0.01%の魔神権能(オーバーロード)――無能力者が引き当てた、世界最強の一枠

羽蟲蛇 響太郎

第1話 0.01%のエラー

 世界が壊れ始めた日を、俺ははっきりと覚えている。


 空が割れ、街の中心に“モンスター”が現れた日。

 それと同時に、人類に与えられた救済――能力ガチャが解放された。


 引けば、力を得られる。

 炎を操る者、鋼の肉体を持つ者、時間を遅らせる者。


 そして力を得た者たちは、英雄になった。


 ――引けた者、だけが。


「……また、ダメか」


 俺――**神代かみしろ朔夜さくや**は、薄暗い施設の一角で、ガチャ端末を見下ろしていた。


 画面に表示されている結果は、見慣れすぎた文字。


【結果:能力未取得】


 これで何回目だろう。

 十回? 二十回? もう覚えていない。


 能力ガチャは平等だと言われている。

 誰にでもチャンスがある。

 確率は公開されていて、努力も関係ない。


 だからこそ――残酷だった。


「無能力者は、後方待機な」


 背後から投げかけられた声に、俺は黙って頷く。

 同じ年頃の能力者たちは、すでに装備を整え、戦場へ向かう準備をしていた。


 ランクC。

 ランクB。

 中にはAランクの能力者もいる。


 俺は、ランクE。

 いや、正確には――ランクなし。


 能力を得られなかった者は、数値にすら含まれない。


 それでも俺は、ここにいる。

 モンスターが街を壊すのを、ただ見ているだけなんて――できなかった。


「……最後、か」


 端末に表示された残り回数は、1。


 今日で、この施設は閉鎖される。

 無能力者を守る余裕なんて、もうどこにもない。


 引く意味は、ない。

 わかっている。


 それでも――指が動いた。


 ガチャ起動。


 いつもなら、即座に結果が表示されるはずだった。

 だが、今回は違った。


 画面が、止まった。


「……?」


 次の瞬間、端末全体が不気味に震え出す。


【ERROR】

【ERROR】

【ERROR】


 赤い警告文字が、画面を埋め尽くす。


「は……?」


 施設内がざわめいた。

 職員が駆け寄り、端末を操作しようとするが、反応がない。


 そして。


【確率演算異常】

【対象:神代朔夜】

【排出率:0.01%】


 見たことのない表示。


 ――0.01%?


 次の瞬間、画面が黒に染まり、低い音が響いた。


 《――ようやく、引いたか》


 声。


 はっきりと、頭の中に響く声。


 背筋が凍りつく。


 《待ちくたびれたぞ、人の子》


 画面に、文字が浮かび上がる。


【能力取得】

【名称:《魔神権能オーバーロード》】

【ランク:E(ERROR)】


 E?


 いや、そんなはずがない。

 文字の端が、歪んでいる。


 《我が名は――かつて、世界を滅ぼしかけた者》


 視界が歪む。

 胸の奥に、熱が灯る。


 理解した瞬間、直感が叫んだ。


 ――これは、当たってはいけないものだ。


 だが、もう遅い。


【能力詳細:取得中……】

【管理外権能を検知】

【警告:システム管理者へ通知】


 同時に、世界が静止した。


 周囲の人間が、動かない。

 音も、風も、すべてが止まっている。


 《選べ》


 声が囁く。


 《力を使えば、お前は人でなくなる》

 《使わねば、この世界は滅びる》


 選択肢なんて、最初から一つしかなかった。


「……使う」


 そう答えた瞬間。


 視界が弾け、情報が流れ込む。


 能力。

 ランク。

 弱点。

 未来。


 世界のルールが、見えた。


 そして理解する。


 ――俺は、もう“無能力者”じゃない。


 同時に、施設の警報が鳴り響いた。


【警告】

【EX級反応を検知】

【対象:神代朔夜】

【世界管理者、排除プロトコル起動】


 俺は、ゆっくりと立ち上がる。


 身体が軽い。

 怖さよりも、確信があった。


 ――この力で、俺は世界を救える。


 だが同時に、はっきりとわかってしまった。


 この力は――

 世界から嫌われる力だ。


 それでも。


「……上等だ」


 俺は、世界に背を向ける覚悟を決めた。


 ここから始まる。

 0.01%のエラーが引き起こす、

 最悪で、最強の物語が。

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