期限切れの神様
かんざし こころ
第1話 期限切れの神様
「初詣行かない?」
年越しの瞬間を共に過ごし、酒に飲まれるようにして眠りについた。初日の出はすでに頂点を回った頃。先に起きていた彼女が、僕に向かって、開口一番に言ったのは、その言葉だった。
「今日は人やばいだろ。」
眠け眼を擦りながら、起き上がる。
根っからインドア系の僕。
「え~。せっかくだから行こうよ。」
反対にアウトドアな彼女。
「何万人の願い事のなかで、僕らのが選ばれるわけないじゃん。」
「ん~。」といった表情。それもそうかと彼女は考える。
そして、口を開いた。
「じゃあさ、私たちが出会った廃村の神社行かない?あそこなら人もいないし願い聞いてもらえるかもよ。」
新年早々かと思ったが、それは心が高鳴った。
あの場所は、正反対な僕たちが付き合うことになった理由でもあった。
「こっちの方向だったと思ったけど……。」
車を走らせる。あの廃村は元々、目的地ではなかった。別の心霊スポットに行った帰りに、たまたま通りかかった場所だったからだ。
「次、右ね。」
彼女は、よく覚えているようで的確に指示を出してくれる。
前は、こんなにかからなかったような気もするが、なんとか日が落ちる前に、それらしき場所に辿り着いた。
車を降りて、木々の間を縫って行くように彼女の後ろを歩く。廃屋、小さな廃校の奥に鳥居が見えた。大層立派なものであったが、手入れはされておらず、いつ傾いてもおかしくなさそうな状態。
真ん中をズケズケと進んでいく彼女。僕は軽く礼をしてから石段を上がる。
長い石段の中腹から、徐々に霧がかかりだす。日没までは、まだ時間があると思っていた空も、階段を上りきる頃には薄紫色に染まり始めていた。木々は妙なほど静かで、風一つ吹いていない。
ボロボロの参道を、二人でゆっくりと歩く。途中で狛犬に手を添える彼女。なぜか、一瞬だけ笑ったように見えた。
お賽銭箱は朽ち果てかけていたが、拝殿のほうは思ったよりも綺麗な佇まいだった。
――ここで、彼女と出会ったんだ。
同じことを思っていたのか、こちらを向いて小さく笑う。
貧乏大学生のなけなしの500円玉を賽銭箱に投げ入れる。
――ずっと、あなたの隣にいれますように。
礼を終えて顔を上げると、すでに彼女は石段の手前まで戻っていた。
残り、3段。
鳥居の真下に小さな紙切れを見つける。行きには、なかったような気がするが。
――おみくじ。
「おみくじ落ちてるじゃん。」
彼女を追い抜き、右手で拾い上げる。
「開けてみてよ。」
少しだけ寂しそうに笑う彼女。
「縁起、悪くないか?」
「いいんだよ。」
どこか説得力のある言葉に僕は指先を動かした。
――大吉
――恋愛:新しい恋を探すべし。
――待ち人:すぐに去る。
「来てくれてありがとう。狐に化かされるなよ!」
「え?」
突然の彼女の声に顔を上げる。
石段の霧は晴れ、空は青い、さっきまでの静寂は嘘だったかのように木々は語り出す。
そして、彼女もいなかった。
全てが、日常に戻っていた。
期限切れの神様 かんざし こころ @kokoro_kanzashi
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