星の音階を紡ぐ

第10話 最後の夏の日

 イヤホンがワイヤレスであることを、少しだけ残念に思っていた。


 鮮やかな青一色の空。深い緑の香り。

 高校二年、一学期の終わり。

 桜夜と二人並んで歩きながら、一つのイヤホンで桜夜が好きだという歌を聞く。


 ……なぜかタイトルを思い出せない、その歌を。


「ね? いい歌でしょ?」


「ああ。でもちょっと切ない歌詞だな」


「そこもエモいところじゃん? ……でも、本当に大切な人と離れ離れになっちゃったら……すごく寂しいだろうな」


 桜夜は数歩だけ小走りで斗悟の前に出て、くるりと振り返った。


「私、寂しがり屋だから。斗悟、勝手に遠くに行ったりしないでね?」


 木漏れ日を浴びた桜夜の笑顔は、まるで太陽そのもののように輝いていて。


 抑えていたはずの想いが、胸の奥から溢れ出す。


「当たり前だろ。オレはずっと、桜夜の傍にいるよ」


 桜夜の瞳が驚きに見開かれ、頬が朱に染まった。


「それって……どういう、意味?」


 心臓が跳ねる。


「……オレは」


 桜夜が好きだ。

 それを……いつまで躊躇ってるんだ。

 

 絶対に桜夜を世界一幸せにする。


 そんな当たり前のことを、今この瞬間に誓えないような奴が――桜夜に相応しい男になんか、なれるわけがない!


「オレは桜夜とずっと一緒にいたい。オレは……オレは、君のことが――!」



 桜夜との想い出は、そこで途切れる。


 告白のまさにその瞬間に、斗悟は女神イリーリスによって異世界ロイラームに召喚され、桜夜とは離れ離れになってしまったからだ。


 奇しくも異世界での冒険は、斗悟に大きな経験と自信を与えてくれた。現実世界に帰ったら、今度こそ胸を張って、桜夜にこの気持ちを伝えられると思っていた。


 ――そう、思っていたのに。

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