ある王子は神童の対抗馬となり、ある神童は対抗馬に惚れた。〜緊急回避!バッドエンド〜
金賀 治武峯
帝國の陰謀編
第1話 どこやねんここ
…
……
………
知らない天井だ……。
…いや知ってる。見たことはある。でもなんか違う……。
ーーーーーーーーーーーー
「…朝か。」
なんだかとても、不思議な気分だ。妙な夢を見ていた気がする…。
後で、馴染みの占い師に聞いてみようかな。
「よいしょ…」
布団を除け、ゆっくりと足を下ろす。朝は苦手だ、頭が冴えない…。
「ふわぁ…」
あくびを噛み締めながら、サイドテーブルの櫛を手に取り、短い金髪を整える。さて、次は着替えだ。ここだけの話、これが少し面倒なのは内緒。
――ズキン。
「ん?」
なんだろう―?今、胸が―。
――ズキン!
「うぐっ……!?」
これは!?
く、苦しい…!
胸…いや違う、これは…!
「あたま、が…!」
割れる…!割れそうなほど痛い…!
病か、呪いか!?何処かから呪術師が呪いを!?
畜生、無念だ…!
ナンツ王国の第二王子が、呪いで死ぬなんて…!
「か…は…!」
まずい、もう息ができん…!
ここ、まで、か……。
―――ギュルン!
「ゔ!ゲッホ、エッホ!う…ゲホッ!」
はあ、はあ…
何だ…?急に、もとに戻った…?
…まて、どこだここは?ウチはこんな豪華な部屋じゃないぞ!
…何を考えているんだ僕は?ここは僕の部屋、だが…なんだ、この強烈な違和感は!?
「HAHAHAHA☆やっほほーい、コンニチハ!ワタクシ、神様デース!」
「は――?」
突然、目の前に凛々しい男性が現れた。
柔和な笑みを浮かべ、頭上には光る輪が浮かび、背後には後光と純白の翼があった。
男性は高らかに笑うと、自分を神だと言った。
「トイッテモ、ワタクシはコノ世界の神様で、アナタの世界の神様デハアリマセンヨ、多実口サン。」
THE・外国人といったカタコトの言葉で、神は続けた。
言っている意味がまるで分からないが、心の何処かで納得している自分がいる。
「…オヤ?ソノ表情…。モシカシテ、記憶ダケ融合シテ、魂ガ融合シテいない!?」
神はしまったという顔をした後、慌てて何らかの呪文を唱えた。
―――ズキン!!!!!!
「ぐわあああッ!」
何だ、これは!?
体の中が、ごちゃまぜになるような――!
ーーーーーーーーーー
「大丈夫デスカー?」
目を覚ますと、ニコニコとした笑みを浮かべた神がそばに立っていた。
「ここは…?」
「ご愁傷サマデス、多実口サン。アナタハ不運ニモ船カラ転がり落ち、溺死シテシマイマシタ…。」
…改めて聞くと、すげえ死に方してるな、俺…。
「シカシ!アナタハ幸運ニモ転生シ、コノ「ナンツ王国」ノ第二王子ニ生まれ変わりまシタ!」
わぁ、すんげえ胡散臭い。でも事実なんすよねェ…
「――もうよいだろう。その奇特なやつには、この私が直々に祝福してやる。」
と、これまた唐突に現れたのは、青を貴重とした衣服に身を包み、身長の倍ほどもある杖を携え、紺色のとんがり帽子を被った、少し冷徹そうな印象を受ける美女。
このケーニヒの記憶によれば、彼女はこの国が祀る、魔術の神ライン。
ラインの言葉に、神は苦笑しつつ答えた。
「ソウデスカ。デハ、ワタクシはコレデ。何かと忙しいのデス、総合神ハ!アトは頼みますヨ、ライン!」
「ああ。任せておけ。」
そう言うやいなや、神は出てきたときと同じように、ポンと音を立てて消えた。
――さて。強引だが、今のうちに現状の説明をしておこう。多分ついてこれてない人が多いだろうから。
まず、このケーニヒの体には、1人分の魂と、2人分の記憶がある。
俺の記憶と、ケーニヒの記憶。この意識は、この2つの記憶をかけ合わせた、いわば第三の人格だ。
と言っても、これまでと何も変わらない。
俺は俺だし、ケーニヒはケーニヒだ。
よくある異世界転生モノの、少し回りくどい説明だ。
俺は前世で船から転がり落ちて死んだ。そして運よく転生した。
本当にそれだけ。神様との対面?さっきが初めて。
この世界について?しらねーよ。
何でそんなに冷静なんだって?――考えてみると不思議だ!
