お天気姫様と魔法使い

小絲 さなこ

✴︎

 どうしたんだい。うんうん、眠れないから昔ばなしをしてほしい?

 仕方がない子だねぇ……


 むかしむかし。

 坊やが生まれる、ずーっと、ずーっと昔の話さ。




────

 

 大陸の東の果てに、とても小さな国があった。

 それはそれは美しい国で、一年中、色々な花が咲き、お野菜や果物も沢山採れる豊かな国だった。


 その国のお姫様は、とても不思議な力を持っていた。

 お姫様が笑うと、雲が晴れて太陽の光が大地に降り注ぎ、ポカポカと暖かくなる。

 お姫様が泣くと、黒い雲が空を覆い、大地に雨が降り注ぐ。

 お姫様は『お天気姫様』と呼ばれ、王様や国民たちから大切にされたけれど、自由に笑ったり泣いたりすることは禁じられていた。

 そりゃそうだ。

 お姫様が笑ったままだと雨が降らないし、大泣きしてしまったら大雨になってしまうからね。

 お姫様は、王様に言われるがままに、笑ったり、たまに泣いたりして、お野菜や果物が立派に育つように頑張った。



 あるとき、大陸の大きな国からたくさんの兵隊たちが小さな国を攻めてきた。

 小さな国は、あっという間に大きな国に占領され、王様や大臣たちは捕らえられ処刑されてしまった。


 お姫様も処刑されそうになったけど、若くて美しかったから、大きな国の王子様のお嫁さんにしようということになり、大きな国へと連れていかれた。


 大きな国の王様や王子様には、たくさんのお嫁さんがいて、小さな国のお姫様も、そのたくさんのお嫁さんのうちのひとりになったんだよ。



 小さな頃から自分の感情を表に出さない訓練をさせられたお姫様は、とても辛くて悲しかったけど、涙ひとつこぼすことはなかった。そして、笑うこともなかった。

 王子様は、それが面白くなかったみたいだね。

 お姫様が嫌がるようなことをしたり、叩いたり、蹴ったりしたこともあった。

 どんなことをしても表情を変えないお姫様に腹を立てた王子様は、とうとうお姫様を処刑すると言い出した。


 そのとき、大きな国で一番の力を持つ魔法使いが現れて、王子様にこう言ったんだ。

「処刑してしまうのでしたら、私がしている研究の実験体としてその娘をくれませんか」とね。

 王子様は「好きにせよ」とお姫様を魔法使いに差し出した。

 魔法使いは、病気を治す研究をしていたから、それに役立つなら良いかと思ったんだろうね。


 魔法使いは自分の研究施設にお姫様を連れて帰ると、まるで自分の妻のようにお姫様を大切に扱った。

 始めは警戒していたお姫様だけど、だんだんと魔法使いの優しさに触れていき……気がつけばお姫様は魔法使いのことが好きになってしまった。

 魔法使いも実はお姫様に一目惚れしていたことがわかって、ふたりはこっそり誰にも知られない秘密の結婚式をした。

 そして、森の片隅で静かに、だが幸せに暮らした。



 だが、その幸せは長くは続かなかった。

 

 研究が進んでいるように見えない、と王子様に怪しまれてしまったのだ。

 ふたりは別の国へ逃げようとしたが、国境の手前で兵隊に捕まってしまった。


「この嘘つき魔法使いめ!」

 王子様の剣が魔法使いの胸を貫き、それを目の前で見てしまったお姫様は泣き叫んだ。

 すると、雷があちらこちらに落ち、大雨で川が溢れた。山が崩れ、町を、森を飲み込んでいった。



 気がつくと、お姫様ひとりだけが小さなボートの上にいた。

 国ひとつを自分の涙で滅ぼしてしまった。だけど、自分だけが助かってしまった。そのことがとても辛く、お姫様は泣いた。

 

 何日も何日も泣いた。


 だけど、お姫様がどんなに泣いても、雨は降らなかった。



────


 ……ん?

 不思議な力を無くしたお姫様はそのあとどうなったのかって?


 そうだねぇ……

 小さなボートで他の国にたどり着いたかもしれないね。

 

 むかし、むかしの話さ。

 生きていたとしても、あたしみたいなおばあちゃんだろうね。

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