甘々な幼馴染はいないけど、俺には甘々な幼馴染の親友がいる
影乃依 月
第1話
「
「自分で拭くからいいよ。どこに付いてる? 」
「私が拭いてあげるって。ほらじっとしてて」
昼休みの空き教室、昼食を取っているといつものようにクラスメイトの
彼女はスクールバックから容器を取り出し、その中からウエットティッシュを取り出すと俺、
必然的に彼女との距離が近くなり、自分の鼓動が早まるのを感じる。
正直、女子とこれだけ近い距離になるだけでも心臓が持たず、それに加えていい匂いと眼前に広がる整った顔と豊かな盛り上がりでさらにドキドキしてしまう。
見すぎるのはあまりよろしくないことだとわかってはいるが、ここで目を閉じるとそれはそれで変な意味を持ちそうでただ時間が過ぎるのを待つことしかできない。
「はい、拭き終わったから動いていいよ。本当に三雲くんは放っておけないなぁ~」
「何回も言ってるけど、自分でやるから放っておいてくれていいのに」
「それはいや。だって三雲くんに構えなくなるし、何より私がそうしたいからしてることだからね」
両手を拳の形にして腰にそれを持っていき、胸を張り満足そうな表情を浮かべその動きに連動して淡いピンク色をした彼女のハーフツインが揺れ、まるでこの場に桜の花びらが舞っているようにみえる。
姿に見とれていたからなのか彼女と目が合いほんのりと甘い空気が流れ、少しずつその空気で教室内が満たされていく。
「あの、お二人さん?あたしもここにいるんですけど? 」
その空気は幼馴染の
「悠乃ちゃんのことは忘れてないよ。っていうかいつもこんな感じでしょ? 」
「確かにそうだけどね。でも、心月の反応がきもかったから見てられなかったのよ」
軽く俺を一瞥しながら普段よりも低い声で冷たく言い放つ。
「え、俺そんなにきもかった? 」
幼馴染から言われるキモいはかなりダメージがあり少し落ち込んでしまい、凹んだ俺を見て悠乃はにやりと微笑む。
「うん、今まであたしがみてきた心月の中でも一二を争うくらいにきもかった」
先ほどよりも明るく、からかうような声色で心底楽しそうなことが伝わってくる。
「そこまで言う?本当に傷つくんだけど・・・・・」
少し大げさにほんの少し肩を落とす。
「悠乃ちゃん。私にさっき言ったこと覚えてる? 」
「ごめんごめん、つい心月をからかいたくなっちゃって」
むすっと頬を膨らませながらジトっとした目でいう彼女に対し、悠乃は謝っているが彼女は悠乃から目をそらし背を向け続け、悠乃はそんな態度の彼女に対して頬を軽くつついたり、笑わせようとして彼女の脇をくすぐったりしてなんとか自分の目を見るように仕向けて謎の攻防を繰り広げている。
俺は二人のやり取りを見ながらふとこんなことを思っていた。
(やっぱり女の子同士がじゃれているのはいいなぁ)
「愛璃、いい加減機嫌直してよ~」
「別に機嫌は悪くないもん。すねてただけだもん」
「ねぇ、拗ねないでよ~。あたしが愛璃を一番大切に思っているの知ってるでしょ? 」
「それは知ってるよ。ってかくすぐるのはやめてって」
彼女の声には少し怒気が含まれているように感じたが、悠乃はまったく気にした様子もなく続ける。
「でも、こうされるの好きでしょ?すぐに笑顔になっちゃうんだから」
「別に好きじゃないもん。って本当にやめてよ」
顔を真っ赤にしながら抵抗しようとした彼女は悠乃の目をしっかりとみて強めに言う。
だが、それは悠乃にとっては好都合で彼女の顔を自分の方に固定するため両手を彼女の頬にあてる。
顔をそらそうとしたところで意味はなく逃げることなどできない。
「もう、わかったよ。ごめんね悠乃ちゃん」
仕方ないと言いたげな表情を浮かべあきらめたのかため息を一つつく。
「うん、あたしもごめんね愛璃」
諦めた彼女が先に謝り、悠乃も謝ったことで謎の攻防を終えて二人とも座っていた席に戻る。
中断していた昼食の続きをとりながら、昨日見た動画やほかの友達の話をして和やかな雰囲気で包まれる。
