ダンジョン=善意の爆弾

探 KKG所属

第1話 転生者、オスカー・ハイデル 爆誕!

 俺、島原雄二は死んだ。


そして、転生した。



・・・多分その認識で合ってると思う。



見慣れぬ天井、豪華な家具、思うように動かない重い体、そして極め付けは自分の口から発せられたであろう声が明らかに子供のような高い声に変換されているという気が遠くなるような事実。


この状況を、一体全体どうやったら説明できるのだろうか?


転生したとしか考えられないと思う。


というか、それ以外の可能性なんて考えたくもない。


本当に転生しただけなのであればまだマシだが、どっかのアニメの主人公のように黒ずくめの組織のせいで見た目は子供、頭脳は大人、的な感じになっているのであれば本当に手の施しようがないし、笑えない。


本当に、笑えない。

冗談じゃない。

ああ。頭が割れるように痛い。



まあ、そんな心配はあとから考えると杞憂でしかなかったのだが。



というのも、俺が目をさましてから程なくして、黒いスーツのようなものに身を包んだ若い男が部屋に入ってきたからだ。

そして、視線をキョロキョロと動かしている俺を見つけると扉の向こうに向かって叫んだ。


「奥様。オスカー様がお目覚めになられましたよ」


その瞬間、部屋の向こうからバタバタという大きな足音聞こえてきて、気がついた時には、身なりの良さそうな女性に抱き抱えられていた。


「えっと……あの?」


「オスカー。やっと目が覚めたのね。来月には入学式が控えているというのに、オスカーったら熱が下がってからも一週間、全然目覚めなくて……」


どうやらこの体の持ち主だった、オスカー君?は熱を出していたらしい。

そして、今の話を聞く限りでは、俺は転生したので間違いなさそうだ。

とりあえず、一安心だな。

黒ずくめの組織が関わっているわけではなさそうだし。


それにしても、熱が下がった頃には俺に体を乗っ取られていたって……。


なんかごめんね。オスカー君。


僕は君の分も、しっかり生きるよ。君の代わりのオスカーとして。

そんなことを考えていると、やっと、その大きな腕から解放された。


このすきに、いろいろこの世界のことについて聞いてみよう、

熱が下がってからしばらくの間目が覚めなかったのであれば、今だったら変なことを聞いても、寝起きで記憶が混濁してたってことで誤魔化せるだろうし。


「あの……ここは一体……」


だが、俺の声は部屋が振動するのではないかと思うほどの大きな声でものの見事にかき消されてしまった。


「母上、オスカーが目覚めたというのは本当ですか!?

ジークウェスト!今すぐ、父上にご報告を。

大丈夫か!?オスカー。何か困ったことがあれば兄である俺に遠慮なく言ってくれてもいいんだぞ。」


なんだか、みんな俺のことをすごく心配してくれているのはわかる。

わかるんだけど……。


「頭キンキンする……」


こいつ、正気か?

中身は違うとしても、オスカー君は熱出してたんだろ?

仮にも病み上がりの病人に対してそんな大きな声出すか?普通。


後ろの方で、おそらく俺の母親である女性が、自称兄を叱りつけていた。


「病み上がりの病人にそんな大きな声で怒鳴ってはなりません」


と。

まあ、俺の転生先は常識は兼ね備えた普通の家だったらしい。


普通の家にしては少し周りが豪華すぎるような気がしないでもなかったが、年相応の眠気に引っ張られた俺の意識はそんなことを思案するまでもなく、そのまま沈んでいった。


何より、この時の俺はまだ混乱していた。

だから、周りが変に豪華なのも、どっかの貴族に転生したからだろう、

としか思っていなかった。


後になって、この時、ちゃんとこの世界について、この家がなんでこんなに豪華なのか、一体どんな仕事をしているのか、きちんと聞いておけばよかった、

と後悔することなんて、今の俺は知る由もなかった。





 あの衝撃的な目覚めから約一ヶ月後。

この世界での生活にも慣れてきていた俺は家族と一緒に夕食の席についた。


「本日のメインディッシュは、ドラゴンステーキのルビーソース添えでございます」


椅子に腰掛け、ナプキンを膝の上に乗せて、食事の用意が整うと、執事のジークウェストさんが今日のメニューを紹介しながら、ステーキが乗った皿を目の前に置いてくれる。


できるだけカチャカチャと音が鳴らないように、ゆっくりとナイフとフォークを動かす。

上品に見えるように、最大限の注意を払いながら。



前世でやっていたテーブルマナーがこんなところで役に立つとは……。



料理を口の近くまで持ってくると、バジルのような爽やかな清掃感のある匂いが鼻を掠める。

そのままパクッと、口の中に放り込むと一気に肉汁で口の中が満たされる。


ああ、美味しい。


俺は何気にこのドラゴン料理が好きだ。

最初こそ、ドラゴンの肉ということで驚いたが、臭みも少ないし歯応えもあって、案外ワニ肉のようでクセになる。


しかも、ルビーソースといういわゆるブラッドソース(血)のようなものがかかっていて、これがまた味の深みが素晴らしい。


この世界に来てから、すっかり、下が肥えたように感じるのはおそらく気のせいではないだろう。


ゆっくりと咀嚼しながら幸福感に浸っていると、母親の声がテーブルの向こうから響いた。


「オスカー、明日から学校ね。準備はできているのかしら?」


オスカーはナイフを持ったまま、思わず固まる。


「え、母上?今なんと?」


明日から?そんな話、俺は一個も聞いてないぞ?


