愛を司る女神の祝福を授けられた真実の愛で結ばれた男女の話

柚木柚

愛を司る女神の祝福を授けられた真実の愛で結ばれた男女の話

 とある良く晴れた日。

 小鳥達がさえずり子犬や子猫が元気に駆け回っている長閑な昼下がり、街外れにある小さな教会に複数の男女が訪れていた。


「お願いします。僕たちに女神さまの祝福を与えてください!」

「わたし達、生まれ変わっても誰にも邪魔されずずっと一緒に居たいんです!」


 お互いの手を固く握りあい懇願する恋人達。そんな彼らに詰め寄られた年齢不詳の神父は、ただただ穏やかに微笑んでいる。

 この教会には遥か遠い昔に愛を司る女神から『祝福』を授かった夫婦の伝承が残されており、祝福を受けた者は何度生まれ変わっても必ず巡り合い結ばれるというなんともロマンティックな逸話に触発された夫婦やカップルが数多く訪れるのだ。


「皆様のお話はよく分かりました。その強い気持ちに応えて早速女神さまに祈りを捧げたいところなのですが、残念ながらこの『祝福』はあなた達が思うよりはるかに制約の厳しいものなのです」


 期待に満ちた目を向ける彼らに神父はいつも通り、祝福にまつわる話を聞かせることにした。


「この『祝福』を受けた者は互いが『運命の相手』となり、何度生まれ変わっても巡り合うようになります。そして、『運命の相手』以外とは決して結ばれなくなります。いいですか、“決して”ですよ」

「それは良いことではないのですか? 好きな相手と結ばれて、他の人間に邪魔されなくなるのですから」


 一組のカップルが、それの何が問題なのかと言いたげに質問する。


「確かに『運命の相手』を引き裂こうとすれば、その者には女神さまから天罰が下されます。例え実の家族でも、神父でも王族であっても……自分自身であってもです」

「自分自身?」

「はい。もし共に祝福を受けた相手以外を好きになり、運命の相手を捨てようとすれば、その者にも厳しい天罰が下ってしまうのです」

「それならば問題ありませんよ! この人以外を好きになるなんてありえませんから!」


 一組のカップルが自身満々に宣言する。他の者達も「当然だ」と言わんばかりに追随する。まぁ、こんな辺鄙な教会にわざわざ来るほど熱々なカップルなのだから当たり前だろう。

 自分達は絶対に大丈夫だから祝福を授けてくれ、と迫る人々を軽くいなしつつ神父は穏やかに話を続ける。


「まぁまぁ、まずは一番最初にこの祝福を受けた夫婦の話をお聞きなさい。本当に祝福を受けるべきかはそれから判断しても遅くは無いでしょう」


 自分達の憧れともいえる伝承の夫婦の物語が聞けると知って、集まった者達がにわかに色めき立つ。

 そんな彼らに神父は伝承の夫婦が辿ったある意味・・・・過酷な運命について語り始めた。


***


 事のはじまりは今から数えられない程、遠い昔。

 とある国の片隅に一組の仲睦まじい夫婦がいた。夫は神秘的な黒髪に黒い瞳、妻は輝くような金髪に青い瞳。幼馴染でもあった彼らはお互いを『運命の相手』『真実の愛』と呼び、自分達の愛はたとえ神様でも引き裂けないだろうと常々豪語していた。

 そんなふたりの態度に怒ったのが“愛を司る女神”である。

 神々の中ではまだ若かった彼女は、人間如ごときが愛の女神自分にすらどうすることもできない、などと傲慢な発言をしたことが許せなかったのだ。

 言いがかりじゃないかって?

 神とはえてして理不尽なものなのだ。

 夫婦に激怒した愛を司る女神は、そこまで豪語するなら自分達で実際に真実の愛を証明して見せよと他の神々の反対を押し切り彼らに呪い……もとい祝福を授けた。誰にも二人の邪魔をさせない代わりに、もしお互いを裏切り他の人間と結ばれようとすれば恐ろしい天罰が下るという祝福を。


