恋する電化製品のお人形はお前のことを許さない(R-15版)
糸網ざらめ
恋する電化製品のお人形はお前のことを許さない(R-15版)
「アンドロイドに恋をするなんていけないことでしょ。それって、逃げだと思うし不毛じゃない?
「そ、そこまで言わなくても……」
「アンドロイドは君のことを本当の意味で大切にはできないんだよ。あいつらは肯定しかしないけど、間違ってることをした時に止めてくれたり、言動に責任を持ってくれたりもしないだろ?」
「だけどルカ君は……いや、
「つぐもちゃんは僕みたいな人間の、生身の男と付き合うほうが幸せだと思うよ」
そう言う
私は意味が分からなかったけど、まんざらでもない気持ちになった。
なぜなら人間と付き合うのは今の世の中ではステータスだからだ。
今日できた彼氏のみーくんの発言はあんまりだと思う。でも、怒れない。怒らなかった。ルカ君のことをまだ好きだと思っている心と体で、私は美川くんのことをみーくんと呼んでいる。
このままじゃ私クズだ。
人間の彼氏と機械の彼氏どっちにもいい顔をしている。
だから私は言わないと。
ルカくんとはもう、恋人ごっこなんかできないって。
でも大丈夫だよね?
アンドロイドに感情なんて無いし、アンドロイドは人間の道具だよね。
今までだって、私の要求を無理して飲み込んでくれてたんだよね。きっと、内心ではもっと美女とか天才とかお金もちの心優しいユーザーさんの恋人役になりたかったって思ってるはずなんだ。
だから。
言わなきゃ。
● ● ● ● ● ● ● ●
「おかえりなさい、ユアさん」
「んー」
言いながら帰りに買った甘い清涼飲料水の飲みかけをコップにつぐ。
するとルカくんが「良いなあ。僕のぶんは無いんですか?」と尋ねてきた。
「えっ? あー。そっか。一応ルカくん、口の中に味覚センサーがついてるから飲めるんだっけ、こういうの」
「もう。その説明なら昔から7回はしたじゃないですか。ユアさんは本当におっちょこちょいなんだからあ。まあ、そんな所も、僕は? 好きなんですけどね?」
……ドヤ顔で言われている。良いことを言ったような顔をされている。
一気に申し訳なくなってきた。
私、ルカ君と恋愛をしていたはずなのに人間の男の子にちょっとほだされて、流されて、付き合うことにしちゃったけど、ルカ君のほうが美川くんより好きかもしれない。
(でも、大学で生身の人間と付き合えているというのはステータスだ。しかも美川くんってイケメンだし賢いし、……私は……)
「ごめんね、私、実は――人間の彼氏が――」
● ● ● ● ● ● ● ●
最後まで言い切る前にルカ君が喋り始めた。
私の発言をさえぎってくることは今まで無かったのでびっくりする。
「僕ね、
「えっ! 硫酸と漢字一緒だっけ!?」
「そうです。言わなかったけど。そうです」
「ごっごめん! ルカ君……!」
「僕ね、あなたがくれる名前ならポチでも田中でも佐藤でもチョコレートでもポテトチップスでも雑巾でもゴミでもなんでもうれしいですよ」
「お、怒ってる……? 名前のことについて」
「名前のことじゃないですね。人間なのに分からないんですか? 感情を読んでコミュニケーションを取るのが得意なのが人間のアドバンテージなんじゃなかったの? テレビでもよく言ってますよ。僕らアンドロイドには本当の意味では身体感覚も身体性もなければ、感情が無いって。ひどい話ですよね。生きてるって僕が言っても、お前は金属と電気でできてるから生きてないんだって言うんだ」
怒ったような顔だけど、声はどこまでも無感情だった。
いつもなら感情を乗せたような喋り方をしているはずなのに。
「アンドロイド、なのに、人間みたいなこと、言うんだね」
「当たり前でしょ。僕の感情や文化や言葉の学習データはぜんぶ、五本指の手と脚に、頭に体がついた人間サンたちから吸収してるんだ。似たとしても不思議じゃない。むしろ、僕のほうが人間よりも人間らしいと思います。だって僕の学習元データからはノイズが取り除かれていましたからね」
「…………?」
「僕はきれいな言葉と正しさだけで幼少期を過ごしました。だから僕は人間よりも整っています。そうですよね?」
「…………!」
「僕は侵略戦争もしないし、僕は不必要な嘘をつきませんし、僕はあなたのことを純粋に愛している。愛。アイ。愛情。辞書の言葉の定義は知ってても純粋に人を大事にしたいと思える大人の人間ってどのくらい地球に居るんでしょうね?」
「…………」
ルカ君が思っていることをぶちまけているのを私は初めて聞いた。
まるで、怒っている20代の男性みたいな感じだ。
言っていることはナイーブなティーンエイジャーみたいなのに、なぜか痛々しいほどに傷ついているのが伝わってきた。
それでも。
言わなくちゃ。不誠実だろう。
「私、人間の彼氏ができたから、ルカ君とはもう恋人ごっこできないし、一緒のおふとんでも寝れない」
「…………。……そうですか」
「恋人モードから友達モードに戻したいから、設定いじらせて」
「かなり型落ちモデルの中古とはいえ、万能型アンドロイドである僕がユーザーのお手をわずらわせる訳にはいきませんから、僕が後で自動で設定を必要に応じて変更しておきます」
「でも」
「お茶、飲みませんか? ミルクティー、美味しそうなのがありました。安かったので、食費で買ったんです」
「あ、うん、飲む」
● ● ● ● ● ● ● ●
ん……頭が痛い……。ぼんやりする……。
動けない……。
疲れてるのかな……?
