紙袋の中身はなんですか? 失恋女子が知らないうちに危ないバイトに巻き込まれていた件
山野小雪
第1話 闇バイトに巻き込まれてしまいました。
私の名前は、遠藤さくら。
今日、彼氏にフラれた。他に好きな女の子ができたらしい。
思えば、私はいつも雨の日にフラれている。
だから雨が好きではない。濡れるからではなく、嫌な記憶ばかり増えるからだ。
心に浮かび上がる不安やざわめきを、私は無理やり沈めこんだ。
沈めこまないと平常心が保てないからだ。
***
一人でふらふらと、当てもなく駅前の商業施設へ向かった。
ここは駅と直結していて、通学にも買い物にも便利な場所だ。
人通りが多く、いつも賑わっている。
――さて、これからどうしようか。
彼氏のことは思い出したくない。
突然の別れ話に気が動転しまい、スマホと化粧品ポーチなど身の回りの品しか持っていない。
一階の入り口付近で、少しスマホをいじっていると、一人の男性に声をかけられた。
「実はお願いがあるのですが……」
男性は二十代前半くらいで、私と年はあまり変わらないように見えた。
茶色のアウターの襟元から、水色のシャツが少しのぞいている。
最初はナンパかと思ったが、どうやらそうではないらしい
「もし可能なら、三階の女子トイレにいる妹にこれを届けてほしいのですが……」
そう言いながら、男性は紙袋をこちらに差し出した。
近くの衣料品店のロゴが入った、ごく普通の紙袋だ。
話を聞くと、男性は妹と二人でこのショッピングセンターに来ていたらしい。
ところが妹がトイレで下着を汚してしまい、個室から出られなくなったという。
そこで兄である彼に下着を買ってきてほしいと連絡してきたそうだ。
妹の指示で女性用下着を買ったものの、さすがに女子トイレには入れず困っている──そんな説明だった。
「買うのはセルフレジで助かったんですが、さすがに女子トイレには入れませんので」
男性は本当に困っているように見えた。
特に急ぎの予定もなかったので、私は引き受けることにした。
「妹は三階の女子トイレの中です。右側の一番奥の個室です」
スマホで妹と連絡を取っているのだろう。男性はスマホをポケットにしまうと、
財布から一万円を取り出して私に差し出した。
「これはお礼です。よろしくお願いします」
私は、その一万円を受け取ってしまった。
男性はほっとしたように、紙袋を私に渡してきた。
受け取った紙袋は、想像していたよりもずしりと重かった
***
男性に見送られて、私は、三階の女子トイレに向かった。
――なぜ一緒にトイレの前まで来ないのだろう。
しかし、この紙袋は、下着だけが入っているとは思えないほど重かった。
膨らみ方も、衣類の軽さとはどこか違っている。
妹がいるというのは、三階の女子トイレの右側、一番奥の個室だ。
私はトイレに着くと、まず一番手前の空いている個室に入り込んだ。
悪いとは思ったが、中身が気になって仕方がなかった。
紙袋の口はガムテープでしっかりと封がされている。――明らかにおかしい。
衣料品店で買っただけなら、こんな封の仕方はしないはずだ。
*
できる限り丁寧にガムテープを剥がした。
開封すると、一番上には新品の女性用下着が何着か入っていた。
そして、その下には――札束が詰まっていた。
紙袋の重さは、これのせいだった。ざっと数えてみた。五百万円ほどだろうか。
その瞬間、「闇バイト」という言葉が頭に浮かんだ。
おそらく私は、知らないうちに闇バイトの運び屋にされてしまったのだ。
こういう風に、リレーのように順番に手渡していくと聞いたことがある。
さきほど紙袋を託してきた男性も、闇バイトの一員なのだろう。
妹がトイレの個室で困っているという話も、きっと嘘だ。
私は、気づかないうちに、闇バイトに巻き込まれてしまったのだ。
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