 さて。祝福を受けてから何年も経ち夫婦が寿命で亡くなると、夫は比較的裕福な商家の息子に生まれ変わった。

 前世のことはまったく覚えていなかったが、女神の力は続いていた。

 そう。この祝福は記憶が無いにも関わらずいつ巡り合えるかもわからない相手以外と結ばれれば即座に罰が下る、というなかなか恐ろしいものだったのだ。

 そんな過酷な運命を背負わされているとも知らず、夫は両親から愛されてすくすくと育った。

 そして、5年の月日が流れた頃、夫は運命の出会いを果たす。

 一目見ただけで体中が熱くなり、愛しさが溢れて止まらなくなる。記憶は思い出せなかったが、目の前にいる相手こそまさに生まれ変わった最愛の妻だった。

 細く綺麗な脚、お洒落な縞模様、ピンと立った触覚……


「妻は虫に生まれ変わっていました」

「嘘でしょ!?」


 たまらず、話を聞いていたカップルの一人からツッコミが入った。

 結構序盤から引っかかる点は多かったのだが、流石にこれは看過できない。


「生まれ変わりって人間以外になることもあるんですか!?」

「そうみたいですね」

「軽っ!」


 よりによって昆虫……いや、でも蝶々とかならまだ絵面的に綺麗だろうし……


「妻が生まれ変わったのはカマドウマでした」

「よりによって!!!」


 トイレとかで目にするあいつである。虫が苦手な人は調べない方が良いだろう。


「夫は生まれ変わった妻に一目惚れし、大切に家に連れ帰りました。しかし、悲劇が起きます。愛する妻を母親に放り出されそうになったのです」


 そりゃそうだ。自分だって母親の立場ならそうする。


「それに気づいた女神は慌てて両親に神託を下しました。あなた達の息子は昆虫と運命が結ばれているので決して引き離してはなりませんと」


 実は女神は私怨で祝福を与えるにあたり、他の神々から真っ当な人間に迷惑を掛けないようにと強く言われていたのだ。子どもが虫を捕まえて家に連れ込もうとするので野に放った……という親として至極まともな対応をして天罰が下るのは神様的にも頂けなかった。


「女神は正気を疑われました」

「でしょうね」


 この神託のせいで女神は『昆虫フェチ』のレッテルを張られた。まぁ、邪神扱いされなかっただけまっしだろう。

 女神からのお墨付きをもらい、夫は妻(カマドウマ)と幸せに暮らした。しかし、どれだけ愛し合おうと相手は昆虫。数年で妻(カマドウマ)は天に召されてしまった。

 ほっとする両親をしり目に嘆き悲しむ夫だったが、すぐにまた生まれ変わった妻と再会することとなった。

 ふわふわの胴体。お洒落な目玉模様……


「妻は今度は蛾に生まれ変わりました」

「なんで害虫系ばっかりなの!?」


 カマドウマよりは良いかと半ば諦めモードの両親を説得し、夫は再び愛妻の妻と暮らし始めた。

 その妻もまたすぐに旅立ってしまったが、伴侶を待たせる訳にはいかないとばかりにすぐにまた転生してきた。

 今度はオオクワガタである。夫は次は今までより長く一緒にいられると喜んだ。両親もクワガタならそこまで可愛がっていてもおかしくないと喜んだ。ハードルが下がりすぎていて不憫でならない。

 その後も転生を繰り返す妻の為、夫は昆虫について勉強しだした。すべては愛する妻がより長く幸せに生きる為。

 また、自我の無さそうな昆虫に生まれ変わった妻も不思議と同族には見向きもせず、毎回夫に懐いていた。

 商会は弟に任せて自分はその生涯を昆虫の研究に捧げた夫は、やがて著名な昆虫学者として歴史に名を遺すこととなった。生涯独身を貫き、最期はカマキリの妻と一緒の棺に納められた。周りにどう映ったかは不明だが本人的には幸せな人生だったらしい。

 尚、彼の遺した『私は昆虫を愛しているのではない。私の愛する魂がたまたま昆虫の姿をしていただけだ』という言葉は偉人の迷言としていまだに弄られている。


***


 さて。夫が天命を迎え生まれ変わった影響なのか、その次の転生では妻は人間に生まれ変わった。

 妻の生まれは家は騎士の家系で、彼女は唯一の女の子だった。両親や兄弟は大層妻を可愛がり、彼女はすくすくと育った。その胸に言葉にできない喪失感を抱えながら。

 無意識に離れ離れになった伴侶を探し求めていた妻は、10歳の時、とうとう愛する夫と再会した。

 昔と変わらない美しい黒髪の……


「夫は馬に生まれ変わっていました」

「いや、ダジャレかよ」


 夫はその年産まれたばかりの黒毛の子馬だった。

 本来であれば馬を持てるのは男児のみ。仔馬は妻の兄か弟に与えらるはずだったが、妻は猛反発して馬小屋に籠城してまで家族を説得した。

 当の家族は娘が急におかしなことを言い出したので何か悪いものに憑りつかれたのではないかと疑い、慌てて近くに住む神官を呼んだが、事態を察した女神からまたもや神託が下された。