ガラッと教室の扉が開き、ほかの生徒が入ってきたが「あ、ここにも人いる」と言い残し出ていった。
この学校では昼休みや放課後に生徒であれば空き教室を使用することができ、利用する生徒も多い。
利用目的は勉強や昼食がメインだが、文化祭や体育祭などの学校イベントのほかに告白にも使われることもある。
数年前に一度使用禁止になったこともあったが、別の問題が起きたことと進学校として認知され始めたことで問題が無くなったことを理由に解禁されることになったらしい。
昔から自由な校風ではあったが、進学校になったことを機にさらに自由な校風になり、元々あった空き教室を使用する際は必ず扉を開けておくことと外から見える位置にいるという制限はなくなった。
もちろんいいことばかりではなく、別の問題が起き始めていてその問題が空き教室の奪い合い。
少しでも出遅れるとさっきのように使われていない空き教室を探しに行かなくてはならなくなる。
と、どうしてこんなことを考えているのかを簡単に言えば二人の話に入ることができないからだ。
より正確に言うなら二人と同じようなことができないから。
もしここで俺が「二人とも俺がいるの忘れてない? 」と言ったとしよう。
たぶん桃山さんは「ごめんね。忘れてなかったけどつい盛り上がっちゃって」のような返しをしてくれる。
問題は悠乃のほうで、たぶんというかほぼ確実にいじってくる。
「もしかして心月拗ねてて愛璃と同じようにあたしにくすぐられたいの?もう~、あたしのこと好きすぎじゃない?正直さっきよりもきもいよ」
言い終えた後心底楽しそうな笑顔を浮かべているのを容易に想像できてしまう。
それがわかっている以上、俺がすべきことは目の前にある母の手作り弁当を黙々と食べつつ一人の世界に入ること。
気づけば弁当箱にはから揚げ三個だけになり、そのうちの一つを口に放り込みゆっくりと嚙み肉汁を楽しみながら咀嚼し飲み込む。
再びから揚げに箸を伸ばしたところで視線に気づく。
見ていたのはもちろん二人で、その視線は明らかにから揚げに向いている。
気づかないふりをして食べてしまうのも一つ手だが二人の目を見るとそんな気は失せ、そっと二人の前に差し出す。
「もしよかったら一つずつ食べる? 」
そう訊くと気のせいかもしれないが一瞬二人の目がきらりと光る。
「え、いいの?じゃあも~らい。心月のママが作った料理はおいしいから嬉しい~」
そういうとすぐ右手でひょいっと一つ掴み自分の弁当箱にそれを入れる。
悠乃は俺のお弁当が母の手作りだと知っていて、少し前まで家でご飯を食べていたこともありひさしぶりに食べたくなったのだろう。
「ん~、やっぱりおいしい。また心月ママのごはん食べに行こうかなぁ。愛璃ももらいなよ」
「え、でもそれじゃあ三雲君の分無くなっちゃわない?じゃあ、何かと交換する? 」
彼女は自分の弁当箱を見ながらどれにしようかと選んでいる。
「なにかって愛璃、そんなこと男子に言っちゃだめだよ。心月なら大丈夫だとは思うけど」
「悠乃ちゃん、何言ってるの?普通にお弁当のおかずの交換だよ。ってかそんなことほかの男子には言わないもん! 」
俺にはどうして焦ったように彼女が悠乃に対して言ったのかわからない。
わかるのは彼女の反応が少し面白く、かわいいということだけ。
「ふーん、愛璃は心月には言うんだね。他の男子には言わないのに。」
わざと俺の名前と男子という部分を強調していったのはきっとからかうためだろう。
「そ、そんなことはなくはないけど、って悠乃ちゃんには関係ないでしょ? 」
彼女の照れるように俯いたその動作に少しドキッとする。
「まぁ、確かにあたしには関係ないかもね。そんな私が訊くのもなんだけど、愛璃ってどうしてそこまで心月に構うの? 」
甘々な幼馴染はいないけど、俺には甘々な幼馴染の親友がいる 影乃依 月 @kagenoituki
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