「そろそろいいかな?」
と、ラインの声によって、
「コホン。では、お前に私の祝福をくれてやる。この世界でも神から直々に祝福されるのはごくわずか、近代においてはお前含めて2人だ。」
「一人じゃないんですね」
正直に疑問を述べる。
「本当ならもう一人だけなのだが…。そいつに祝福を授ける神が気に入らんヤツでな。ちょうどお前が転生すると聞き、対抗馬に仕立て上げようという訳だ。他にも、お前にはやってもらうことがある。」
嫌な思い出でもあったのか、ラインは顔をしかめた。
「おそらくもう一人の方…アントンは、魔剣の神ドリュウズから祝福を受けるだろう。魔剣の神の祝福は、剣の腕前がとてつもなく、魔法の腕も特等魔術師並の、化け物みたいな魔剣士を作り出す。」
ラインは俺の方を見やった。
「お前には、この世界で一番の魔術師になってもらう。前世が平和ボケした世界とあらば、剣を握ることすらままならないだろうからな。」
ぐ、痛いところをつかれる…
「ともかく、お前は今から、この世界に存在するあらゆる魔法の知識、あるいはお前が新たに発見するであろう魔法に対する土台を得る。この土台により、お前は得る知識を無駄なく効率的に取り込み、自分なりに扱えるようになる。土台が出来たら、あとは私が特訓してやる。その、アントンとかいう魔剣士に負けないような魔術師になれるようにな。」
「…えっ、神様直々に指南して良いんですか?」
それはちょっとルール違反では。
「構わん。ドリュウズもそうするだろう。これまでに祝福を受けた者たちも、皆その神から直々に修行を受けている。」
「そうなんですか…」
「うむ。まあ、何だ。この城には丁度いい空き部屋が沢山あるようだからな、暇なときに適当な部屋に入れば、稽古をつけてやろう。」
「どこにでもいるんですか?」
「ああ、どこにでも。」
…神様ってスゲー。
「…では、お前に祝福を授けよう。跪け、頭が高いぞ。」
「へい。」
一応、俺の今の肩書は王族なのだが――。
前世でネット掲示板に入り浸っていただけあって、なんというか行動が軽い。
決してニートではないぞ!?何なら年収823万だし。本当だぞ!
…それに何より、神様に人間の王族だ何だって言っても、しょうがないだろう?
ラインは、跪いた俺の頭に手を載せた。
「――答えよ。汝、生涯の主神を、魔術の神ラインと定めるか?」
「もちろんでございます。」
「――答えよ。汝、生涯をかけて魔術を探求すると誓うか?」
「誓います。」
「――答えよ。汝、たとえその生命が燃え尽きようとも、魔術への執着は絶やさぬか?」
「絶やしませぬ。」
一拍の間。そして――
「――答えよ。汝…。汝、魔術の神ラインの祝福を受け取るか?」
「ありがたく、頂戴いたします。」
瞬間、体中に、ポワポワとした温かいものが広がった。
例えるなら、真冬の日に、暖房の効いた部屋へ飛び込み、ベッドの上で布団にくるまった時のような、そんな感じである。
その温かいものは、やがて俺の頭に集まってきて、少しずつ薄れていった。
「……ふう。これで終了だ。数百年ぶりの祝福だったが、ちゃんと成功できて良かった。」
「数…百…年…!?」
驚いてラインを見る。どう見ても20代後半のべっぴんさんにしか見えんぞ!?
「何を当たり前のことを…。ケーニヒの記憶を辿ってみろ、この王国は何百年前からある?私はその前からいるのだぞ。」
なんてこった、人は見かけによらないね!
人…?
ーーーーーーーーーー
「なにはともあれ、これで祝福は終わりだ。暇な時間に適当な空き部屋、忘れるなよ。」
「あい分かりました。」
そう言うと、ラインは空気に溶けるように消えていった。
うーん、それにしても異世界かぁ。
仕事の合間に某小説投稿サイトで読んだことはあるが…。正直あまり詳しくない。
剣ずしゃー!血ぶしゃー!魔法どーん!ドラゴンぐわー!
みたいなイメージしか無い。
…あれ、これあんまり前世知識役立たなくね…?
ーーーーーーーーーー
気持ちを切り替えて、身支度をして部屋を出る。扉の前には召使らしき女性が立っていた。だが、様子が変だ。
ドアを開けた瞬間にビクゥって跳ねてたし、顔色が悪いやら目が泳いでるやら不審さのオンパレード。しまいにゃ目尻に涙ときた。どうしたんだい、可愛いお嬢さん!?
「あ、あの、おっ、おふ…」
「おふ?」
「おはようございまちぇっ!」
噛んだ。噛んだね。
青かった顔がみるみる赤くなり、すぐに青に戻る。信号機かキミは?
一応これでも前世は紳士として通っていたから、見ないふりをして笑顔を向ける。
「うん、おはよう。」
「…!?!?」
なんかすげーびっくりされた。何故?
「あ、あの、私、噛んじゃって、その…」
「?噛んだ?何のことかな?」
ケーニヒ持ち前の爽やかな笑顔で、その召使を見た。〜きらめく歯を添えて〜
「えっと、その…。いえ、なんでもありませふ!」
…また噛んだね…。
信号機再び。
ーーーーーーーーーーーーー
「お、おはようございます殿下!」
「うん、おはよう☆」
通りすがる初老の男性に爽やかに挨拶を返し、掃除の傍ら井戸端会議に花を咲かせる女中たちに手を振り、中庭に咲くバラを愛でる――。
何だこのイケメン!?(驚愕)
「け、ケーニヒ殿下が参られましたぁ!」
食堂に到着した。
ややイントネーションのおかしい、上ずった声で先程の女召使が俺の到着を告げる。
食堂は、天井の高い、豪華で綺羅びやかな部屋だ。他国の外交官も食事を摂る場所でもあるから、当然なのだろう。
既に席には父であり現国王のピョートル・アレクセイ・ロマノフ、その王妃エヴドキア、第一王子にして兄アレック、第一王女にして妹のアンナがついていた。第二王女のエリザベスはまだ来ていないようだ。だがケーニヒの記憶を見る限り、彼女は自由気ままで居ない事の方が多いようだが。
…ん?ちょっと待て、何だこの記憶はっ!?