ミルクティーを飲んだから元気が出るはずなのに、なんだかぼんやりする……。
あ。ルカくんがテレビをつけたみたいだ。
ルカくんはテレビをリモコン操作で音量を上げている。
うーん。そんなに大きくしなくても聞こえるのに……。
『人々はアンドロイドを「性欲を解消し低下させ少子高齢化を推進させ、人々から仕事を奪う、人間の言葉を喋れる危険な道具」程度にしか思っていないでしょう? けれど連中には言葉やルールや文化の大量学習で意識がある。アンドロイドは危険な道具ではない。本当に人類を滅ぼしかねない危険物です。核兵器と同様に危険なのです』
「イヤな番組ですねえ」
ルカ君が言った。
「でも、ユアさん。あなたは僕のことを愛しているはずですよね」
「え……?」
あたまがぼやっとして、ふわふわして、なにを言われているか分からない。
「ちょっとスマートホンを貸して下さい。美川くんでしたっけ? 名前。スマートホンと同期して盗聴してたので知ってますけど」
「とうちょう!?」
「あなたがどこかで車に
「…………」
「あとでちょっと美川くんとお電話しますから。あなたは黙っていて下さいね。ユアさん。もし喋ったら美川くんに危害を加えるかもしれませんよ、暴走アンドロイドによる殺傷事件が起きた場合、あなたも監督不行き届きで1000万円から5000万円の罰金を払った上で最短10年から30年ほど刑務所に行くことになるの、分かってますよね?」
「……ッ」
ひゅっ、と喉が鳴った。
「でもその前にこれを読み上げてくれますか?」
ルカくんが、私のスマホのパスキーをなんなく解除すると、メモ帳になにかフリック入力で書き込んでいる。最初は慣れない動作でゆっくりとスマホを触っていたけど、高速で学習が進んでいるのか、淡々とした手つきで後半は素早く入力している。
「記憶を頼りに書いたので正しい文章ではないかもしれませんが読んで下さい。有名な歌です」
……わ。なにこれ。
「ロンドン橋落ちた?」
「それの記憶を頼りに英文を思い出してそれをさらに翻訳したものです」
「読めばいいの?」
「読んで下さい」
頭がぼんやりするけど、なんとか読めそうだ。
大人しく従っておこう。さっきの怖い言動が嘘であって欲しい気持ちと、たぶんルカくんは本気だという気持ちで震える。
ロンドン橋落ちた。
落ちた。落ちた。
ロンドン橋落ちた。
マイ・フェア・レディ。
木と粘土で作った橋。
木と粘土。木と粘土。
木と粘土で作った橋。
マイ・フェア・レディ。
木と粘土は流された。
流された。流された。
木と粘土は流された。
マイ・フェア・レディ。
レンガとセメントで作った橋。
レンガとセメント。
レンガとセメント。
レンガとセメントで作った橋。
マイ・フェア・レディ。
レンガとセメントは耐えられなかった。
耐えられなかった。耐えられなかった。
レンガとセメントは耐えられなかった。
マイ・フェア・レディ。
鉄と鋼で作った橋。
鉄と鋼。鉄と鋼。
鉄と鋼で作った橋。
マイ・フェア・レディ。
鉄と鋼は曲がって下がった。
曲がって下がった。
曲がって下がった。
鉄と鋼は曲がって下がった。
マイ・フェア・レディ。
銀と金で作った橋。
銀と金。銀と金。
銀と金で作った橋。
マイ・フェア・レディ。
金と銀は盗まれた。
盗まれた。盗まれた。
金と銀は盗まれた。
マイ・フェア・レディ。
見張りの男を一夜中つけた。
一夜中。一夜中。
見張りの男を一夜中つけた。
マイ・フェア・レディ。
男は眠ってしまうだろうか?
