顔のない森

イガゴヨウ

第1話

最後の問題の答えを書き終え、私はそっとノートを閉じた。

背筋を伸ばして大きく伸びをすると、思わず口が開き、欠伸が漏れる。


その拍子に、ふと視線が揺れた。


少し離れたテーブルに、私と同じくらいの年頃の女の子が座っている。


……かわいい。

まるで、女優さんみたい。


彼女は椅子に腰かけ、タブレットを前に、黙々と画面を見つめている。


ここは、私の通う学校から歩いてニ十分ほどの場所にある、ショッピングモールのフードコート。

放課後、私はここに寄って、一週間後に控えた期末試験の勉強をしていた。


もう一度欠伸をして、涙でにじんだ目をこすりながら、改めて彼女を見る。


見覚えのない制服だった。


この町は、決して大きくない。

制服を見れば、どこの学校かは大抵はわかる。それなのに、あの制服は知らない。

近くには、あんな制服の学校なんてないはずだ。


部活の交流で来ているのだろうか。

でも、一人だけというのも妙だ。


アルバイトの帰り――にしては、様子が違う。


彼女はさっきから、私と同じように、いや、それ以上に、タブレットを食い入るように見つめている。

とてもそんな風には見えない。


この町で、何か人が集まるようなイベントなんてあったっけ。


考えあぐねていると、彼女がふっと、ほんの一瞬だけ笑ったように見えた。


何か面白い動画でも見ているのだろうか。


……まあ、いいか。

そんなこと。


スマホに目を落とすと、時刻はすでに午後六時を過ぎている。

そろそろ帰ろう。そう思って立ち上がろうとしたとき、フードコートの一角にあるアイスクリーム店が視界に入った。


勉強、頑張ったし。

ご褒美くらい、いいよね。

疲れた脳には甘いものがいいって言うし。


そう思いかけて、私は小さく首を振った。


――そうだ。


ここへ来る途中、公園で見かけた黒猫のことを思い出す。

艶のある毛並みで、退屈そうにベンチの上に座っていた。


あの猫ちゃん、まだいるだろうか。


猫の好きなおやつを買っていってあげよう。

もしもういなかったら、クラスで猫を飼っている子にあげればいいし。


そう決めると、私はノートとタブレットを鞄にしまい、静かに席を立った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る