「遅いぞ、ケーニヒ。」
アレックが咎めるようにこちらを見る。いやまじで今それどころじゃない…
「まあ良いわ。ケーニヒ、速く席につきなさい。メルンスコフ!エリザベスは、今日も来ないのかしら?」
「はい、王妃殿下。何度も起こすように使いをやったのですが…。」
「もういいわ。あの子が来ないのは、いつものことだもの。」
「はあ…。最近はただでさえ外交が難しいのに、身内に2人も問題児がいるとは…。のう、ケーニヒ?」
じろり、いやぎろりと父ピョートルは俺のことを見た。
既に席につきはしたが、冷や汗が止まらない…!!
「少しは、行動を改めたらどうだ、ケーニヒ。そうすれば、私の心労も減るというものだが。」
――そう!!
この爽やかイケメン、ケーニヒ君は!
「本当に―――!」
史上!
最低の!
「申し訳―――!」
出来損ないのクズ野郎だったのだ!!!
「ございませんでしたぁぁ!!」
部下の召使に手を上げた回数は数知れず、料理が気に入らなければ裏で料理人を吊し上げ、町中で気に食わぬ平民がいたら問答無用で蹴り飛ばし、妹のプリンを無断で食べたりもする!
そんな、正真正銘の、
今朝の使用人たちの反応も納得である!いきなり爽やかに笑いかけてくるんだから!
何だこのデバフまみれの転生先!?(絶望)
――というわけで、俺は速やかに椅子から立ち上がり、ピョートルに向かって前世由来の美しい土下座を決めた。
「本当に後悔しています!今後、絶対にそんなことはいたしません!誓います!ですから、僕にチャンスを――!!」
「お、落ち着けケーニヒ!」
慌ててピョートルが立ち上がって、駆け寄ってくる。
「お前の覚悟は分かった、ケーニヒ。この私の名のもとに、お前にチャンスをやろう。一ヶ月だ、一ヶ月間、できる限りの善行を積め。そうしたら、お前の罪を赦そう。」
「ほ、本当ですか!」
「ああ。だから、まずは顔を上げなさい。」
ピョートルは――、いや父上は、優しく諭すように言った。
見上げた先にいた父上は、とても優しい顔だった。
アア、俺は今、家族の愛を見ているッ……!!
ーーーーーーーーーーー
その後、俺は朝食を味わって食べ、料理人に美味しかった旨を伝え、噛みまくり召使の娘――ロウ・ヘルマンを従えて、朝の散歩に出かけた。
城内を歩き回り、記憶を頼りに、蛮行を行った人物に謝罪し、✟悔い改める✟ことを宣言して回った。
素直に喜ぶ者、今までのことは水に流すと約束する者、胡散臭い目で見る者等、反応は様々だったが、一通り謝罪は終えた。
もちろんロウにも謝った。
「〜♪」
部屋に帰り着いた俺は、ロウを部屋前の椅子に待機させて、部屋の壁に貼られた予定表を見た。
朝は朝食の後しばらく自由時間、その後ちょっと勉強してまた自由時間、すぐに昼食――ってなんじゃこりゃ!?
本当に王族かワレェ!?
ガバガバどころかスカスカやんけ!
もっとこう、マナーのお勉強とか、剣術鍛錬とか、学院に通うとか、色々あるんじゃないの!?
「っあ」
ふと、脳内にケーニヒの記憶が蘇る。
――なるほど、ケーニヒは今13歳になりたて。で、学院だのに通うのは14歳頃から。ケーニヒ君は家庭教師からの評判だけは良かったから、既にマナー教育は履修済み、と。
ラッキー!これならラインさんと修行し放題やな!強くなるぞぉ〜、ラノベみたいに!
ラノベみたいに!
ーーーーーーーーーーーー
早速部屋から出ると、城から出て訓練場に移動する。
流石王都、訓練場の数も設備も半端ない。
俺は端っこの人気のない訓練場を貸切り、訓練場の扉を閉めた。
ついてきたロウに、「絶対に近づいたり覗いたりしてはいけないし、他の人間にもそれを許してはならんぞ。困ったら僕の名前を出せ。」とささやきながら。
分厚い鉄の扉を閉めて振り向くと、訓練場の中心に木箱が出現しており、その上にラインさん――否、ライン先生が気だるげに座っていた。
「お前…。私は空き部屋と言ったはずだが?」
「空き部屋?入った瞬間に俺がいたから、もう満室だったのさ。」
はぁ、とライン先生はため息をつかれた。先生、幸せが逃げちゃいますよ!
「まあいい。さっさと始めるぞ。この私が手取り足取り教えてやる。まずは手を前に出せ。」
「こうですか?」
ずい、と手を前に出す。
「バカモノ、指まで伸ばしてどうする。手首から先は上だ。」
「へい。」
言われたとおりに修正する。
次は何?早速呪文?インセンデ◯オ?ルー◯ス?まさかアバダケ◯ブラ!?わくわく!!
「では、初級中の初級、「魔力塊」だ。適当に手のひらに力を集めれば、勝手に出る。」
ほら、と言いながらライン先生が無造作にバレーボールほどの塊を発射した。
壁に当たる直前、恐らくライン先生の展開したシールドに当たり、砕けた。
さっそくライン先生の真似をして、展開されたままのシールドに腕を向ける。
「ほ!」
ポン!
――そんな音とともに飛翔したのは、野球ボールほどの大きさの魔力球。早さも先生の三分の一くらい。
あるぇ…?
「なかなかやるな。ドのつく初心者は、はじめはロウソクの火ほどの大きさだが。」
ちっちゃ!でもまあ、さすがは祝福持ちってことか?