 意味不明な神託に一瞬神官の信仰心が揺らぎかけたが、何とか神託は伝わり妻は無事夫と一緒に居られることになった。

 女神には『異種姦フェチ』のレッテルが貼られたが愛し合う二人の前では些細な問題だろう。

 しかし、女神の神託があろうと騎士の家に生まれた馬を騎士でもない人間がいつまでも所有することは難しかった。時が経つにつれて周囲から馬が可哀そうだと言われるようになったのだ。良い血統の馬だったので、このまま小娘のものになるのは勿体ないという気持ちもあったのだろう。

 この事態に妻は決意した。自分も騎士になろうと。

 自分は彼(馬)と以外一緒になる気はないから花嫁修業は無駄だと両親と兄弟を説得し、厳しい稽古をつけて貰った結果、彼女は国内初の女騎士にまで上り詰めた。まさに愛の力である。

 そうして、同じく立派な牡馬に成長した夫と共に戦場を駆け巡り、数多の戦果を挙げた妻だったが、最期は敵と相打ちになり最愛の伴侶と共に谷底に消えた。そんな彼女の偉業は今もなお語り継がれている。


***


「愛の力とは素晴らしいですね」


 感動したように語る神父をよそに聴衆は何とも言えない表情を浮かべている。さっきの昆虫学者も今の女騎士も歴史で習ったことのある有名人なのだが、これまでの話が本当ならなんか色々と残念に思えてくる。

 そんな彼らの感情を知ってか知らずか、神父はまだまだ話を続けるようだ。


「さて。次は夫が人間に、妻が蛸に生まれ変わった時の話ですが」

「それは飛ばしてください」


 とりあえず女神に『触手フェチ』のレッテルが貼られたことだけ伝えておこう。


「この話って毎回こんな感じなんですか?」

「人間以外の生物同士に生まれ変わった時の話は省いていますよ。余りにマニアックすぎるので」


 今までも十分マニアックだった気がする。

 何なら人間以外の生物同士の方がまだまっしに思えてくるから不思議だ。


「あの、せめて人間同士に生まれ変わった時の話をお聞きしたいのですが……」

「わかりました。では」


***


 幾多の転生の中、なかなか人間同士に生まれ変わらない夫婦に先に根を挙げたのは祝福を与えた女神本人であった。

 これまでの転生で色々と不名誉なレッテルを貼られてしまった。しかし、一度与えた祝福は神と言えど簡単には取り消せない。周囲の神々に愚痴っても『だから若気の至りで変な祝福与えなきゃよかったのに』と呆れられる始末である。

 せめてこれ以上変なレッテルを貼られたくないと思った女神は、輪廻転生を司る神に頼み込み、次の転生では夫婦が人間同士に生まれ変わるようにして貰った。


 さて。次に妻が生まれ変わったのは国内有数の大貴族の令嬢であった。

 身分が高い上、見目麗しい彼女は国内の貴族令息のみならず、同じ歳の王子にまで好意を寄せられていた。

 数多の求婚が寄せられたが、しかし、妻は誰とも婚約を結ばなかった。

 実は彼女が幼い頃に両親が婚約者を決めようとした時、女神より『彼女には自分が祝福を与えており、いつか運命の相手が現れる。それまで婚約者は決めぬように。彼女が自分で選んだ相手以外と結婚すれば周囲も本人も不幸になるだろう』という神託が下されていたからだ。

 美しい令嬢の心を射止める運命の相手は誰か、と皆がその恋の行方を追った。

 国内の令息達も自分が運命の相手かもしれないと期待して彼女にアプローチを続けた。

 そんな状態の中、当の令嬢は微笑むばかりで誰の手も取らなかったのだが彼女が15歳になりデビュタントを迎えた時、とうとう事態が動いた。


 社交界デビューした彼女は初めて参加したパーティーで強引にエスコート役に収まった王子を振り切り、颯爽と一人の参加者の元へと駆け付けた。そうして、驚く周囲には目もくれずその男性になんと自分から求婚したのだ。


