凸されました



 なにを驚きましたか。

「アリーさまはお若くていらっしゃる。てっきり殿下たちと同年代だと思いました」

 ええ、ええ。みなさんは白人系のくっきりとしたお顔立ち。日本人は童顔と言われますからね。

どうせわたしは、平たい顔族。

 それに加えてわたしの身長は152センチ。魔法使いさんやいただき女子、侍女たちにくらべても、ダントツに小さい。みんな160センチくらいありそうだもん。

わたし、中学生くらいに思われたんですかね。

 

 でもまあ、この2日でコンラートさんと親交を深め、わたしたちでしっかり子どもたちの面倒を見ましょうね。なんて誓いあったりして? 

 コンラートさんも引率が自分ひとりじゃないとわかって、ちょっと安心したりもして。

 2人の距離が縮まったかなー? きゃ。


 なのに、侍女たちときたら。

「コンラート卿と距離が近すぎます」

 小言をかましてきた。3人の侍女のうち、いちばん年上のボスがエラ。たぶん30ちょっとすぎ。


「え? どこが?」

 なにもあやしい話をした覚えはないし、ふたりでこそこそしたつもりもない。

「親しくお話をしていたじゃありませんか」

「親しくって……。旅の傾向と対策を話しただけじゃありませんか。個人的なお話はしていませんよ」


「それでもです! あんなにニコニコしながら話していたではありませんか」

「いけませんか?!」

 びっくりした。笑顔は打ち合わせの基本じゃんね。コミュニケーションを取り、円滑な交流を図るために必要なスキルですよね!


「あらぬ疑いをかけられます」

「どんな?!」

「淑女たるもの、特定の殿方と親しくしてはいけません」

「淑女じゃないし!」

「いいえ! 聖女さまは淑女のお手本でなくてはいけません」


 ……なに言ってんの、こいつ。めんどくさくなってきた。疲れる。こいつとのコミュニケーションは放棄しよう。

「はいはい、わかりました」

「はいは一回です」

「はーい」

 侍女はため息をついた。なんなん? 偉そうに。エラだけに。(笑)。




「ちょっと、あなた」

 不躾に呼び止められた。お城の中を移動している最中だった。これまた偉そうな小娘が侍女をふたり従えて廊下の真ん中に立っていた。

 くるんくるんに巻いた金髪。きっと吊り上がった青い目。ゴージャスなドレス。

 うわあ、気が強そう。


 誰よ。

 ここへきて3日や4日で知ってる人がほとんどいないのよ。


「レジ―様に言い寄らないでくださる?」

 は? レジ―さまって? ああ、コンラートさんのことか。……言い寄らないでって。


「そんなことはしていませんよ。砂漠ドリの乗り方を教えていただいただけですけど」

 後ろにいた護衛がふたり、すっとわたしの前に出た。

 なんか、それもくるんくるん小娘の不興を買ったようだ。


「下がりなさい、無礼者。わたしを誰だと思っているの?」

 おお、そんな言いかた、はじめてリアルで聞いたよ。誰なのかは知らないけれども。


 護衛たちは形ばかり、半歩ほど下がった。

「ただの小娘じゃない。聖女って言うからどんな美人かと思ったら」

 小娘に小娘って言われた。ムカつく。

 どこの令嬢か知らないけど、あなたのほうが、よっぽど無礼ですよ。


「レジ―さまはね、わたしと婚約するの。聖女だか知らないけれど、ぽっと出のあなたなんか出る幕はないのよ」


 ……「婚約するの」? まだしてないの? なにが言いたい。

「そうですか。それはおめでとうございます。わたしは教えていただいただけで、それ以上のことはありませんからご心配なく」


「まあ、馴れ馴れしくしておいてどの口が言うのかしら。まったくもって信用できないわ」

 ええー、そういうのはあら捜しといいますね。なにも言い返せないじゃないか。めんどくさい。こういうヤツは、なにをどう言っても絡んでくるんだ。

 頭の中で、パワハラハゲ上司がヘラッと笑った。


 こんな女に言い返せば、さらに逆上して泥沼と化す。だまってやりすごそう。

「まったく、なにが出るかわからない未開の地なんかに、レジ―さまを行かせるっていうだけでも嫌なのに、ましてやこんな小娘がいっしょだなんて、嫌にも程があるわ」

 わたしだって、行きたくないですよ。


「レジ―さまもお断りすればいいのに。ウィンチェスター侯爵家の名前を出せば、それくらいできるのに」

 ええ? よそさまの権力を笠に着るの? なかなかそんなこと、できないと思うけど。


「こんな女がいっしょじゃ、安心できないわ。いつ誘惑されるかわからないんだもの」

 誘惑なんてしませんよ。っていうか、いろいろ失礼だな。だまっとけー、と遠くで誰かの声がしたが、無視してしまった。


「コンラートさんはそんなに信用できませんか? よその女に目移りするような、そんなゲスな人ですか?」

「はあ!? レジ―さまがそんなことするわけないでしょう!」

「でもあなた、ナントカ侯爵家の名前を使えだとか、簡単にわたしに誘惑されるだとか、ぜんぜんコンラートさんを信じていませんよね。婚約したんでしょう? 信じてあげたらいいじゃないの」


「な、な、なによ! 偉そうに!」

 ああ、ヤバい。言ってしまった。目の前の令嬢は、顔を真っ赤にしてぎりぎりと扇子を握りしめている。

 手、痛くなるよ?


「だいたいなによ。レジ―さまは由緒正しき侯爵家のご子息。どこの馬の骨かもわからないあなたなんか、つり合うわけないでしょう? わたしのような上級貴族じゃないとつり合わないのよ。出しゃばらないで!」


 コンラートさん、いいとこのボンボンだったのか。育ちがよさそうだもんね。

「はあ? つり合うもつりあわないも、わたしは別にコンラートさんとはなんでもありませんから。ただ、いっしょに旅にでるだけですぅ」

 煽った自覚はある。余裕かましたわたしの顔がおもしろくなかったんだろうね。ナントカ侯爵のくるんくるん令嬢は、かっと目を見開くと扇子を振りかざした。

 うわっ! 実力行使! 風刃の舞を放つわけにいかないし、防御一択だ。腕で頭をかばった。


「お嬢さま、いけません!」

 侍女たちが令嬢を抱き留めていて、護衛はふたりともわたしの前に立っていた。

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