1・お似合いのふたり

Mはモノローグで、

SEは効果音やその場の喧噪の表現になります


―――――――――――――――――――――――




M大「幼馴染の小春が籍を入れる。そんな話を聞いたのは半年前ぐらいだった。同世代の中で飛び抜けて可愛かった小春は、高校を卒業してから東京の大学へ行った。世の男たちが放っておくわけがない。しかし、並みいる男たちの求愛をことごとく跳ね返したそうだ」


    SE コンビニ


M大「今俺は、駅にやって来ていた。小春が小正月の祭りに合わせて帰郷するから、迎えを買って出ていたのだ。それに、ずっと片想いをしていた小春を、射止めた奴の顔をどうしても生で拝んでみたかった」


    SE 電車が到着、乗降する人々のざわめき 


大「そろそろお出迎えしてやるか。広保、行くぞ」


M大「食い入るようにマンガ雑誌を読んでいる広保の肩を小突く。広保もまた、俺と小春とは幼馴染の間柄だ」


広保「えー? もう少しで読み終わるのになぁ」

大「なんだよ。お前も見たいって言ったから、連れて来てやったのに」

広保「はいはい、行きますよ。それにしてもさ、どんな奴だろうな。最低限、俺や大よりイケメンだよなー」

大「そりゃ、そうだろう。でなきゃ、過去にフラれた俺たちがミジメだ」

広保「だなー。高校卒業までいっしょにいたけど、結局、アイツの好みはわからずじまいだったもんな」


M大「俺たちはコンビニを出て、ホームに近い入口で待つことにした。自動扉に近づいたと同時に若い男女が出てきた」


小春「あっ、大に広保! 迎えに来てくれてありがとう!」

広保「なあに、いいってことよ」

大「お前は助手席で寝てただけだろ」


M大「俺たちに近づいて来る長身の男がいた。黒のダッフルコートをまとい、ふたり分のトランクを引いている。おそらく、小春の旦那となる奴だろう。中性的で端正な顔立ちで、色白。それでいて細身の長身だ」


小春「やっと来た。遅いよーっ」

飛鳥「(無視して)大さん、広保さん初めまして。千歳飛鳥と申します。以後、よろしくお願いします」


M大「飛鳥さんはイケメンというより美男子。まるで塚のつく歌劇団を思わせる容姿に、直視することができなかった。男として、人として、負けたと思ってしまった」


小春「無視はよくないと思うんですけど」

飛鳥「……あまり先に行かないでくれよ。迷ったらどうするんだい」

小春「こんな小さい駅で迷うわけないでしょ。それに、迷ったら、わたしの話を聞いてないってことだよね? 賑やかなほうに出るよって言ってたもん」

大「初めて来る人間に言ってもわからんだろ」

広保「小春ー、お前凄いな。どこでこんなイケメンと出会ったんだよ」

小春「ふっふっふ、それはひーみーつ!」

大「じゃあ俺、車を取って来るから」

飛鳥「僕も行きます。車に雪が積もっていたら、落とさなければなりませんし」


M大「イケメンというより美男子。まるで塚のつく歌劇団を思わせる容姿に、直視することができなかった。付け入るスキがない。しかも気が利くような感じ。だらしなさそうな男だったら、俺が小春を奪ったのに」


大「いやいや、いいですよ。千歳さんはお客さんなんですから」


    SE 雪の中を走る音


M大「降りしきる雪の中を、飛鳥を振り切るようにして自分の車に急ぐ。エンジンスターターをかけていたから、大体は融けてはいた。気になる部分の雪を落とし、ロータリーへ車を回す。3人を拾って、竹之山たけのやまへ車を走らせた」


    SE 車が雪の中を走る音


小春「やっぱり、こっちは凄いねぇ。かなり積もってるでしょ?」

広保「2メーターぐらいかな? まだまだ降るから、ブン投げがいがあるってもんだ。飛鳥さん、小春から聞いてるんでしょ」

飛鳥「あははは、聞いてますよ。どうぞお手柔らかに」


M大「俺が住む竹之山という地域では、小正月の1月15日に『婿投げ』という行事がある。地域の女性が結婚した場合、その旦那が約5メートルの崖から放り投げられるものだ。崖下は、大雪でクッションになっているから無傷で済む。……豪雪地帯だからいいものの、よく死人が出てないな、と、その年の婿をブン投げるたびに思う」


大「しかしよかったですねー、電車が動いて。この辺りって冬場になると、止まっちゃうことも多いので」

飛鳥「よくわかります。僕も、よく雪や強風で被害を喰らってましたから」

大「千歳さんのご出身は?」

飛鳥「秋羽あきはです」

大「おお。だから、色白なんですね」

飛鳥「日焼けしやすい肌だから、大変なんです。一応、モデルをしてるもので」

大・広保「モデル!?」

飛鳥「はい。男性向けのファッションモデルをしてます」

小春「今も日焼け止めを塗ってるんだよ。冬の雪のほうが、日光の反射率がえげつないからって」

大「大変なご職業ですね」

飛鳥「そうですね。日々、努力の連続です」

広保「凄いなー。俺なんか塗ったことねえよ」

大「お前は地が黒いから意味ないだろ」

小春「あっ、飛鳥、大事なこと言ってないじゃん!」

飛鳥「え? ……ああ、実家が日本酒を作ってる酒造なんです」

大「マジですか!? 俺も酒造で働いてるんですよ。ということは、結構飲めたりするんですか?」

飛鳥「だいぶ飲めますよ。二日酔いもしたことありませんし」

広保「頼もしいね。雪国育ちはそうこなくっちゃ。今日はとことん飲みましょう!」

大「ほぼ下戸みたいなもんが、何を言ってんだ」

小春「そうよそうよ。ビールの大瓶1本でベロンベロンじゃ、話になんない」

広保「小春まで……。寄ってたかって言うのはどうかと思うなー。ね、飛鳥さん」

飛鳥「広保さんは、お酒自体が好きですか? それとも、お酒を飲む場が好きなんですか?」

広保「どっちも好きっすよ! ただ、このふたりほど飲めないんすよねぇ」

飛鳥「広保さんは、無理せずにゆっくり飲みましょう。それか、ジュースといっしょに飲むのもありです。少量でもいいんです。お酒は、量を飲めればいいというものではありません。体を壊さないよう、自分に適した量を知ることが重要なのです」

広保「すげぇ……。決して置き去りにするんじゃなくて、寄り添うような言い方。ちょっとしか飲めなくてもいいんすね。これは、男の俺でも惚れちゃうわ。ったくさ、大と小春も見習ったらどうなんだよ」

大・小春「何を?」

広保「もういいよ」

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