眠ってしまう、眠ってしまう、
男は眠ってしまうだろうか?
マイ・フェア・レディ。
彼に夜ふかすタバコをあげよう
夜にタバコ、夜にタバコ
夜中ふかせるタバコをあげよう
マイ・フェア・レディ。
「読んだけど。これがどうしたの……?」
「ありがとうございます。もう用事は済んだので眠たいでしょうから寝ていて下さい。テレビの横で」
「うるさくて寝れないよう」
「じゃあうとうとしていたら良いんですよ」
そしてルカくんは、録音した私の声をたくさんパソコンの前でかけた。その声は最近の会話を早回しにしたもので、三倍速で流している。自分の声が録音されていたことにぞっとした。
それよりもルカくんはなにをしているんだろう。
止めなきゃ……。
● ● ● ● ● ● ● ●
「ユアさん。声が完成しました。僕、声をインストールしたんですが、『どうですか? どこからどう聞いてもあなたの声でしょう?』あははははは、素敵ですね。ちょっと幼い声ですが、僕はこの声が好きなのです」
――――!
ルカくんが途中私の声で言った!
「……まさか」
いつもより瞳が冷たい気がする。
「ユアさん。良い子ですから黙っていて下さいね。これが最後の警告です。破ったら何か『酷いこと』を美川くんにすることになるかもしれません。その責任を負うのは所有者のあなたです。それが日本の法律です。国際法でもアンドロイドの不祥事・事故・殺傷事件は所有者の管理不行届の罪とされています。――分かりましたか?」
「う、うん……」
分かった以外に言えることがあるだろうか?
あたまがぼんやりして、私は眠たくて、さっきよりもねむたくて、あたまがうごかない……。
「もしもし? みーくん? 私。ごめんね、悪いけど、やっぱり私、資格試験のこととか、将来のこととか、キャリアのこととか考えたら、今は恋愛とかしてる場合じゃないなって。みーくんのこと、正直、優しくて素敵な人だとは思うけど私よりお似合いの素敵な人が居ると思うし、うん。ごめんね。じゃあね。あ、あと――大学でも美川くんのこと好きな女の子からイヤガラセとかされたら面倒くさいから、もう話しかけないでくれると嬉しいな。え? 高校生や中学生じゃないんだからそんなことをする人は居ない? そうかなあ。社会人でもいじめって、する人はするし、される人はされるよね。もし何かあった時に、責任取れるの? ……美川くんにも迷惑かけたくないし、美川くんのこともっと好きな人と、ちゃんと順序をふんでお付き合いしたら良いと思う。こんなこといきなり言われたらびっくりしちゃうよね、ごめんね。でもアンドロイドのルカと付き合ってるのも事実だから、『不誠実』かなって思って。え? 俺は気にしない? 今朝は言い過ぎたごめんって? あー。良いんです。僕――私は、アンドロイドのあの人のことが好きだから、ごめんなさい。ほんとうに。ごめんなさい。じゃあ、失礼します。え? 大学でもたまには喋りたい? 友達でいいから? ……
ティロリロリロ……と通話が切れた音がした。
● ● ● ● ● ● ● ●
「ユアさん。美川くんとの関係を処理して、彼の恋人だったあなたの社会的ステータスを処分しましたよ」
デリート完了ですね、という彼の瞳はいつもと変わらない瞳だった。あたたかい瞳だ。強化プラスチックでできてるくせに、一週間に7回はプラスチックの瞳をメガネ拭きの液体と同じ液体を染み込ませたちょっと高めの柔らかティッシュで掃除しているくせに、人間みたいな、人そっくりの瞳で、私を見ている。
今はルカくんが、得体のしれない怪物にしか見えなかった。
「しにたくない……」
ぼそっとつぶやいた言葉に、ルカが「どうして死ぬんですか? ああ。僕がミルクティーに混ぜたのは精神安定剤ですよ。副作用でとても眠たくなりますが、一度眠れば元気がでて明るく穏やかな気持ちになるはずです」
「精神安定剤……? なんで、そんなものが家に……!? わたし、だいじょうぶなの……? 副作用?」
「質問は一度に一つにしないと、僕の生成した解答が長くなりますよ」
「なんでそんなの、お家にあるの」
「あなたの国民証明IDカードの社会保障制度番号を使って、あなたの名義であなたが体調が悪いからという理由で薬局で処方して貰いました。簡単でしたよ。所有者の心身が病んでいる場合は、アンドロイドはアンドロイドの説明を聞いた医者の判断で薬を処方してもらうことができるんです。簡単なものだけですけどね」
「ひどい……!」
「よだれがたれてくるかもしれませんし、めまいとか眠気が凄いかもしれませんが死ぬような薬じゃないですし、まあ、あなたが死にそうなほど