「生まれる前からずっとあなたを探しておりました。どうか、私と結婚してください」


 真っすぐな目でそう告げる令嬢に周囲の人々は驚愕の声を上げる。

 置き去りにされた王子など目の前の光景が受け入れられず茫然と固まっていた。

 そんな中、貴族令嬢側からの求婚という前代未聞の事態に遭遇した男性は困惑したように返答した。


「お嬢さん……儂は今年で65歳なんじゃがいいのか?」


 目の前の男性……夫は妻より50年も早く産まれてしまっていた。この時代ではとっくに隠居しているような年齢である。

 彼もまた国内で一、二を争う裕福な貴族であった。ただ、昔から偏屈でどれだけ婚姻を勧められても断り続けこの歳になっても独身を貫く変わり者と噂されていた。

 50歳も歳上の男性への求婚に当然周囲は反対したのだが、令嬢の意思は石よりも鋼よりも強く、女神の神託をこれ以上ないくらい盾にして結婚に漕ぎつけた。

 遺産目当てだろうと陰口を叩く者もいたが、令嬢本人が遺産など必要ないくらい裕福な家庭に産まれている上に、同世代の美麗な男達には目もくれず歳の差を気にしてしり込みする男性に猛アピールする姿を見せつけられると皆すぐに口を閉じた。

 こうして無事人間として再開を果たし再び夫婦として暮らすことができた二人だったが、その幸せは長くは続かなかった。10年程経った頃に夫が病気で天寿を全うしてしまったのだ。


 若くして未亡人となった彼女には再び多くの男性から求婚が寄せられた。

 当時25歳になっていた妻だが、多少結婚適齢期を過ぎていたものの未だその美しさを保っていた。さらに夫が亡くなったことで多額の遺産を相続しており、とんでもない優良物件となっていたのだ。中には夫の年齢的に早々に亡くなると踏んで結婚せずにずっと機会を狙って居たしつこい……一途な王子もおり、世間は彼女の再婚相手は誰になるかと再び注目し始めた。

 しかし、そんな数多の求婚を妻はいつかのごとくすべて退けた。

 病床の夫と『生まれ変わってもまた一緒になろう』と約束したので彼が戻って来るまで再婚は出来ない、と。

 諦めきれない男性陣が強引に自分のものにしようとする事件もあったが、彼らは全員女神の天罰が落とされた上に警戒していた妻が雇った屈強な護衛達の手により警察に突き出された。

 その後も夫を偲び一人身で過ごす妻の一途さに流石の周囲もあれこそ真実の愛だと感心し、余計な口出しはしなくなった。自称幼馴染の王子を容赦なく強姦魔として突き出したからかもしれないが。


 さて、そのような騒動を経つつ、夫が亡くなってから15年が過ぎた頃。とある夜会にて再び事件は起きた。

 話は変わるが夫が亡くなって直ぐの頃、とある貴族の家に黒髪の可愛らしい令息が産まれた。

 その子どもは非常に整った顔立ちをしており幼い頃から将来が楽しみにされていたのだが、彼が10歳になり両親の友人夫婦の娘との婚約話が出た時、彼らの元にどこかで聞いたことがあるような女神の神託が下されたのだ。

 両親は内心焦った。例の女神は特殊性癖持ちで今は歳の差恋愛に執心しているという噂がまことしやかに囁かれていたからである。

 貴族としては跡取りを望める若い娘を嫁に迎えて欲しい。

 しかし、女神が祝福を授けた相手に強引に迫った結果、天罰を受けて下半身の一部が消失した輩がいるという噂もある。

 そこで両親は息子の周囲を年齢が近く美しい令嬢達で固めることにした。

 女神の神託を無視することは怖い。それなら神託に従って婚約者は決めないまま、家にとって望ましい相手を息子自ら選ぶように仕向ければ良いと考えたのだ。

 こうして10歳にしてハーレムを形成することになった令息だったが、両親の思いとは裏腹にどれだけ周囲の女の子からアピールをされても『みんな仲の良いお友達だよ』という鈍感系主人公のようなムーブを崩さなかった。

