0.5%の恋
まんぷくねこ
第1話
「もう、好きじゃない。」
その言葉で目が覚める。
毎日というわけではないが、
気持ちが落ち込んだ日の夜は、
大抵この夢が僕を迎えてくれる。
あの日から四〜五年は経ったと思う。
それでも僕にとって君は、
まだ“特別”の枠からはみ出しそうもない。
君にとっての僕は、
当時ならば特別であったとしても、
今はもう違うのだろう。
社会人になって、僕は地元から東京へ出てきた。
俗に言う“お上り”である。
右も左も分からず、
毎日ラッシュに巻き込まれていたら
一ヶ月が過ぎていた。
自分が社会人になったことに、
誰よりも自分が実感を持てていない。
人の群れが流れていく現実から目を背けたくて、
上を見上げる。
皆が言う「空が狭い」という表現に、ようやく納得がいった。
本当に何となくだが、
現実から目を背けたかったこともあり、
今は社会人になる前の事を思い出す。
寝覚めの悪い夢の原因。
僕の最初かつ最新の恋の話。
いわゆる「コイバナ」である。
始まりは高校一年生の時だ。
受験というものがどういうものか知らず、
遊び倒した結果、志望校にギリギリで入ることになった。
ギリギリでも入れたことで、
そこで出会った友人とは今でも仲良くできている。
僕の高校は学年ごとに色分けされていて、
赤・青・緑の三色を使っている。
僕は緑の学年だった。
しがらみの多い中学生を卒業して、待ちに待った高校生。
当時の僕にとって高校生は“自由”なものだと思っていた。
その期待は、入学式で打ち砕かれた。
校則、校則、校則。
何もかもがルールのもとに成り立っている。
憧れていた屋上もなく、
生徒会も学生主体というわけでもなく、
携帯電話なのに携帯することすら禁止だった。
四月八日に砕かれた夢を拾い集めながら、
僕の高校生活は始まった。
四月の一ヶ月は地獄だった。
人見知りの僕はクラスに馴染めなかった。
自己紹介でも緊張して言いたいことの半分も言えず、
コンタクトレンズにしたが、
視力が悪かったせいで目を細める癖がついていた。
後日、友人に聞いたら、
かなり怖い存在になっていたらしい。
四月の間、僕は二つ隣のクラスに行き、
中学の友人にべったりくっついていた。
そのせいで余計にクラスに馴染めていなかった。
面白い授業など1つもなく、
僕は授業中に思わず机に伏してしまった。
先生は僕が馴染めていないことなど知る由もなく、
大きな声で僕を起こし、
笑い話にしようとしてくれた。
それでも僕を弄ったことでクラスの空気は、
春なのに雪が降るほど凍ってしまった。
反対に僕の体は恥ずかしさで真夏日となった。
気温の高低差で爆発するのではないかというほどの空気が毎日流れ、
僕は学校を辞めたいと思うほどになった。
入学して一週間ほど経ち、一人だけ友達ができた。
「シゲ」という男子だ。
シゲも僕と同じで、友達を作るのが遅い奴だった。
シゲがいたから学校を辞めずに済み、
そしてクラスに馴染むきっかけにもなった。
ゴールデンウィークの一日目に、
僕のクラスで親睦会をしようと学級委員長が提案したらしい。
「らしい」というのは、
僕に直接話が来たわけではなかったからだ。
誰とも連絡先を交換をしていなかったからである。
シゲとだけ交換していたので、僕はシゲから話を聞いた。
シゲはクラスにいる同じ中学だったクラスメイトから聞いたらしい。
直接誘われたわけではないが、
友達のいない僕とシゲは意を決して親睦会の場所へ向かった。……と、意を決する必要もなかった。
クラスの皆は驚くほど簡単に歓迎してくれた。
シゲと同じ中学の「コージ」が根回ししてくれたこと。
シゲも僕も話すと面白い人間だと思ってくれたこと。
シゲに関しては顔も割と整っていること。
だからこそ、僕たちに興味を持ってくれていたのだ。
四月の終わりに、なんとかクラスに馴染み始めた僕。
家族の用事もあったため、
早めに解散するグループとして親睦会をあとにする。
嬉しさで小躍りしたい気持ちを抑えながら歩いていた。
周りが少しだけキラキラしている。
クラスの子と話しながら駅まで歩いていると、
クラスの女の子の一人「ごっちん」が
誰かに声をかけられていた。
ごっちんは身長160センチ弱くらいで、
それより少し小さめの女の子のようだ。
マスクをしていたので顔はよく分からなかった。
じっと見ていたら目が合い、僕はすぐに逸らした。
ドキッとしたということと、
目つきが悪いと親睦会で言われたばかりだったから、
僕は思わず逸らしたのだ。
この時期にマスクということは、
風邪か花粉症だろうなと思いながら、
ごっちんをその子のもとに置いて皆で駅まで歩いた。
思い返した今、
初恋の始まりはここだったのかもしれない。
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