飼ってるペットが人間になる世界 episode2

まる

第1話 スノーホワイトの少女

 母さんが死んだ。

 享年72歳。

 100歳近くまで生きる人だってめずらしくない現代なら、決して長生きとは言えない年齢だろう。呼吸器が弱かった母さんは、高熱を出して入院したかと思ったらそのまま肺炎であっけなく帰らぬ人となってしまった。

 葬儀は家族葬にした。大人数で慌ただしい葬儀にはしたくない。母さんも生前そう言っていたから。でもいざ葬儀となれば、慌ただしくあっという間に時間が過ぎていった。口数の少なかった母さんは、思ったよりもいろんな人から慕われていたみたいだ。葬儀場にもひっきりなしに人が訪れて、その対応にずっと追われっぱなしで。

 ようやくひと息つけたのは、母さんの火葬を済ませてからだった。

――蔦林陽つたばやし ようは葬儀場の敷地のすみっこに置かれた喫煙スペースに行き、取り出した煙草に火をつけた。ゆらりと煙を肺に吸い込み、吐き出す。

 参列してくれた人たちも帰っていった。あとは骨箱こつばこにおさまった母さんの遺骨を持ち帰るだけだ。

 これから、母さんの遺したものの片づけをしないと。

 銀行の口座、死亡保険、家と土地の名義変更……やらないといけないことが次々と思い浮かぶ。母親を亡くしたばかりだというのに、事務的なことばかり考えている自分はかなり薄情な息子に違いない。いや、もしかしたら考え事で喪失感を紛らそうとしているだけなのか。

 とりあえず、真っ先に片付けないといけないものは何だろう。母さんの大切にしていたもの――。

「やべっ」

 頭の中をよぎったのは、真っ白な生き物。

「マジでやばい、もう3日はほったらかしだ!」

 急いで自分の車に乗り込む。すっかり忘れてしまっていた。母さんが世話していた真っ白なオウム。たしかタイハクオウムといったか。あれは母さんだけでなく、父さんの形見でもある。数年前に死んだ父さんが大事にしていたオウムを、母さんはずっと世話し続けていた。

 あのオウムにエサを最後にやったのはいつだったか。たぶん3日前に母さんが危篤になってから、水もエサもそのままのはず。

 もしかしたら、と最悪な結果を考えてしまう。

 家の前に急ブレーキで車を停めて、乱暴に玄関のドアを開ける。それほど広くない一軒家だ。鳥かごの置いてあるリビングには数秒でたどりついた。

「なんだよ、これ……」

 夢でも見ているのだろうか? 家の中なのに雪が降っている。ひらひらと舞う雪のように白いもの――それは鳥の羽だった。

 そして鳥かごのそばにいたのは、雪のように真っ白な髪の少女。生まれたままの姿で何も身に着けていない。

 おそるおそる少女に近づく。真っ白な髪の毛には、やはり同じく雪のように白い羽毛が混じっていた。


「お前……『憐人りんじん』になったのか」

 間違いない、この少女は母さんが世話をしていたオウムだ。あのオウムも雪のように白かったから。

 そして、この世界では――。

 飼ってるペットが人間になることが、まれによくある世界なのだから。

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