第2話 勇者トウゴ最後の戦い

「終わりだ――魔王!」


 勇者・斗悟とうごと仲間達の連携攻撃が、ついに魔王の特権技能ユニークスキルを打ち破り、魔王の体が爆散した。

 だが勝利の余韻は、すぐに掻き消える。


「みんな、上を見ろ!」


 崩れ落ちた魔王城。

 その天井の向こうで、青空が水面に墨を注いだがごとく、漆黒へと染まっていく。


 魔王の体を構成していた膨大な魔力が、再び収束を始めている――いや、それだけではない。

 世界中の至る所から、闇の魔力が立ち昇っていた。


「支配下にある全ての魔物から魔力を吸収しているのか……⁉︎」


「しぶてえな、くそッ!」


 戦士ランゲルが舌打ちする。

 しかし魔法使いウィラードは、「むしろ好都合です」と冷静に告げた。


「魔王軍の魔物の大半は、魔力によって姿を変えられた『元人間』だ。その魔力を魔王が吸い上げたのだとすれば――彼らは人間に戻ります」


「そりゃあいい。じゃあ後は……コイツをぶっ倒すだけだなぁ!」


「アンタよくそんな楽観的でいられるわね。まあでも、やるしかないか……!」


 好戦的な笑みを浮かべ、戦斧を振りかぶるランゲル。

 聖女ルチアも覚悟を決めた表情で、聖杖を構える。


 空を染めた闇の魔力はやがて、巨大で禍々しい黒竜の姿を生み出した。

 凄まじい咆哮が大気を揺らし、膨大な魔力の余波が勇者達を震撼させる。


「これは、凄まじい……」


「だからって負けられないわよ!」


「ああ。やるぞみんな、これが最後の戦いだ!」


 斗悟は勇者の剣を頭上に掲げ、叫んだ。


「オレたちに想いを託してくれた全ての人々よ……!

 力を貸してくれ!」


 勇者として現世から異世界ロイラームに召喚された少年、会崎斗悟あいさきとうご

 彼には世界を救う使命のため、女神より二つの特権技能ユニークスキルが与えられている。


 その一つが、

祈りを満たす勇気の器インフィニティ・ブレイヴァー〉――

 人々の信頼を力に変える、希望の光だ。


 長い旅路で救ってきた人々の祈りが積み重なり、無限の力となって斗悟を満たしていく。


「火炎が来ます! 防御を!」


 魔力の流れから予兆を感じ取ったのだろう。

 ウィラードの警告の直後、魔王黒竜が吐き出した灼熱の奔流が斗悟達を襲う。


 しかし間一髪、ルチアの展開した球状のバリアが一行を守った。


「な、なんて威力……! 防ぎ、切れないっ……!」


「もう少し耐えてください!

 これほどの魔力放出……いくら魔王といえど、長くは保たない!

 終わり際の隙が、最大のチャンスです!」


「耐えろルチア……! 頼む!」


 破られかけたルチアのバリアを斗悟が補強し、彼女の体を支えた。


「ナメんじゃ……ないわよぉーっ!」


 ルチアは気力を振り絞り、炎を押し返す。


 そして――反撃の時が訪れた。


「今です!

 トウゴ、ランゲル、魔王のもとへ!」


 魔王黒竜が火炎を吐き尽くした直後。

 ウィラードの疾風魔法が斗悟とランゲルを包み、弾丸のように射出した。


「おらああああああああああッ!!」


 獣人の血が躍動し、ランゲルの戦斧が魔王黒竜の爪を、腕ごと斬り飛ばす。


「行けトウゴォ!

 とどめは任せたぜぇ!」


「ありがとう……みんな……!」


 魔王黒竜の急所へと辿り着いた斗悟が、最後の一撃を構える。

 勇者の剣に、眩い光が満ちていく。


「魔王!

 お前の、絶望の未来を――今ここで断つ!」


 女神より与えられた斗悟の特権技能、その二つ目。

 因果を破壊する剣。

 望まぬ未来を覆し、希望を切り開く勇者の証。


 その名は――


「〈絶望の未来を壊す剣バッドエンド・ブレイカー〉ッ!!」


 斗悟の一閃が、魔王黒竜を貫く。

 衝撃波が環状に広がり、瞬く間に暗雲を吹き飛ばした。


 ――訪れる、静寂。


 やがて魔王黒竜の体に無数の亀裂が走り、破片が零れるように崩れ始める。

 零れた端から光の粒となって消えゆく、その中に。


 微かに、少年の姿が揺らいだ気がして。


「じゃあな。……今度は、向こうの世界でまた会おう」


 斗悟は、そう呟いていた。

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