美の女神の息子、噂の令嬢を秘密の神殿で甘やかします

ぱぴぷぺスンスン

第1話女神の嫉妬

——私より美しいだなんて烏滸がましい!——

フランは夜空をゆらゆらと飛びながら、母である女神の金切り声を思い出していた。



『人間なのに、美の女神より美しい令嬢がいる』

神々の間で最近持ちきりの噂。

そう、ただの噂にすぎない。しかし、美を司る母からすれば、そんな眉唾ものの風説すら、プライドが許さないようだった。


全く、面倒なことになった。かく言うフランが、こんな夜中に人間界に向かっているのは、女神からの通達が理由である。


——噂の令嬢を、そこらへんの適当な男とくっ付けておやり——


(なんで俺がそんな面倒なことを……)

心の内で大きなため息をつくも、反論する方が厄介だということは、フランが一番よく知っている。件の娘に恨みはないが、女神の怒りを買うのも御免だ。さっと行って、さっと片付けてしまおう。そんなことを考える内に、目的地である館の庭に降り立った。



「ここがファルファラ家か……うーわ、超メルヘンじゃん」

星明かりが、イルカを模した噴水に反射して、庭全体がキラキラしている。バラのアーチに、藤の花が絡むガゼボ、風に揺れる白いブランコ。

(……大事に育てられてんなぁ)


「——って、感情移入してんじゃねえ!」

フランはハッとして大きく頭を振った。

神々の一員であるというのに、どうにも人間めいた感情が湧いてしまうのは悪い癖だ。長くこの場にいたら、任務遂行に支障が出る。そう思ったフランは、急いで娘の部屋へと向かった。


人間の作った鍵など、神の前では意味を成さない。

「失礼しますよ……っと」

形だけ断りつつ、館の最奥にある扉を開けると、天蓋付きのベッドがまず目に入る。そこに横たわるシルエットは、フランが想像したよりも、ほっそりと華奢だった。

(この子が例の……。)


フランがそう思うと同時に、彼女はころんと寝返りを打つ。


「……え」


瞬間、思考が止まる。月光の中、柔らかそうな漆黒の髪がさらりと落ち、あらわになった相貌は、フランの語彙力で表現できるレベルをはるかに超えていた……というより、シンプルに頭が真っ白になっていた。

噂とは、尾鰭がつくもの。美の女神たる母を凌ぐなどあり得ない——その予想は見事にハズレ。女神のようにグラマラスな魅力を持たない代わりに、全体的に小作りな体躯は静謐なまでの清らかさをたたえていた。人間なのに、まるで天使のよう。

触れることすら躊躇させられて——


「え、待って。この子を変な奴に恋させろと……?」


感情移入などしないと、ほんの数刻前にした決心が音を立てて崩れていく。

「おかん……これ、俺にはハードル高いっす……!」


頭を抱えるフランをよそに、すやすやと寝ていたはずの少女のまつ毛が、ふる、と小さく震えた——。

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