「次だ。次は「輝魔の
――その後先生による講義は日没まで続いた。昼飯も訓練場で食った。
結果、一日にして俺は魔術師の階級の上から4番目ほどの実力に達した。
なお全16種ある模様。すごくね?
やっぱ才能って素晴らしい、はっきり分かんだね。
ーーーーーーーーーーー
一ヶ月。
一ヶ月経った。
ラノベで唐突に時間が飛ぶこと、よくあるだろう?あれには2つの真実がある。
筆者が面倒くさがったか、主人公が実際にそれくらいの体感だったか、だ。
俺の場合は後者。OK?
とにかく父上から与えられたミッションは成功だ。木に登って降りられなくなった幼児を颯爽と助けたり、ネズミに困っていた厨房の使用人を助けたり、耄碌して泡吹いて倒れたお爺さんを助けたり、居眠り中だった商人の馬車が黒塗りの高級馬車に追突しないように商人を叩き起こしたり……。
俺は晴れて赦された。もう悪役ムーヴは御免だワ!
ついでに魔術師階級が上から1番目になりました。
…
……
………
魔術最強論を唱えます()
だってスゲーんだぜ?虚空から隕石を呼び出したり、地面から突然茨を出したり、無重力空間を作ったり…。
無敵やんこんなの!
ちなみにまだ先生から「もうお前に教えることはない…」はされていないので、まだまだ教えてもらえるご様子。やったね。
それはそれとして、俺は魔術とは別に身体も鍛えることにした。
先生曰く、魔術は体力が物を言うんだとか。
腕立て腹筋スクワット、ランニングから体幹まで…。
現代の魔術師たちは、自分の体内にある魔力を変換することで魔術を使っている。
しかし、俺がもう1段階上に行ければ、空気中の魔素を凝縮して魔力を合成、魔術が使えるようになる…らしい。
その時にはもはや魔力ではなく体力を多く使うようになってるとか。
もうわけわかんねーですよ。ほんとに。
そして、今日。
俺はまさに、運命的な出会いを果たした。
唐突すぎ?知るか、黙って聞け。
コホン!
それは城下町での出来事だった。俺が馴染みの鍛冶屋に行ったときのこと……。
ーーーーーーーーーー
「おう、やってるな。」
「来たか、坊主。」
扉を開ければ、いかにもなヒゲモジャおじさんからステキなご挨拶。異世界してますねえ!
ここは鍛冶屋「竜の口内炎」。王家御用達の名鍛冶屋だ。
このおっちゃんは店主のブルータス。ネーミングセンスと店の立地は最悪だが、鍛冶の腕は確かだ。
何やねん口内炎て。あとどこに店立てとんねん、ここ裏路地もいいとこやぞ?
それはさておき…。
「例のものは?」
「おう、もう出来てるぞ。全く、この魔法玉には苦労したぜ。叩いても焼いてもうんともすんとも言わねえのよ。」
魔法玉とは、魔法の杖の先っぽについてる玉のこと。車で言うエンジンでありタイヤでありハンドルでありフロントガラスだ。要するにこれが無い魔法の杖は魔法の杖にあらず!ってこと。
基本的な作り方としては、まず水晶職人から水晶を買い、1,2週間かけて自分の魔力を注ぎ込む。
その後10度以下の水中に3日漬けて、魔法で出した300度の火で一気に焼き上げる。
さらにそれを鍛冶屋に持ち込み、専用の木材で作られた杖と接続してもらう。
そうして出来た魔法の杖は、世界に一つだけの、その人にしか扱えない魔法の杖として完成する。丹精込めて魔力を注ぎ、腕のいい鍛冶屋に頼めば、数百年後でもまだ使えると言われている。
だからこそ、魔術師にとって魔法の杖は相棒であり、友人であり、体の一部であり、恋人となるのだ。
「ほらよ、これが坊主の相棒だ。」
そう言って、ブルータスが店の裏から魔法の杖を引っ張ってきた。
「おお…!」
――基本的に、杖の形は人による。最低限のグリップしか無く、ほぼ魔法玉むき出しのものから、ライン先生のようなクソデカ杖まで。
俺の形は……!
「か、かっこいい…!」
――俺の身長の3分の2ほどの大きさの杖。ただし、銃型。
だって憧れるやん!?俺だって男の子やぞ!
ちなみにモチーフは有坂銃です。分かる人だけ分かればよろしい!
「しかし、随分妙な形を希望してきたよなぁ。聞いたこと無いぜ、魔法玉を後方に置いて、真ん中に空洞のある魔法の杖なんて…。」
「まあ、まあ。細かいことはいいんだよ。僕が使えればね。」
「そうだが…。いや、いい。坊主に何言っても無駄だな。で、名前は何にするんだ?」
そう。伝統として、魔術師は自らの杖に名前をつけるそうだ。
「アリサカで。」
無難〜
「分かった。アリサカだな。」
そう言うと、ブルータスは杖の横に銘を彫った。
アリサカ、と。
その後俺は上機嫌で代金を支払い、スキップしながら訓練場へ向かった。
ーーーーーーーーーーー
「ほう…。お前もとうとう魔法杖を手に入れたか。おめでとう。…しかしまた、随分と奇妙な…。」
「ありがとうございます!」
最後のは聞かなかったことにしよう…。
「この世界のしきたりとして、魔法杖を手に入れた弟子に、師が自らの秘術を継承させる、というものがある。どうだ、私の秘術が知りたいか?」
「っ、ぜひ!」
秘術?なんだろう、即死魔術か?それとも世界をひっくり返す魔術?
