今日はなぜか強く目に入った。


床に落ちていた小さな泥の跡が、靴に踏まれて広がっているのを見た。誰かが外から持ち込んだのだろう。色は濃く、乾きかけていた。その形は不規則で、特に意味はなさそうだった。私はそれを見てから、もう一度聖母に視線を戻した。


観客の声は続いていた。


「美しい」「見事だ」


その言葉は、会場の中を循環していた。私はそれを聞きながら、キャンバスの重さについて考えていた。展示が終わった後、それを持ち上げるとき、どのくらいの力が必要なのか。そんなことを考えながら、私はそこに立っていた。

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