目覚めたら、政略結婚していました~もうすぐ顔も知らない夫がここにきます~

秋作

第1話 修学旅行のバスにて

 高校二年生の冬。

 修学旅行のバスの中にて、幼なじみの的場悠二まとばゆうじはぽつりと言った。


「俺たちの縁って、鋼の糸で繋がってるんじゃないか? 家も隣だし、教室の席も隣。今回のバスの席まで隣だしさ」

「うーん、クジで決まった席順だし? もう呪いなのかもね」


 私は軽く肩をすくめた。

 悠二は窓の方へ目をやりながら溜め息交じりに言う。


「腐れ縁、ここに極まれりってか」

「それよりもこれ。おばさんに渡してくれって頼まれたもの」


 そう言って私はリュックの中から水筒を取り出し、悠二に渡した。

 私、篠原玲奈しのはられいな的馬悠二まとばゆうじは、マンションで隣同士の部屋に住んでいて、幼い頃から何かと縁のある関係だった。

 昔から、遠足などイベントがある時だけは早起きして学校へ行く悠二。

 張り切りすぎて、必ず何か一つ忘れ物がある。少し遅れて学校へ行く私が忘れ物を届けるというパターンは、もはやお約束と言っていい。

 そこに、悠二の隣の席に座る男子がニヤニヤ笑って言ってきた。


「腐れ縁が嫌なら、俺が玲奈ちゃんの隣に代わってやろうか?」

「駄目」

「……んだよ、間髪入れずに断りやがって」

「不純な考えしかしねぇお前とは代われねぇよ」


 男子はつまらなそうに舌打ちして、そっぽを向いた。

 悠二、グッジョブ!

 クラスでも評判が悪いチャラ男が隣なんて冗談じゃない。

 こういう時、守ってくれる幼なじみの存在に感謝!

 私は悠二に向かって手を合わせた。

 悠二は私の感謝ポーズに気づくことなく、欠伸を一つして寝始めた。

 こうしてみると整った寝顔だ。容姿端麗な悠二は昔から女の子にモテていた。

 学年で一番の美人と評判だった女子も、そんな悠二に想いを寄せていた。

 ある日私は、彼女が悠二が話しているところを偶然目撃した。


 パンッッ!



何故か悠二はビンタされていた。

 女子は憤慨してその場を去っていく。

 私は側の水道でハンカチを濡らし、悠二に歩み寄り、濡れたハンカチで叩かれた頬を冷やした。


「サンキュ、玲奈」

「どうしたのよ? 彼女と何かあったの?」

「……私と付き合ってあげるって告白されて、断ったら叩かれた。俺、あの女子の名前も知らないのに」


うわ、理不尽。

 悠二はモテるにはモテるんだけど、近づいてくる女子はクセが強い子が多かった。

 だからなのか、少々女嫌いの傾向があり、私以外の女子と積極的に話そうとはしなかったし、名前も覚えようとしなかった。

 そして修学旅行当日の今も、まともに話す女子は私だけ。

 過去を思い出していた私は、ちらっと悠二を見る。

 悠二の頭は僅かに揺れ、こちらの座席の背もたれに軽くもたれかかっている。

 こうして見ると、子供の頃の顔がそのまま成長したって感じだね。

 修学旅行のバスで隣同士になって、ちょっとホッとしている。

 何だかんだ言っても、一緒にいるのが当たり前みたいになっていたから。

 悠二が隣だと安心する。

 多分、一緒にいる時間が長すぎて家族みたいな感覚になっているのかも。

 行き先の京都まではまだ時間がある。

 私も少し眠ろう。

 私は目を閉じ、眠ろうとした時。


 ――キキキキキキキキッ!!!


 つんざくようなブレーキ音。

 窓を見ると、大型トラックがこっちに突っ込んでくるのが見えた。

 え、ぶつかる!?


「玲奈っ!!」


 悠二が私の体を抱きしめる。

 何やってるの!?

 私を庇ったら、悠二が死んじゃう!!

 早く逃げないと。

 窓を突き破る大型トラック。

 その瞬間、私の視界は炎の色一色になった。


「嫌……悠二、悠二、悠二――っ!!」


 他の生徒たちの阿鼻叫喚の声が遠くから聞こえる。

 私の意識も遠のいていく。

 悠二……お願い……逃げて……悠二……。


 ドォォォォォォォ――ッ!!!


 爆発音を聞いたのが最後の記憶だ。

 私は悠二に抱きしめられながら、意識を失った。

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