「――では、試しにお前に使ってみようか。」
…えっ。
「行くぞ。…「ダウン」!」
「う――!?」
瞬間、ライン先生の杖の先からまばゆい光が飛び出した。
思わず目をつむり、手で顔を覆ったが、それでもまだ眩しい。
何より、超音波も同時に出てるのか、耳がキーンとする…!
数秒後、ようやく目を開けると、目の前に魔法の剣が突きつけられていた。
「とまあ、このように。相手の視力と聴力を一時的に奪う、初見殺しのチート魔術だ。これをされた相手は隙だらけ、どこからどう攻撃しても勝てるというわけだな。」
…セコぉ!
「それ以外にも、魔法杖があれば使える魔術の幅は一気に広がる。どんどん教えてやるから、覚悟しておけ。」
――結局この日は、ライン先生の「秘術」を教えてもらうに留まった。
…意外と使えるんだよな、コレ。
太陽の下だろうがなんだろうが、問答無用で視界と聴覚を奪う。これぞ初見殺し。
これがゲームの魔法だったら、もう一度挑戦すれば対策できるだろうが…。
いや待て、これにどう対策するんだ?多分遮光板くらいなら貫通するぞこれ。
ーーーーーーーーーーー
その夜。
「…」モグモグ
食堂にて、久しぶりにエリザベスを見た。
本当に久しぶりだ。だって転生してからケーニヒの記憶でしか見たこと無かったんだもん。
エリザベスは―。はっきり言って引きニートだ。
部屋にこもって謎の実験を繰り返す。発明した物は数しれず。
役に立つものもあれば、ゴミ以下のものもある。
…本人としては、錬金術師のつもりのようだ。まあ、実験というくらいだから、実際頭は良いんだろうけど。
彼女はテーブルに何やらノートを広げ、料理を食べながらそれを見つめていた。
その姿、食事中にスマホをいじるJKのごとく。
当然、父上や母上はいい顔をしていない。
忘れがちだが、俺達は王族。周りに使用人の目もある。
上品とは程遠いエリザベスの行動には、父上たちも手を焼いているのだろう。
ふと、父上と目があった。これ幸いとばかりに、父上の口が動く。
「ケーニヒとアンナ。そろそろお前たちも、学院の進路希望を出す頃合いだな。何か、お前たちの希望があれば、聞いておこうと思うが。」
学院の進路希望。それは、学院に通う貴族にとって、人生を左右すると言っても過言ではない内容。
と、その前に学院について軽く説明しておこう。
まず、学院には大きく分けて三種類がある。
一般の貴族や、試験に合格した上澄みの平民が通う「アルプス一般学院」。
騎士爵や騎士の子たちが通う、「ガリア騎士学院」。
両学院を卒業し、己の限界に挑む大人たちの「ベーリング上級学院」。
来年に入学可能年齢に達する俺とアンナは、騎士になるわけでも、学院を卒業もしていないので、当然アルプス一般学院に入学する。
学院と言っても、高校のような授業まみれのものではなく、大学の進化版のようなものだそうだ。
入学時に、自らが究めんとする進路を希望し、ひたすらそれに向き合う。
自室にこもって実験に明け暮れたり、教師に教えを請うたり、学友同士で高め合ったり。自由ですね。
一応授業という時間もあるが、参加するのはほとんどが平民だそうで、内容はほぼ質疑応答だそうだ。
閑話休題。
以上の説明にもあるように、進路希望とは「学院で何をするか、どんな学友・教師と出会うか」に直結する。半端な気持ちでは選べない。
ちなみに「一般学」という科目もあり、これは人間としての常識や基礎の発展を講義する科目。これだけ複数選択時の選択が認められているため、ほとんどの生徒は自分が究めたいものと同時に、一般学も選択するらしい。
もちろん俺は「魔術学」と「一般学」を選択するが、アンナはどうするのかな、と思い、アンナの顔を見やった。
何やら真剣に悩んでいる様子だが、何故かチラチラとこちらを見てきている。どうしたのだろう?
…ああ!俺が先に言えってことね!
「ん”ん”。父上、僕は魔術学と一般学を希望したいと思います。」
俺は自信たっぷりに言った。
「ほう。お前のことだから、剣術学かと思ったが、なるほど魔術学か。確かにお前は魔法杖を持っているし、それもまた良かろう。」
父上は満足げに頷くと、さて、とでも言いたげにアンナに視線を移した。
アンナは、待ってましたとばかりに声を上げた。
「お兄様と一緒がいいですわ!」
おっと?
「ケーニヒと一緒か。まあ、別に構わん。アンナの自由だしな。それに同科目に親しい者がいれば、助けにもなろう。」
いやいやいやいや、アンナさん。あなた、調香学がしたいって言ってましたよね?お兄ちゃんたまたま廊下で聞いちゃったんだぞ。
(調香学…小瓶に毒薬などを入れて戦ったり、病を癒す薬などをつくる研究をする科目。人気は低い。薬師のようなもの。)
「わたし、お兄様と同じ科目を学ぶのが夢でしたのよ。」
どうゆうことだよ…。ちょっとケーニヒの記憶を探るか。
…あっ(察し)。
なるほど、要するにアンナはブラコンだったと。
幼少期にちょっと優しくしたのがきっかけで、めちゃくちゃ懐いた。流石に妹には手を上げられなかったケーニヒ君は、微妙な距離感で接していた、と…。
しかも彼女、素の性格はTHE・王女様って感じやんけ!「ホホホホホ!」って笑ってるタイプだぞ。あと多分ツンデレ属性。分かるぞ、掲示板の住民舐めんな。
よーするにアンナさんは、自らの夢<兄、だったと。
いや重いよ!
