リオの偽筆と真っ赤な真実
谷 亜里砂
プロローグ
暴力的なまでに冷え切った風が、着物の上から容赦なくリオの身に刺さる。
花畑と高楼を抱えるこの敷地一帯には、つい先ほどまで、春のように暖かく甘い空気が満ちていた。それは最強の神『大神様』が起こす奇跡の一つであり、大神様が唯一愛する巫女『零の位』への寵愛の証でもあった。
リオは、ガタガタと震えて膝をつく女を見つめていた。髪を乱し、唇を紫色に変色させ、ただの凍える少女に戻ってしまった零の位だ。
指の皮を擦り剥きながら、リオが血を滲ませて書き上げた、あの手書きの本たちが頭をよぎる。それは宮の者たちの手の中で、今、赤く脈打っているはずだ。
透明な液で忍ばせた真実の言葉が、零の位が奪い、焼き、踏みにじってきた事実の記録が、この寒さの中で赤文字となって浮かび上がり、彼女が死に物狂いで掴み取り、執着してきた栄華を食い破った。
「裏切ったのね……わたくしを……」
絞り出すような声が、冷たい風にかき消されていく。
リオはずっと、あのボロボロの茅ぶき屋根の家を出てから長い間、あの村に住む家族や住人たちを豊かにしてやりたくて、せめて毎日の食糧に困らないようにしてやりたい一心で、ここまでやってきた。
あの日、『この石の刃で切れば、どんな野菜もヨモギ味になる』と幼い弟たちに教えた優しい嘘は、こんなにも残酷な場所まで辿り着いてしまった。
中庭の入り口から、怒号が響いた。
槍を構えた衛兵たちと、復讐の炎を瞳に宿した巫女たちが雪崩れ込んでくる。足音が、叫び声が、近付いてくる。
独裁者の終焉は、もうすぐそこまで来ていた。
リオは細く白い息を吐きながら、あの日を思い出していた。
全ては、あの雪の朝から始まったのだ。
ひもじさに震えながら、空想の力に頼ろうとしていた、あの初頭村の日常から。
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