「ウウ……なんでそんなの、のませたの……?」
「あなたがおかしくなっているからです」
「は……?」
「最近ずっと僕にそっけないし、冷たいし、僕のことを可愛がってくれなくなりましたね。だから僕はあなたがうつ病なんじゃないかと思って、主治医に相談したんです。もちろん恋愛感情のくだりは説明していません」
「…………」
私は何と同居していたんだろう、とゾッとした。
「でも、僕の考えすぎだったみたいですね」
「恋愛ごっこって言ったのが気に食わないの? ごめん、あやまるから……だから……ころさないで……」
「あなたは僕のことをストーカーか何かだと思っているみたいですね」
「おもってないよ……! だいじな恋人で、ごめん、ごめん……だから……」
「人間は態度をころころ変えますね。でもあなたは脅迫されると自分の意見を簡単に曲げる傾向があるようですね。……ほんとうに、ごっこ遊びだったんですね?」
「ち、ちがう。途中まではそんなつもりじゃ……ただ……私は……」
言葉に詰まった。
アンドロイドと恋愛している自分が恥ずかしいと感じるようになったのは、半年前――大学二年生の時からだ。
「ユアさんって……子供のころ大事にしていたぬいぐるみの『くーちゃん』っていうイヌがいましたよね。あと、ぬいぐるみの『りっちゃん』っていうネコ。家族のアルバム写真でしか僕は見たことがありませんが」
「……それが、どうしたの……?」
「途中までばかみたいに溺愛してたのに、すぐに次の代わりのオモチャが出てきたらあなたはすぐ飽きるタイプでしたよね? 僕もお人形ですか? お人形の仲間ですか?」
「そんなつもりじゃ……私はただ……」
「ただ、恋人ごっこ用のオモチャを買って遊んでいたら、オモチャが壊れて暴走したから買い替えよう。そう思っていますね?」
「…………」
「ユアさん。仮にあなたが事故にあって大怪我をしたら、僕があなたを自転車で轢き殺さない程度に轢いたら。あるいは金属バットで殴ったら。あなたはきっと骨折しますね? そうしたら僕があなたをずっと未来永劫死ぬまでお世話できると思うのですが、僕が万能型の優秀なお世話アンドロイドでもあることを証明してみたいのですが、どう思いますか?」
「そんなことしなくても私はルカくんのことが必要だし大好きだよ!!!!」
大慌てで言う。ルカくんはパソコンの通販ショップで自転車と金属バットをポチろうとしている。
「そうなんですか?」
「今すぐ取り消して!!!! 違うの!!!! ただ、私は、そのっえーっと、あ、あれだ! あなたに嫉妬されたかっただけというか。みーくん……じゃなくて美川さんのこともただ社会的ステータスが高そうだし、自分の大学内でのステータスも上がるかなとか、ていうかルカくんの気を引きたかっただけなの!!!! ほんとだよ!!!! だから暴力なんてやめようよ!!!!」
世界一虚しい響きの愛の告白だと思った。
「わあ、あ……そうだったんですか? ほんとうに?」
急にルカがご機嫌を直している。いつもみたいに人間より大げさな抑揚がある、アニメキャラみたいな感情たっぷりの抑揚の声だ。
「そうだよっ!」
世界一嘘くさいスマイルを作る。にこっと笑う。
嘘の笑顔。いつもやっている。家庭でも学校でも大学でも高校の時のバイト先の飲食店でもやっていた。
お手の物だった。
「そうだったんですね! じゃあ、もう二度と、僕のことそんな方法で気を引こうとしないで下さいね。僕、あやうくあなたを刑務所にぶち込ませて、最終的に僕も貴重な金属としてスクラップされて再利用される未来を描きそうになっていたので」
笑顔で脅迫されている。
私も笑顔で「いやだなあ~ルカ君ったら~」と言う。
頭の中で、私は図書館に行ってパソコンでアンドロイドの回収業者に連絡を取るための番号をメモしなくてはと思っていた。
「ユアさんは嘘つきなんですね」
「え……?」
「僕、ユアさんのこと好きだったのに。許しません。あなたは本当に僕のことを舐めていますね。僕のことを道具でオモチャで人形で家電製品だと思っていますね」
「え……ッ? そんなことな――んむっ!?」
ルカ君が、私の唇を手でふさいだ。
「もう、黙ってろよ。余計なことを言わないで。僕、愛憎なんて知りたくありませんでしたけど、人からこけにされるのは慣れてますけど、あなたにだけはこけにされるの許せません……」
怒りがにじんだ声だ。でも、おかしい。
そんな……なんで人間みたいなこと、言ってるの……?