ーーーーーーーーーーーーーーーー
数週間後、ライン先生から魔法の杖を使わないとできない魔術をあらかた教えてもらった俺は、ライン先生からの課題「魔術を組み合わせて新しい魔術を作る」に挑戦していた。
曰く、ゼロから魔術を作るには、より魔術の深淵に触れる必要があるそうで。
それには膨大な時間がかかることから、それに関しては学院でやるとのこと。
この課題はその前座だそうだ。
「どうだ、思いついたか?」
机に向かってうんうん唸っている俺に、ライン先生が声をかけた。
「う、ん…。なんとなくイメージはできるんですが…。」
「思いついたらすぐ実行。魔術開発の基礎だ。早速やってみろ。」
「はぁ…。」
俺は椅子から立ち上がると、その場に膝をつき、遠方にシールドを展開した。
ちなみに、前にライン先生が自分の魔術を自分のシールドで止めていたが。
アレ、超ムズいです。
そもそもシールドは護身魔法。身体の周辺に展開するものであり、遠くに展開するのは結構な難しさ。
さらにそれをちゃんとシールドとして役立たせるためには、相当な練習が必要だった。ライン先生は何でもないようにやっていたが、流石は神様といったところだろう。
ともかく俺は、その苦労の結晶のシールドに、杖(?)の狙いを定めた。
やってみるのは、当然アリサカの由来である有坂銃の真似事。
「虚空の流星」と「魔力塊の早飛礫」と「ソルトスの爆破」を重ね、引き金を引く。
――衝撃、閃光、爆音。
勢いよく飛び出した流星は、シールドに直撃、爆発した。
「今のは…。お前の前世の兵器の、真似事か。」
「はい。」
続けて、「ソルトスの爆破」の代わりに、「リベロの穿通」を組み合わせる。
と、俺はシールドを解除し、ライン先生に言った。
「先生、先生ができる最も分厚いシールドを展開してくれませんか。」
「良かろう。」
ライン先生は、先程まで俺がシールドを置いていたところに、分厚いシールドを展開した。
厚さ、だいたい3メートルくらいだろうか。神様の魔術は、いちいちケタが違う。
ともかく、俺はそのシールドを狙い、撃った。
――パリン!
弾丸はその全てを貫通し、訓練場の壁に激突した。
激突した後もまだ勢いがあったのか、壁にはかなり深い穴が空いていた。
「ふむ。私のシールドを貫通するとはなかなかやるが、詰めが甘いな。」
そう言うとライン先生はシールドを展開し直し、わずかに右に傾けた。
それを撃ってみると、弾丸は弾かれ、あらぬ方向へ飛んでいってしまった。
「そもそも、シールドは正面から攻撃を受け止めるように出来ていない。少し傾けて、いなすように張るのが常識だ。」
ライン先生は、フフンと胸を張った。
がっくり…。
「だがまあ」
ライン先生の声に、顔を上げる。
「あの速さなら、シールドを展開するより、撃ち抜かれる方が早いだろうな。」
――それを聞いて、安心したぜ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その夜、俺は唐突に「アリサカに足りないもの」が分かった。
今までずっと、何かが足りないと思っていた。
茶色い木材に、金属製の魔法玉制御器。魔法玉は見えないようになっているし、ほぼ飾りだがボルドアクション機構もついてる。
しかし、圧倒的に足りないもの――それは銃剣だ!
銃剣、大和魂の象徴。
そして、弾切れの際の最後の武器。
それは、魔法の杖として使うにしても同じだろう。
突然の奇襲や、何らかの理由で魔術が使えないor効かない時は、魔術は役に立たない。
その時こそ、銃剣の出番というわけ。
というわけで早速、ブルータスに銃剣を模した短剣を発注した。アリサカに取り付けるのだと言って。
呆れられたけど引き受けてくれました。優しい。
ーーーーーーーーーーーー
「誕生日おめでとう、ケーニヒ。」
「おめでとうございます、お兄様!」
「お、おめでとうございまひゅ、ケーニヒ様!」
「ありがとう☆」
ワレ本日誕生日ナリ。
ケーニヒくん14歳ですって!もうそろそろ学生ですよ。
冗談はさておき、真面目にそろそろ入学なんです。本当。
ラノベでしょっちゅう出るお決まりルート、学校。
あれ断ってるのほとんど見ないよね。何でだろう?
既に進路希望は提出&受理済み。あとは制服を着込み、颯爽と学院に乗り込むだけ。
ケーニヒ君イケメンだからモテちゃうワ!wktk
ちなみにもう既にライン先生の講義は修了済み。比喩表現なく、俺はこの世の全ての魔術を手に入れた!
なおほとんど使わず、便利な魔術だけ使う模様。数は多いけど使うのは1人だからね、しょうがないね。
ところで。
忘れてはいけないのだが、俺の目標はあくまで魔剣の神ドリュウズが祝福を授けた神童、アントン君の対抗馬、つまりライバル。
ライン先生曰く、彼は後に魔王と対決し、獅子奮迅の働きを見せるもあと一歩で負けてしまう運命にあるそう。
そこで、助走期間である学院に通っている間に俺という強力なライバルを出現させ、さらなる高みを目指させよう、ということらしい。
そのためには、学院でうまいことアントン君に接触し、彼の負けん気を煽って焚きつける必要がある。
ちなみにアントン君は平民出身らしい。親友のケルツ君も一緒だとか。
そうだな…。ケルツ君に喧嘩をふっかけて、それでアントン君の怒りを引き出そう。
そこでアントン君と戦って打ち負かせば、勝手に強くなる…ハズ!
