第2話:魔王討伐! 剣聖の帰宅まであと15日

■2話:魔王討伐! 剣聖の帰宅まであと15日


――剣聖の帰宅まであと15日


 魔王を倒した俺達3人は、その旅路を逆に辿っていた。

 3年もかかった厳しい旅は、魔王が滅びた今、のんびりと順調なものに変わっていた。


 魔王城を出て馬車で5日。ムーリアと出会った街、聖都アナスタシアへと到着したのだ。

 魔族の拠点を落としながら1年かかった旅路が、帰りは馬車でたったの5日である。


 聖都アナスタシアは街全体をすっぽりと魔力障壁で覆われた宗教都市だ。

 魔王が倒れるまではこの結界のおかげで地価は高騰し、多くの信者を抱えていた。


 聖都を護る巨大な白い門は大きく開き、聖騎士達がずらりと並んでいる。


「「「大剣聖様! 大聖女様! 大魔道士様! ようこそ、聖都アナスタシアへ!!!」」」


 聖騎士達が一斉に胸の前で剣を掲げた。


 俺達の出迎えである。

 魔王の領地に隣接した町から、魔王討伐成功の伝書鳩が各地に飛んだのだろう。


「すごーい!! やっほー!」


 ドリスが馬車の窓から身を乗り出して、聖騎士達に手を振っている。


「危ないからやめなさい」


 ムーリアがドリスの腰を抱きかかえ、馬車の中へと引き戻す。

 こうしてみると、少し年の離れた姉妹のようだ。


 俺が今33歳でムーリアがたしか22歳。

 ドリスはさらに6つ下らしいから……俺とはほとんど父娘だな。

 おっさんになっちまったもんだ……。


◆ ◇ ◆


 俺とムーリアは街の中心にある大聖堂に向かって、大通りを歩いていた。

 魔王を倒したことにより、ムーリアに『大聖女』の称号を授与するためだという。

 護衛としての同伴が許可されたのは俺一人。ドリスは留守番である。


 街は以前訪れた時よりも穏やかな時間が流れていた。


「私達、魔王を倒したのですね」


 その様子を見て、ムーリアが優しく微笑んだ。

 その微笑みに、一瞬くらっときそうになった。

 普段は強気で腹黒なくせに、時折こういう顔をするから油断ならない。

 だめだめ! 愛する妻が故郷で待っているのだ!


「聖都に別荘を買ったんだよ。だからちょくちょく会いにこれるぜ。だからさあ、オレのモノになれって」


 そんな穏やかな空気を破ったのは、娼婦らしき美しい女性を連れた貴族の男だった。

 男は俺と同じくらいの歳だろうか。ほんのり飛び出た腹がどうにもだらしない。


「うふふ……私を身請けするには、お金をお支払いいただかないと」


 無理やり肩を抱こうとする男から、女はするりと身をかわす。


「バロン……」


 そう呟いたムーリアの全身から一瞬、殺気が溢れた。


 知り合いか?


 俺がそう問う前に男がこちらに気付いた。


「……ムーリア!? ムーリアじゃないか!」


 驚いた男が駆け寄ってくる。


「相変わらずいい体してんなあ! でも生きてたんならなんで金が入って来ないんだよ! ――あっ」


 思わずそう叫んだ男は、しまったという表情で慌てて口をつぐんだ。


「盗賊に襲われた後、運良く逃げ延びることができました」


 ムーリアはそうとだけ答えた。

 一見すると優しげな微笑みだが、なにか企んでる時の顔だよこれ。


「そ、そうか。よかったよ。でも残念だったな。婚約は破棄された。1年以上行方不明だったんだから当然だろ?」


 男は言い訳をする子どものようにまくしたてた。


「バロン様、たしかに以前の私は政略結婚の道具として十分な家柄ではありませんでした。でも聖女として魔王討伐に貢献した今なら申し分ないのでは?」

「聖女? お前が?」

「はい、そうです」


 男はこれ以上ないという疑わしげな視線をムーリアに向けた。


 ムーリアが聖女としての活躍を始めたのは、聖都を出た後だ。

 男が知らないのも無理はない。

 俺の顔も知らないところを見ると、魔王退治の旅でこの街に立ち寄った時はここにいなかったのだろう。


「うそをつけ! ははーんわかったぞ。オレの財産が目当てだな? まったくあさましい女だ。娼婦になった女なんかと結婚できるかよ! 帰れ帰れ! せめてメレみたいに傾国の高級娼婦とでも言われるくらいになってから出直すんだな」


 男は後ろに控えた女を指さした。


「おい、あまり俺の仲間を侮辱するなよ」


 黙っているつもりだったが、つい口を出してしまった。


「なんだおっさん。平民は黙ってろよ」


 お前も同じくらいおっさんだろ。

 平民なのはそうだけどさ。


 男は俺の腰にさした剣を見ると、顔をひきつらせた。


「ちっ。金をせびりにきたのかよ」


 男は地面に銀貨を数枚放り投げた。


 コイツ――っ!


 俺が剣の柄に手をかけようとするのを、ムーリアが制する。


「ふんっ」


 男は女の腕を取って逃げるようにしてその場から立ち去った。


「自分の目で確認ができてよかったわ……ふふふ……。お返しはしっかりしなくちゃね……」


 こっわ! 口元は笑ってるけど、めちゃくちゃ怒ってる時の顔だ。

 だけど俺も同意だよ。

 できることがあれば手伝うからな。

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2026年1月12日 23:55
2026年1月13日 23:55
2026年1月14日 23:55

魔王を倒したおっさん剣聖 故郷に戻ったらクソ嫁が寝取られていたので復讐します ~美少女パーティーメンバーの復讐も手伝うぞ!~ 遊野 優矢 @yuyayuya

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