第6話 7人の女子生徒




 


 不気味な感情が、俺の胸元をじんわりと満たしていった。





 サラとの気まずい沈黙を破ったのは、岩陰からの衣擦れの音だった。


 俺とサラが同時に振り返る。

 森の境界にある大きな岩の裏から、怯えたような視線がいくつも覗いていた。

 サラが、ハッとして姿勢を正す。

 

「……出てきなさい。もう安全よ」

 

 その言葉に、最初は一人、また一人と、おずおずと姿を現した。


 全員で7人ほど。

 その集団を見た瞬間、俺は目を丸くした。

 ドラゴンを見たときとは違う、場違いなほどの華やかさがそこにあったからだ。



 


 全員が、目を引くほど愛らしい少女たちだった。

 




 彼女たちは、揃いの制服を着ていた。

 おそらく、魔法学校か何かの生徒だろう。

 ピンクのセーターに白を基調としたブラウスに、黒いマント、そしてチェック柄の赤いスカート。

 問題は、そのサイズ感だ。

 



 まず、スカートが短い。


 短すぎる。


 サラの鎧も大概だったが、彼女たちのスカートは、歩くたびに太ももの付け根が見え隠れするほどの超ミニ丈だった。


 ひらひらとしたプリーツが風に揺れ、その下から伸びる脚は瑞々しく白い。

 7人全員が、すらりと伸びた、柔らかそうな脚をしていた。

 


 

 そして、上半身。

 あきらかに育ちすぎだ。

 俺は思わず視線をさまよわせた。


 全員が、ボタンが弾け飛びそうなほどの豊満さを備えている。

 ピンクのセーターとブラウスの生地が悲鳴を上げているのがわかる。

 ベストが胸の膨らみに押し上げられ、ウエストとの高低差でくっきりとしたラインを描いている。

 しかもVネックで谷間が見え見えだ。



 あどけない顔立ちとのギャップが凄まじい。

 赤色、栗色、銀髪――髪色は様々だが、誰もが深窓の令嬢のような品があるのに、首から下だけが妙に無防備で扇情的だった。

 

「……あ、あの……」

 

 先頭にいた、栗色の髪の少女が声を上げた。

 大きな瞳が潤んでいる。

 恐怖と、安堵と、まだ信じられないという色が混じり合っている。

 クラスに一人はいる、守ってあげたくなるタイプの可愛さだ。

 

「ケルベロスは……?」

 

 彼女の視線が、俺の背後にあるケルベロスの巨体に向く。

 首が断たれた死体。

 少女たちは息を飲んだ。

 小さな口をあけ、華奢な手を胸元に当てる。

 

「死んで……る……?」

「嘘……あんな怪物を……」

「サラ様でも、苦戦されていたのに……」

 

 さざめきが広がる。

 そして、その7人の熱っぽい視線が、一斉に俺に集中した。

 

 彼女たちから見れば、カイトは異様な存在だろう。

 見たこともない服(パーカーとジーパン)を着た男。

 泥一つ、血一つ浴びていない。

 息も切らさず、ただ静かに佇んでいる。

 圧倒的な「死」を撒き散らしていたケルベロスの前で、唯一「生」を掌握している男。

 

 吊り橋効果。


 それは、少女たちの頬が、一斉にぽっと朱色に染まったことで証明された。

 

「……す、すごい……」

 

 誰かが呟いた。

 それを合図に、少女たちが駆け寄ってきた。

 駆け寄る動作すら、どこか甘い空気をまとっている。


 

「ありがとうございます! 助けてくださったんですね!」

「強すぎます……! 魔法も、剣も……!」

「私、もうダメかと思いました……食べられちゃうって……」

 


 俺は、あっという間に美少女たちに包囲された。

 距離が近い。

 近すぎる。

 甘い匂いが鼻腔を満たす。花の香りと、若草のような体臭と、恐怖で少しかいた汗の匂いが混じり合った、女の子特有の香り。

 二の腕に、誰かの柔らかい感触が当たる。

 背中に、誰かの温かい太ももが触れる。

 


「あ、いや、俺はただ……」

 

 

 俺が顔を真赤にして後ずさると、少女たちはさらに詰めてくる。

 上目遣い。

 涙で濡れた瞳で、尊敬と好意を隠そうともせずに見上げてくる。

 

「お名前を……教えてください!」

「どこの騎士様ですか?それとも宮廷魔導師様?」

「そのお洋服、見たことないですけど……異国の貴族様?」

 

 質問攻めだ。


「……おぉ、い、いやぁ……あはは」


 まんざらでもなかった。


 一人の少女が、感極まったようにカイトの手を取った。

 両手で包み込むように握る。

 手が小さく、柔らかく、温かい。

 そして、そのまま自分の胸元に引き寄せようとする。

 

「こら! あなたたち、カイトから離れなさい! 」

 

 サラが慌てて割って入った。

 顔を真っ赤にして、俺と生徒たちの間に立ちはだかる。

 

「サラ様! でも、この方が!」

「わかってる!でも、まずは礼儀でしょ! それに、そんな……ベタベタして……はしたない!」

 

 サラは言いながら、チラリと俺を見た。

 嫉妬のような、焦りのような色が混じっている。

 自分だってさっきキスしてしまったくせに、生徒たちが俺に触れるのは許せないらしい。

 

 とにかく彼女たちの目には、俺がただ強いだけでなく、ドラゴンの「格」そのものを無視する超越者に見えているはずだ。

 

 ――なるほど、そりゃあモテるわけだ。

 

 カイトは少し自嘲気味に思った。

 モブだった頃には一生縁がなかった状況。

 でも、悪い気はしない。

 むしろ、目の前で揺れるスカートの波と、押し寄せられる好意の熱量に、男としての本能が心地よく刺激されている。

 

「……それにしても」

 

 カイトは、サラに詰め寄られて縮こまる生徒たち――特にその無防備な太ももを見ながら、小さく呟いた。

 

「なんで、みんなそんなにスカートが短いんだ……?」

 

 その疑問は、誰にも届かず、甘い香りの風に溶けていった。











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【イラスト】

この回ではお見せできなかった制服姿のエリーのイラストをツイッターで公開しています。

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ピクシブも

https://www.pixiv.net/artworks/140047314

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