え?お前が魔王と戦えって?
残念、魔王に魔術はあまり効きません!つまり俺の天敵。
まあ無限に魔術を打ち込んでりゃあ勝てるだろうけどね。
でも運命に選ばれたのはアントン君でしたとさ。
さあて、待ってろ俺のキャンパスライフ!
よみがえれ、悪のケーニヒ君!
誕生日パーティの最中、俺は心中で高笑いしていた。
ワレ今日ヨリ悪人トナル!
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
さあやって参りました、学院でございます!
ただいま入学式前の待機時間。進路別に分かれて並んでおります。さあ剣術学はどこだ!?
と、完璧な不審者ムーブをかましていると、突然周囲が騒がしくなった。部屋の入口の方が、特に騒がしい。
聞く限りはアントン君は主人公タイプ。もしかしてそのオーラに皆が反応したのか?と思い入口を見てみた。そこにいたのは――
――銀髪美少女だった。あと凛々しい顔つきの少年。
そのあまりの美しさにポカンとしていると、不意に周囲の声を耳が拾った。
「あれが、あの?」
「うん。あれがオルレアン・アントンさんと、ケルツ・イワノフくんだよ。」
え、アントンて苗字で、それも女の子だったの?
き、き、き、聞いてねえぞォ!!!
普通に男だと思うじゃん!魔剣だよ!?
だったら向こうが魔術でこっちが魔剣だろうが!うわあああ!!
お、落ち着け!ともかく、事前に考えていたセリフを――!
「お、おい!」
「?」
「んぁ?」
2人が同時に振り返る。くっ、可愛い…!
だが負けるなケーニヒ、ここで負ければ世界が終わる…!
「お前が、オルレアンか?」
「ええ、そうですが。」
オルレアンが不思議そうに答える。
「お、お前のような平民が入学するのが気に食わん、後で勝負しろー(棒)」
や、やっちまったぁ〜!!
すんげえ棒読み!日本の小学生が合唱のときに歌う歌より酷かった!ああ!
ちら、とオルレアンの方を見てみる。クスリと笑っていた。
と、傍らの少年、ケルツ君が口をオルレアンの耳に寄せ、ヒソヒソと何事かを囁いた。
気になったので、魔術で俺にも聞こえるようにする。
「オルレアン、あいつは王家の第二王子のケーニヒだ。悪い噂が絶えないから、ここで誘いに乗るのは悪手だぜ。何か罠があるかも。」
…棒読みなのは気にしないのね。
「大丈夫ですよケルツ。何があっても私なら対応できます。それに、人目の多い、例えば訓練場のような場所でやれば問題無いでしょう?」
…ほーう?
既に自分の実力は把握済みってわけね。ふーん。
その余裕がいつまで続くかなぁ!?(悪役感)
「――では、ケーニヒさん。この後、第二訓練場でお待ちしていますね。」
にこ、とオルレアンが笑いかけてくる。我慢…!我慢だケーニヒ…!
「おう、首を洗って待っていろ!」
そう言うやいなや、俺は踵を返し、元の列に戻った。
多少の想定外はあれど、大方セッティングは出来たんじゃなかろうか。あとはオルレアンをコテンパンに打ち負かし、俺のことを「超えるべき壁」と認識させれば良い。
勝ったな、入学式を始めよう。
―――その後学院長のありがたい(笑)お話を傾聴し、その日の行事は終了となった。
その後科目毎の寮に移動し、解散となる。
生徒たちは、学院を探検する派と、俺とオルレアンの戦いを見に行く派で二分していた。
入学早々、楽しそうなイベントが発生とあらば、見に行きたくなるのが人間だろう。
そんな生徒たちを尻目に、俺は第二訓練場に移動しようとした――のだが。
「お兄様。」
ギク。
振り返ると、そこには美しい金髪を小さなツインテールにセットした、我が妹アンナが腰に手を当てて立っていた。
「お兄様、何故あのようなことをなされたのですか?」
「あー、えっと…。」
「まさか、あの女に惚れたと?違いますよね?身近にこんな可愛い妹がいるんだから。」
ずい、と距離を詰めてくるアンナ。ちょ、近い近い。
「や、やかましい!そんなのではないぞ。僕はただ、あいつらが僕と同じ学院に通うのが許せんのだ。」
「ふーん…」
疑わしそうな目を向けるアンナ。
「まあ、お兄様のことを信用してあげましょう。私も観戦しますから、無様な戦いはしないでくださいよ!」
「当たり前だ。」
そう言うと、俺は歩き出した。
行くぞぉオルレアン!貴様を打ち負かし、俺は世界を救う!
