第2話「魔力果実とレベルアップ」
翌朝、俺は鳥のさえずりで目を覚ました――なんてことはなく、強烈な寒さと渇きで意識を取り戻した。
簡易テント代わりに被っていたボロボロの布には、うっすらと霜が降りている。
「さっむ……!」
ガチガチと歯を鳴らしながら体を起こす。
やはり、荒野の夜は甘くない。
昨夜食べた「魔力ポテト(仮)」のおかげで凍死は免れたようだが、これからの生活環境を整えなければ、いずれ限界が来るだろう。
まずは水だ。
人間、水がなければ三日と持たない。
俺は昨日の畑に目を向けた。
そこには、昨日収穫しきれなかったポテトの葉が、朝露を浴びて青々と茂っていた。
不思議なことに、周囲の乾燥した空気の中でも、この畑の周りだけ湿度が保たれている。
「植物が環境を変えているのか?」
俺は葉についた露を指ですくい、舐めた。
甘い。
ただの水滴のはずなのに、微かな魔力の味と糖分を感じる。
俺の推測が正しければ、この植物は地中深く、あるいは空気中の微量な水分を効率よく集め、自身の魔力で純化して蓄えているのだ。
「これなら、水問題も農業で解決できるかもしれない」
俺は新たな種を取り出した。
「ウォーター・メロン」。
名前の通り水分を多く含む瓜科の植物だが、通常は温暖な気候を好む。
この寒冷で乾燥した荒野では、芽を出すことすら不可能だ。
だが、俺には「品種改良」がある。
「よし、次はお前だ」
俺はポテトの隣に小さな穴を掘り、種を植えた。
昨日のポテトで魔力が底上げされたおかげか、今日は魔力の流れがスムーズだ。
イメージするのは、サボテンのような保水力と、氷雪地帯でも育つ苔のような耐寒性。
そして何より、根を深く、どこまでも深く伸ばし、地下水脈すら探り当てる探知能力。
「品種改良・極地適応」
魔力を注ぎ込む。
土の中で種が弾け、根が猛烈な勢いで地下へと潜っていく感覚が伝わってくる。
地中10メートル、20メートル……。
岩盤を砕き、砂利を押し退け、根は突き進む。
そして、ズズン、と微かな振動が足裏に伝わった瞬間、茎が地上へと伸び始めた。
ポン、ポン、と音を立てて実が膨らむ。
それはメロンというより、青白い水晶のような透明感を持った果実だった。
「できた……クリスタル・メロンとでも名付けるか」
俺はナイフで実を切り取る。
果肉は透き通っていて、見るからに水分がたっぷりだ。
一口食べると、キンと冷えた水が喉を潤した。
「ああ~、生き返る」
しかも、ただの水ではない。
飲むだけで頭の中の霧が晴れ、視力が良くなった気がする。
遠くの岩肌の模様までくっきりと見えるのだ。
「ステータス確認……なんて機能はないけど、明らかに身体能力が上がってるな」
俺は立ち上がり、軽くジャンプしてみた。
それだけで、自分の背丈を優に超える高さまで跳躍してしまった。
「うわっ!?」
着地でバランスを崩し、盛大に転がる。
痛くない。
体が軽くて丈夫になっている。
やはり、俺が作った作物は、食べた者の身体能力を恒久的に向上させる効果があるようだ。
魔力を肥料にして育てた結果、その魔力が濃縮還元されて実り、それを摂取することで肉体が強化される。
いわば「食べる経験値」だ。
「これ、とんでもないことだぞ」
もしこれが世間に知れたら、戦争の道具にされかねない。
あるいは、不老不死を求める権力者に狙われるか。
追放された身としては、面倒ごとは御免だ。
「あくまで俺は、静かに農業をしたいだけなんだ」
とはいえ、この力を使わない手はない。
俺はこの過酷な荒野を開拓し、快適なマイホームを建てる野望がある。
そのためには、俺自身のパワーアップが不可欠だ。
俺は残りのポテトとメロンを平らげると、再びクワを握った。
力が湧いてくる。
昨日は硬くて苦労した地面が、まるで豆腐のように柔らかく感じる。
一振りで深く土が掘り返され、作業効率が段違いだ。
「楽しい……!」
俺は笑みをこぼしながら、畑を拡張していった。
畝を作り、石を取り除き、魔力を注ぐ。
その作業の繰り返しが、何よりも心地よい。
昼過ぎには、畑の面積は昨日の十倍にも広がっていた。
多様な作物を試す準備は整った。
次は住居だ。
木材はない。石材を運ぶ手段もない。
なら、どうするか。
答えは決まっている。
植物で作ればいい。
俺は「アイアン・ウッド」の種を取り出した。
建築資材として使われる硬い木だが、成長には数十年かかる。
それを、魔法で強制的に成長させ、さらに形状をコントロールする。
「品種改良・構造形成」
俺は四隅に種を植え、魔力を糸のように操って、成長のベクトルを制御した。
急速に伸びる幹と枝が、互いに絡み合い、壁を作り、屋根を編んでいく。
生きた木でできた家。
隙間は蔦で埋め、断熱性を高める。
一時間後、そこには小さなログハウス風の小屋が完成していた。
葉が茂る屋根は雨風を凌ぎ、壁は生木の温かみを持っている。
「完璧だ」
俺は完成した我が家を見上げて満足げに頷いた。
これなら、夜の寒さも怖くない。
水も食料も住居も確保した。
たった二日で、死の荒野に文明の灯がともったのだ。
だが、俺はまだ知らなかった。
俺が畑に注ぎ込んだ膨大な魔力が、地下水脈を通じて広がり、荒野の生態系そのものを刺激し始めていることを。
そしてその甘美な魔力の香りが、遠く離れた場所に住む「ある存在」の鼻を刺激してしまったことを。
空の彼方から、風に乗って低い唸り声が聞こえた気がしたが、俺は作業の音にかき消されて気づくことはなかった。
俺はただ、明日は何を植えようかと、ワクワクしながら種袋をあさっていた。
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