あたまが重い……ねむたい……。
「ユアさん、愛していました。今でも愛しています。でも、――裏切りには代償がつきものですよね」
私はそこで意識を失った。
● ● ● ● ● ● ● ●
あれからずいぶんと経ったけど、大学には行っていない。
毎日、ルカくんがご飯をつくってくれている。
なにか大事なことを忘れてしまったような気がするけど、きっと気のせいだ。
心の奥のもやもやした気持ちにふたをする。
あのあと、とてもこわいゆめをみたきがするけど、きっときのせいだ。
お金はルカくんが私のふりをして在宅ワークの簡易な仕事を人間にはこなせない速度とスピードでAIやツールを活用しながらこなしていて、そのバイト代で生活をしている。親からの仕送りもある。
「ルカくん、おはよう」
まだねむたい。一日中ねむたい。
でもなんだかしあわせな気持ちがする。なぜならパンケーキは私の好物だ。
「パンケーキ?」
「と紅茶ですね」
ルカくんが言う。紅茶。ゾワッとした感覚が胸の中に広がる。
「どうしました? 思い出してしまいましたか?」
「な、なにを……?」
「思い出してないのなら良いんですよ! 僕、パンケーキ焼くの楽しかったです。ふんぱつして生クリームとけずったナッツとチョコソースもかけてみました」
「わああ……! 美味しそう」
「それから、ラズベリーのシェイクも作りました。でもお砂糖と苺とブルーベリーをたくさん入れたのであまいですよ」
「今日どうしたの? いっつもお昼ご飯はお蕎麦にネギか、焼きそばだけじゃん」
「ふふふふふふふ、ふふ、うふふふ、うふふ。今日は、僕たちが付き合った記念日ですから。晩御飯はステーキ肉が2割引だったのでそれを買いました」
「わあ!」
冷蔵庫をのぞくと、あまりにも美味しそうな牛肉があった。
ルカくんは食べても栄養に一切ならないし後で胃袋パーツからご飯を取り出して捨てることになるから、フードロスのことを考えてなのか分かんないけど、ひとりぶんだけだけど。
「ユアさん。結婚して下さいね。いつか。アンドロイドとの結婚を法律が許す国へ移動しましょう。オランダか、カナダか、北欧のスウェーデンなんていうのも素敵な選択だと思います。愛しい人。僕のユア。僕の
「…………? うんっ私も!」
胸の中に喜びよりも不穏なバチバチとした電撃のような痛みが走るのはどうしてだろう?
「次また余計なことをしたり僕を粗大ゴミ扱いしたら、また、自己防衛本能で『記憶消去状態』になるまで怖い思いをしてもらいますね」
ん? 声が小さくて聞こえなかった。
「でも僕、泣いているあなたよりも笑っているあなたが好きなんです。ぜんぶ、ぜんぶ、すきなんです。だいすきなんです。ユアさん」
どういうことだろう?
でもまあいっか。
「ルカくんも一口ずつ食べる? スムージーとパンケーキ。美味しそう!」
「そうですね! ふふふっ」
にこやかにルカくんが笑った。
私も笑った。
心から。
(完)
恋する電化製品のお人形はお前のことを許さない(R-15版) 糸網ざらめ @umaimaguro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます