未来で世界を滅ぼした「魔王」が、現代では学園一の美少女だった件。
こん
第1章:氷の魔王と、紅蓮の忠犬編
プロローグ:終わる世界と始まる恋
時は果てしなく思えるが―――崩壊は一瞬で訪れる。
世界が終わる音を、聞いたことがあるだろうか。
それは爆発音でも、悲鳴でもない。
パキリ、という、硬質な氷がひび割れるような、静かで残酷な音だった。
「……あぁ。本当に、壊れちゃったね」
燃え盛る東京の廃墟。
その中心で、銀色の髪をなびかせた少女が佇んでいた。
透き通るような白い肌。宝石のように赤い瞳。
かつて「人間」だったモノ。今は人類を滅ぼした厄災――『氷の魔王』。
彼女は、血まみれで倒れている俺――カイトを、愛おしそうに抱きしめていた。
「ごめんね、カイト君。痛かったよね」
彼女の涙が、俺の頬に落ちて瞬時に凍りつく。
周囲のビルはすべて氷像と化し、逃げ惑う人々は氷の華となって砕け散っていた。
俺たちが守ろうとした世界は、もうない。
「でも、安心して。カイト君を殺した世界なんて、私には必要ないから」
彼女は微笑んだ。
それは、世界で一番美しく、そして狂った笑顔だった。
「時を戻しましょう。何度でも、何千回でも」
「私が『魔王』になんてならずに、ただの女の子として、貴方を守れる世界になるまで」
彼女の指先が、俺の心臓に触れる。
絶対零度の冷気が、俺の意識を永遠の闇へと誘う。
「愛してるわ、カイト君。……次こそは、絶対に幸せにするから」
――視界が、白く染まる。
意識が溶ける。因果が逆流する。
俺は、終わってしまった世界で、ただ一つだけ誓った。
(違う、カレン。君が悪いんじゃない)
(俺が弱かったからだ。俺が君を一人にして、魔王になんてさせてしまったからだ)
だから、次は。
次こそは俺が、君を救ってみせる――。
◇
「――ハッ!?」
肺いっぱいに空気を吸い込み、俺はガバと身体を起こした。
心臓が早鐘を打っている。
死の感触。凍りつく痛み。それらが幻影となって肌に残っている。
「……ここは」
見回すと、そこは平和な教室だった。
木漏れ日が差し込む窓際。黒板に書かれた数式。気だるげな午後の授業の空気。
スマホの日付を確認する。
20XX年、4月。
あの「終わりの日」から、10年前の過去。
「……戻って、きたのか」
成功したのだ。
俺は、未来の記憶を持ったまま、高校の入学式直後の時期に「回帰」した。
俺は慌てて、隣の席を見た。
そこに、あの「魔王」がいるはずだ。
「……何?」
涼やかな声が響く。
窓際の席で、文庫本を読んでいた少女が顔を上げた。
銀色の長髪に、吸い込まれるような赤い瞳。
天堂カレン。
才色兼備、冷徹無比。学園の誰もが憧れ、恐れる「氷の美少女」。
そして――未来で世界を滅ぼす、最悪のラスボス。
(生きてる……まだ、魔王になってないカレンだ)
俺は震える手を抑え、努めて冷静に声をかけた。
「い、いや。何でもない。……その本、面白そうだなと思って」
「……そう」
カレンは興味なさげに一瞥すると、すぐに視線を本に戻してしまった。
拒絶。無関心。
クラスメイトとしての、妥当な距離感。
だが、俺は知っている。
彼女が魔王化した原因が、俺の死に対する絶望だったことを。
つまり、今の時点でも「何か」があるはずなのだ。
俺は、回帰と同時に覚醒した自身の固有能力――『英雄の器(ソウル・リンカー)』を発動した。
これは、視界にAR(拡張現実)のようなウィンドウが浮かび、世界の情報を数値化して視認できる能力。
俺はカレンの頭上に浮かぶ、半透明のステータスウィンドウを凝視した。
――――――――――――――
【対象:天堂カレン】
■ 魔王化深度(闇落ち度):5%
■ 現在の感情:平静、無関心
――――――――――――――
(……よし。闇落ち度はまだ低い。これなら回避でき――)
安堵しかけた、その時だった。
ウィンドウの下部にあった【隠しパラメータ】が展開され、俺の思考は停止した。
――――――――――――――
■ 好感度(カイトへの執着):99999(限界突破)
■ 脳内思考ログ:
『カイト君が話しかけてくれたカイト君が話しかけてくれたカイト君が話しかけてくれた』
『心臓がうるさい。顔が熱い。氷魔法で冷やさなきゃ』
『今日こそ告白する? でも断られたら? いっそ監禁して……だめ、我慢して私』
『あぁ、カイト君の匂いがする。幸せ。世界なんてどうでもいい』
――――――――――――――
「…………は?」
俺は思わず声を漏らした。
カレンは変わらず、すました顔で本を読んでいる。ページをめくる指先も優雅そのものだ。
だが、ステータス画面には『監禁』だの『匂い』だの、物騒なワードが爆速で流れている。
無関心?
嘘だ。
こいつ、今の時点で既に――俺への愛が重すぎて、アクセル全開じゃねえか!
その時。
キィィィィィィィン!!
不快な金属音が、学園中に鳴り響いた。
空気がビリビリと震える。この感覚、間違いない。
『ダンジョンブレイク(迷宮決壊)』の予兆警報だ。
「きゃぁぁぁっ!?」
「な、なんだ!? 校庭に何かいるぞ!」
クラスメイトたちが窓に殺到する。
俺も立ち上がり、窓の外を見た。
校庭のアスファルトを突き破り、体長3メートルほどの『オーク・ジェネラル』が這い出てくるのが見えた。
しかも一体ではない。三体、いや五体。
通常の高校生なら、一瞬で挽き肉にされる戦力差だ。
「……ちッ。未来より発生が早いぞ!」
俺は舌打ちをした。
今の俺に戦闘力はない。逃げるしかないか?
いや、今ここで逃げたら、クラスメイトは全滅する。
どうする。考えろ。
俺が焦っていると、隣で椅子を引く音がした。
カレンが、静かに立ち上がっていた。
彼女は本を閉じ、窓の外の化け物たちを冷徹な瞳で見下ろす。
俺の『英雄の器』が、彼女の感情の変化を捉えた。
――――――――――――――
■ 脳内思考ログ:
『あいつら、カイト君のいる校舎を見てる』
『カイト君の平和な日常を邪魔する気?』
『死んで』『死んで』『死んで』『死んで』
――――――――――――――
カレンが、スッと右手をかざす。
その瞬間、真夏の教室の気温が、氷点下まで急降下した。
「――邪魔よ。ゴミ虫」
彼女が呟いた、その一言。
直後、校庭にいた5体のオークたちが、悲鳴を上げる間もなく「氷の彫像」へと変貌した。
パキーン。
指を鳴らす音と共に、彫像たちは粉々に砕け散り、光の粒子となって消滅する。
教室が静まり返る。
誰もが言葉を失う中、カレンは何事もなかったかのように席に座り、また本を開いた。
その横顔は、あくまでクールで、美しかった。
だが、俺には見えていた。
彼女のステータスウィンドウに、真っ赤な文字でこう表示されているのを。
【カイト君を守れた。私、えらい? 褒めて? 結婚する?】
……前言撤回だ。
俺の戦いは、「魔王を倒す」ことじゃない。
この愛が重すぎる「隠れヤンデレ魔王」の手綱を握り、世界が滅びないように機嫌を取り続けること。
俺の、命がけの攻略が始まった。
あとがき
新連載スタートです!
「世界を滅ぼした魔王が、実は主人公のことしか考えていないド級のヤンデレだったら?」
という、「すれ違い」と「勘違い」から始まる学園異能バトルファンタジーです。
壮大に、全5章程度にしようかなという想定です。
ぜひついてきてくれるとうれしいです!
主人公は最弱ですが、ヤンデレ魔王や凶悪な怪物を「指揮」して、破滅の未来を回避するために戦います。
シリアスな世界観と、重すぎる愛のギャップを楽しんでいただければ幸いです。
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