ーーーーーーーーーーーーー
「はあ…全く、入学初日から決闘とは。最近の世代は血の気が多い…。」
とため息をつくのは、教師リーヴス。今回の審判だ。
既に観客席には生徒が押し寄せており、やんややんやと野次を飛ばしている。
俺と相対するオルレアンは、俺の魔法の杖を見て不思議そうに言った。
「随分不思議な魔法杖ですね。」
「フン、俺は凡人とは違うからな。」
「そうですか。」
オルレアンは、腰にさした剣を抜いた。
濃い黒色の剣。薄っすらとだが、魔力を感じる。あれが、魔剣か…。
「相手を気絶させるか、背後を取って確殺権を取った方の勝利だ。では始め!」
合図とともに、オルレアンが走ってくる。
それを確認した俺は、あちこちにトラップを仕掛けた。
案の定、愚直に突っ込んできたオルレアンはトラップを踏み抜いた。
即座に足元から茨が伸び、オルレアンを拘束せんと動く。
しかし流石は祝福持ち。超人的な反応速度でそれを切り裂いた。
まあそれも想定内。着地の瞬間を見計らい、再び茨を展開する。
オルレアンは同じように切り払い、剣を上に振り抜いた。
待ってましたとばかりに、一気に茨を向かわせる。何重にも重ねて。
剣が上にあるため、下からやってくる茨への対応が一瞬遅れた。間髪入れず、流星と早飛礫と爆破を組み合わせた、榴弾を発砲する。
茨を切ろうと剣を振り下ろしていたオルレアンの右肩に着弾。爆発した。
その隙を逃さず、追撃…しようとしたのだが、転がって回避された。弾丸は後方の壁にぶつかり、爆ぜる。
オルレアンはすかさず距離を詰めてきた。魔術師相手には接近戦、普通なら正しい選択だ。だが。
「甘い!」
振り下ろされる魔剣を銃剣で防ぎ、榴弾を連射する。アリサカはライフルでもあり、マシンガンでもあるのだ。
そのうちの一発が命中したのか、オルレアンが吹き飛ばされた。
すぐに起き上がろうとするオルレアンだった。だが、ここでアレを使う!
「秘技、初見殺し!」
――カッ!
――バキィィィィィン…
「う!?」
慌てて手で顔を覆うオルレアン。だが、その隙は致命的だった。
距離を詰め、首筋に銃剣を当てる。
「俺の勝ちだ。」
ようやく目を開けたオルレアンが見たのは、勝ち誇る俺。くーっ、決まった!
これでオルレアンは俺に対抗心を燃やし、修行に励んでくれるだろう。
よしよし!帰ったら何を飲もうかな?流石にビールはダメだよな、ううん―――
「ダメよ、ケルツ!」
「待ちなさい、ケルツ君!」
突然、オルレアンとリーヴスが叫んだ。
何事かと思って振り返ろうとした瞬間、胸を熱いものが貫いた。
目の前には、白銀に輝くナニカ。
「――え?」
これ…刃?
「オルレアンが負けるなんてあり得ない。どうせ、なにか不正をしたんだろ?」
背後から声が聞こえた。
この声は…。ケルツか。
…え?
ケルツ?
「ケルツ、何ということを!」
「うるさいオルレアン!本当は毒でも盛られていて、本調子じゃなかったんだろ!?そうなんだろう!」
ケルツが悲鳴のような叫びを上げた。
俺は足に力が入らなくなり、ドサリとその場に倒れてしまった。
どくどくと血が溢れ、目の前に真っ赤な池を作ってゆく。
…え、俺死んだ?
嘘だろ?
――俺の意識は、ゆっくりと闇に沈んだ。
――――今思い返すと、何故当時あんなに冷静だったのか不思議だ。
ーーーーーーーーーーーーーー
〜オルレアン視点〜
そのひとが私の首に短剣を当てているのを見たとき、私は思わずそのひとに惚れてしまった。
今までずっと、私より強い人なんていなかった。
お父さんも、剣術の師匠も。
みんな、私より弱かった。
寂しかった。
みんな、次第に私を避けるようになって。
唯一、ケルツだけが前と変わらずに接してくれていたけど。
ケルツは街の役人の息子で、もう婚約者がいる。
だからだろう、そのひとに惚れたのは。
勝ち誇ったその顔は、たまらなく愛おしくて。
お前は弱いと、そう言われているような瞳は、私が初めて見るものだった。
でも、見てしまった。
彼の背後で、ケルツが観客席から飛び降りて、剣を抜いてこちらに走ってくるのを。
「ダメよ、ケルツ!」
必死に叫んだ。
でも、ケルツは止まらなかった。
彼が振り返ろうとしたとき、ケルツの剣は彼の胸を貫いていた。
ぶしゃ、と嫌な音を立てて、彼の血が顔にかかる。
私がどうすることも出来ずにいると、別の人が観客席から飛び降りてきた。
その人は金髪を小さなツインテールにセットした少女だった。
後で、彼女が彼の妹だと知った。
ともかく彼女はケルツを押しのけると、倒れた彼の傷口に何かの粉を振りかけ、呪文を唱えた。
そして、剣をゆっくりと引き抜いた。
剣が抜けた途端、傷口がみるみる塞がっていった。
聞くところによると、彼女には調香学の知識があったそう。
彼女はリーヴス先生を呼び寄せて彼を医務室に運ぶように言うと、ケルツに向き合った。
そして、ケルツの頬を叩いた。
グーで。
そして、倒れたケルツの額を踏みつけ、罵詈雑言を吐きかけた。
「私のお兄様をよくも!この【検閲済】の【検閲済】の【検閲済】が!!」
彼女がゲシゲシとケルツの顔を蹴り始めたので、慌てて立ち上がって止めさせた。
ケルツは気絶していた。
これが――、これが、私とあのひととの出会いだった。
ーーあとーがきーー
えー、皆様こんにちは。金賀です。
このお話、文字数16400文字。
――は?
思うがままに書いてたらこうなっちゃいました。深く反省しております…。
ここまで来ると、書くときも重いの何の!動作がカクカクですわ!
1話目でこんだけの量とか聞いたことねーですよ。ええ。
まあなにはともあれ、今後もよろしくお願いします。
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ある王子は神童の対抗馬となり、ある神童は対抗馬に惚れた。〜緊急回避!バッドエンド〜 金賀 治武峯 @kanaga1913
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