第9話 気づいたら、書いている

最初は、本当に偶然だった。


電話を待つあいだ。

会議が始まるまでの数分。

レジに並んでいる時間。


何かを書こうと思ったわけじゃない。

ただ、

手が空くと、

指が動いた。


スマートフォンのメモアプリに残るのは、

意味のない言葉の欠片。


——夜は

——終わりきらない

——名前のない色


繋がらない。

完成もしない。


それでも、

消さなかった。


消す理由が、

見つからなかった。


昔は、

書く時間を作っていた。


今は違う。


書いてしまう。


それだけだ。


書かないでいると、

生活が、

少しだけ雑になる。


言葉にしないまま飲み込んだ感情が、

別のところで、

引っかかる。


だから、

吐き出す。


整理じゃない。

救済でもない。


ただ、通す。

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