魔王軍、勇者の赤子を拉致る

麝香連理

第1話 魔王軍、赤子を拉致るってよ

「よく来たな、コルノリア。」

「はっ!魔王様!」


 眼鏡を掛けた金髪ポニーテールのドラゴニュート族であり、魔王軍最高官である九兲の一人、鬼謀のコルノリア。

 そんな彼女が頭を垂れる先にあったのは、仰々しい豪華な椅子に、場違いな程モコモコなクッションに輝く宝石であった。


「さて、此度呼んだのは───」


 何を隠そう、この宝石こそ魔たる者達の長、魔王キグラその御方である。

 言っておくがこれが本来の姿とかではなく、五年程前、勇者と呼ばれる人間の希望との対峙により、封印された姿なのだ。

 

「はっ!その件に関しましては───」


 本来なら宝石に封印された時点で喋ることなど不可能。しかし、流石は我らが魔王様!

 事前に力の一部を保管しておいたことで、最低限の意思を封印された後に獲得されたのだ!

 これこそ我らが王の機転。人間共も、着々と魔王軍が魔王様指導の元、力を蓄えているとは思うまい。


「では次に………む?これはいった」

「っ!?魔王様!……魔王様ッ!!!」


 な!?魔王様が消えてしまわれた!

 ここは私の力で探知して……………事象操作さえすれば、原因となった過去を読み取ることなど造作もない。

















「キャーーーッ!」

「凄いわルノ!立派なお家作れたわねぇ?

あ、ごめんねぇ、ルノ。お母さんちょっと外に行くから、大人しくしててね?」

「あーだぁー!」

「はい、良いお返事です。」


 赤子だ。しかしこれと魔王様になんの………

 ん?赤子の傍に落ちているあれ、魔書か?

 それを開いて………っ!?赤子が魔力を使っているだと!?


 宝石が召喚された?魔力を注ぐだけとは、かなり即効性を重視した魔書のよう………ってあの宝石!

 ま、魔王様っ!?どういうことだ!?あの魔書に魔王様を呼び出す呪文でも…………とりあえず中身を拝見………………


 なん……だと………っ!

 あの勇者………和平だなんだと言っておいて、何かあった時用に魔王様を封印した宝石にいつでも召喚させれる魔法を仕掛けていたのか!

 くっ………いや、しかし事を起こす前に知れたことは僥倖か。

 それにさっきの母親、少し雰囲気が変わっていたが間違いない、勇者の仲間だった魔法使いの女だ。

 そしてあの赤子は勇者と魔法使いの子どもなのは確定だろう。

 この魔力量、尋常ではないぞ。



 私がそう考えていると、身体に衝撃が走って慌てて意識を視界に戻した。


「ここにいたのかっ!」

「こ、これはコルノリア様。」

 痛いよぉ………ぶつこと無いじゃんかぁ………

「魔王様が消えたっ!お前の千里眼で追えっ!」

「もう、見付けてます。魔王様は憎き勇者の家に。」

「………どういうことだ。」

 痛む頬を擦りながら、今見たことを伝えていく。



 








「おのれ勇者ァァッ!」


 コルノリア様は珍しく激昂して、壁を拳で破壊してしまった。

 あーあーお気に入りの昼寝スポットだったのに、これじゃあ風が吹き込んで寝られりゃしない。

 それにここ高層だから修理大変だろうなぁ。


「詳しく確認しますので、少々……………」

 そう思いながら千里眼を再開すると、魔王様が……


「どうした?」

「大変です。」

「大変なのは知っている。………魔王様に何か!?」

「目を離している隙に、勇者の子ども、ルノという赤子が、宝石を飲み込みました。」

「……………………は?」

「と、とりあえず詳しい居所を探りますので、ルルグ様に連絡を!」

「……ハッ!?そ、そうだな。早急に居所を解明せよ!私は九兲で緊急会議を行う!」

「承知!」





 クソッ!ゴブリンでも宝石は飲み込まないぞッ!

 ……いかんいかん、相手は赤子だ。大人ゴブリンよりも知能が足りなくても仕方ない。

 しかし取り返すにはどうするか。


 …………赤子の排泄……までは無理だな。

 出てきても魔王様は自力で動けない。その状態で勇者か魔法使いに見付かりでもすれば、危険だ。なんせあの宝石には後から付与された魔王様の魔力が宿っているからだ。

 ここは赤子の腹を裂いて取り出すしかないか。



 場所は………うん、街から遠いな。

 とてもやりやすいな。山奥に住居を構えたのが仇となったな。



 九兲が会議をしている部屋に向かって、魔力による伝令を飛ばす。後はルルグ様が向かったところを逐一眺めるぐらいかな。

 私に出来るのはこの程度だ。
















 うん、流石はハルピュイアのルルグ様。速いねぇ。




「ここか……………」


 容姿がワイルドなイケメンなことも相まって、五年前の人間との戦いで、ルルグ様が勇者にやられそうになった時、ルルグ様に惚れたどっかの人間の姫が助命を願ったそうな。

 ルルグ様は一生の恥って悔いてたけど、私からすれば助かっただけ儲けもんだと思うんだけどねぇ。



「あーうだーう!」

「見付けたぞ………今お助けします!魔王様ッ!」


 ルルグ様が窓から見えた赤子目掛けて突撃。

 衝撃で窓が割れ、ルルグ様が赤子を抱えて飛び立とうとした。

 その場で腹を裂かないのか。まぁ、そんな時間ないか。それに、拉致と殺害なら拉致のがまだマシだな。




「待て。」


 静かな、しかしよく通る声にルルグ様が振り向いた。

 こういう時に武人ってのは律儀なんだからもぉー。


「勇者コーラル、久しいな。」

「うちのルノが可愛いからって、それはやりすぎじゃないか?」

 

 殺意の籠った目を開き、勇者は剣を抜いた。


「知ったことか。」

「和平はどうした?破る気か?」

「戯れ言を。」

「そうか………………」

「悪いが時間がない。帰らせて………」


 ルルグ様が踵を返そうとしたその時、足に光る鎖が巻き付いていた。


「随分舐められたものね。私とコーラルが揃っているのに。」

「魔女ヘザー、流石だ。」

「その余裕、いつまでもつかしら。」

「こちらこそ言わせてもらおう。この赤子がどうなっても良いのか?」


 おぉ!流石のルルグ様も魔王様が関わってるからか、非常な手段が取れているぞ!


「ヘザー。」

「何?」

「ここからルノにだけ障壁を張って俺の一撃に耐えられる確率は?」

「2%ね。」

「そうか。」


 勇者はゆっくり頷くと、剣を鞘にしまった。


「2%もあるならダメだ。」

「そうね。万が一傷でもついたら耐えられないわ。」

 魔女も溜め息をついて杖を構えるのを辞めた。


 えぇ……………?


「フン!その選択、後悔するでないぞ!」

「お前もだ。ルノに何かしてみろ。

───今度こそ殲滅してやる。」



 ……………クソ、千里眼越しでこの圧力かよ。

 流石は九兲。動じること無く帰ってきてる。

 私なんて汗で服がびしょびしょなのに。




 さて、九兲方はあの赤子。どうするのかねぇ。

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