 そうして5年の月日が流れた頃。

 お友達()の令嬢達に引っ付かれながら参加したとある夜会にて、令息は突然今までの鈍感さが嘘のような俊敏な動きで一人の参加者の元に向かい出した。

 どこかで、具体的には25年程前に見たことがあるような光景。

 年配の参加者は「あっ……」と何かを察し、両親や令嬢達が止めようとするも間に合わず狼狽する中、目当ての人物の元に辿り着いた令息は優雅に跪いて求婚した。


「生まれる前からずっとあなたを探しておりました。どうか、私と結婚してください」


 相手はもうわかると思うが例の未亡人、もとい妻である。

 こうして二人は再び結ばれ、幸せに暮らすこととなった。意外にも前回程二人への批判や反対は出なかった。前と比べて・・・・・・年齢差は半分に縮まっているし、何より25年前には産まれておらずデビュタントで起きた出来事を詳しく知らないはずの令息が全く同じ状況、同じ台詞で求婚したことで周囲も、何なら令息の両親すらも生まれ変わりを信じざる得なくなったからだ。


 ちなみに家の都合で長年令息に付き合わされていた令嬢達に関しては、神託のせいで不必要に時間を奪われた被害者の一面があるということ、女神から好条件で相性の良い結婚相手と巡り合えるようフォローが入れられた。

 その相手とそのまま結婚した者もいれば、今の時代は結婚より仕事だと社会進出に乗り出す者もおり結果は様々だったが、皆概ね幸せになれたらしい。

 女神も始末書を回避できて一安心した。

 『歳の差婚フェチ』のレッテルが確定したことからは目を逸らした。


***


「そうして仲睦まじく過ごした夫婦は天寿を全うすると再び転生を繰り返すこととなりました。これがこの教会に伝わる愛の女神の祝福を授けられた夫婦のお話です。

 皆さん、お気づきですか? 彼らは生まれ変わる度にお互い惹かれ合いましたがそれは女神の力によるものではありません。あくまで本人達が互いを求め愛し合っていただけなのです。女神の祝福はそんな二人が一緒になるほんの少しの手助けをしたに過ぎません。

 過ぎた力は不幸を呼ぶこともあります。今、あなた達が仲睦まじく暮らせているのであれば早急に祝福など求めることは無いでしょう。もし、今後理不尽な力によって引き離されそうになった時に、何度生まれ変わっても、何に生まれ変わっても・・・・・・・・・・一緒に居たいと覚悟ができたなら改めてここに来てください。その時はきっと女神様が力になって下さるでしょう」


 穏やか表情を浮かべた神父が良い感じに話をまとめたが、その場に居たカップルは全員何とも言えない顔で黙り込んでいた。

 『運命の相手』だとか『愛を司る女神の祝福』なんて素敵! くらいの軽い気持ちで教会を訪れたところ、想像以上に覚悟が必要な険しき道であると聞かされて衝撃を受けたのだろう。


「ど、どんな姿になっても愛してくれるよな……?」

「うん……いやでも、カマドウマは、カマドウマは流石にきついかも……」

「えっ?」

「25歳も上の相手はちょっと……」

「はぁ? ちょっとそれどういう意味!?」


 別の意味で衝撃を受けている者も結構居た。来た時のラブラブっぷりはどこへやら、何だか不穏な空気になっているカップルもちらほら出ている。

 すっかり意気消沈した恋人達は微妙な空気のまま神父に促されて教会から帰っていった。


「あの神父様。一つだけお聞きしたいのですが」


 最後の一組が出ていく寸前、ふと神父に問いかけた。


「そのご夫婦は今もどこかで生まれ変わってはお互いを探しているのでしょうか?」

「ええ……きっと今も仲良く過ごしていますよ」


 神父はそう答えて微笑むとそっと窓の方向に目を向けた。

 窓の外では暖かい陽だまりの中で、神秘的な黒い毛を持つ子猫と、陽に照らされると金色に輝く毛を持つ子犬が仲良く寄り添って昼寝をしていた。 

 とある良く晴れた日の長閑な昼下がりの話である。




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(本編に入らなかった設定)

①愛を司る女神は一連の出来事の結果、特殊性癖にも理解のある懐の広い存在として一部で崇められるようになり、信者からしょっちゅうマニアックな性癖語りを聞かされるようになります。若気の至りは恐ろしい。


②夫に侍っていた令嬢には女神からフォローが入ったのに妻にアピールしていた男性陣にはフォローが入らなかった理由について、前者は親(他者)の指示で傍にいたのに対して、後者は自分の意思でアプローチしていたからです。

女神としては、恋愛は必ずしも成就するとは限らないので靡かない相手にアプローチしてフラれても本人の自己責任と考えています。なので、実は令嬢の中でも親に意向に関係無く惚れてアプローチしていた者にはフォローが入っていなかったりします。

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