「あら?言ってなかったかしら……異界交流学園。父上のように立派な迷宮調査官に僕もなるんだ、って前はよく嬉しそうに語っていたじゃない?」


いやっ?でも、あの話は俺が入学試験に落ちたことでなくなったはずでは?


俺も転生前のオスカー君のことは記憶がないので全く知らないが、俺が家にいる時にその異界交流学園から不合格の通知を受け取ったことはまだ記憶に新しい。


ついでに、そんな危険性の高そうな職業の養成校だなんてたまったもんじゃないと思っていたからちょっと安心したのは言うまでもない。



とにかく、一体全体どう言うことだろうか?



「お前は座学の成績が悪かったから、入学できるかどうか不安がっていただろう?

息子のために、お父さん、頑張っちゃった」



はぁ!?

犯人お前かよ!


ていうか、不安がっていたどうこう以前に、すでに不合格になってるんだけど!?


てへぺろっ

と効果音がつきそうな勢いでとんでもないことを言っている父親を見て、俺は完全に固まった。


「えっと……それは俗に言う、裏口入学というやつでは?えっ、父上?大丈夫なんですか?」


「人聞きが悪いな。そう言う言い方をするんじゃない。そもそも、我が、ハイデル家の、私の息子だぞ?

不合格になるのが何かの間違いだったんだ」


隣を見ると、母親もうんうん、と頷いている。


あんたも否定しろよ!?

ただの親バカじゃねーかよ!


転生直後は、常識のある普通の家だと思っていたが、全然そんなことなかったらしい。

俺の混乱をよそに、父上こと完全に狂っている父親は説明を続けている。


「君が進むのは、迷宮調査官を養成する学園だ。名門ハイデル家の次男として、君の資質を活かすのにぴったりの学校だ」


母親はにこやかに頷く。


「そうよ。オスカー、あなたも家の期待に応えてもらわなくちゃ」


オスカーはナイフとフォークを握ったまま、心の中で絶叫する。


いやいやいやいや!俺、転生したてで、この世界のことほとんど何も知らないんだぞ!?


しかも、人がドラゴンステーキ食べててせっかくいい気分になってたのに、なんて言う衝撃的な話題を振ってくるんだ……。


すると、ヴィル兄さんがテーブルの端から笑いながら言った。


「ハハッ、オスカー、最初は皆そう言うんだ。でもすぐに慣れるぞ。

あの学校で必要なのは、家柄と本人の資質だけだ。

逆に、正規入学の方が人数が少ないんじゃないのか?」


正規よりも、裏口の方が人数多いって、どんな学校なんだよ……。


ていうか、それもはや裏口って言わないのでは?

オスカーの心は混乱と絶望で嵐のようだった。


「しかも、明日って、もうほとんど日にちないじゃん……」


母上は優雅に頷く。


「ええ、準備は整えておきなさい。体調管理も大事よ」


わずか1日しかない猶予で、何が体調管理だ、と心の中で毒づきながら、オスカーはため息をついた。

そして、心の中でこの一ヶ月間の出来事と分かったことを整理する。


1、俺は転生した

2、豪華な家にいる

3、俺こと、オスカー・ハイデルは、名門、迷宮調査官家系の次男だ

4、明日から養成校である異界交流学園への入学が決まっている

5、ドラゴンステーキを食べている



・・・カオスだな



もう、考えることを放棄したオスカーは、ナイフとフォークを置き、口元に手をやり、深く息をつく。


母親は微笑んで、執事のジークウェストさんに目をやる。


「ジークウェスト、オスカーの準備は整えておきなさいね」


ジークウェストさんは礼儀正しく頷きながら、さらに恐ろしい未来を予感させる冷静な声で言った。


「承知しました。オスカー様、来月からは迷宮調査官としての生活が始まります。

何も心配することなどございません。

理不尽な評価をつけるような教員には、我が、ハイデル家の権力を思い知らせてやれば良いのですから」


オスカーは思わず心の中で叫んだ。


いやいやいやいや、待て待て待て!!!

何も大丈夫じゃない。心配事しかない。

何が心配かって、父親が権力振りかざして、親バカ発動しないか心配でしかない。



ナイフとフォークを握ったまま、オスカーは絶望と混乱の中、来月から始まる学園生活を想像していた。



オスカーはまだ知らない。

明日の入学式で思わぬ騒動に巻き込まれることを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダンジョン=善意の爆弾 探 KKG所属 @10101067

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