偽物の大魔導士は、静かに世界を救う

@Rsiteisunnna

第1話 異世界から来る一人の大魔導士が世界を救う

「異世界から来る一人の大魔導士が世界を救う」


 王宮の予言の間は静まり返っていた。壁に刻まれた古い文字が、松明の炎に揺れて不気味に浮かび上がる。国王ジョビン3世は、玉座に深く腰を沈め、額に手を当てていた。


昨夜見た夢がまだ脳裏に焼き付いて離れない。魔王がよみがえる。闇が世界を覆う。そして、ただ一文だけが光のように響いた。


「異世界から来る一人の大魔導士が世界を救う」それがすべてだった。名前も、容姿も、何も示されてはいない。それでも希望は希望だ。王は即座に命令を下した。ミグル王国最高の魔術師団を集め、異世界召喚の秘儀を執り行う準備を整えさせた。儀式の日は、魔王復活の予兆が最も強まる新月の夜に定められた。


そして今――。


広大な王宮中庭に描かれた巨大な魔法陣が、青白い光を放ち始めていた。数十人の魔術師が円陣を組み、詠唱を重ねる。空気が重く震え、地面が微かに振動する。


「来い……我らの救世主よ!」


魔術師団団長オールドが最後の呪文を叫んだ瞬間魔法陣の中心で光の柱が天を突いた。眩い閃光が収まったとき、そこに立っていたのは二人だった。


長い銀髪が風になびき、深紅のマントが優雅に翻る。端正すぎる顔立ちに、自信に満ちた微笑。手に握られた杖には魔王を彷彿とさせるような魔力を宿していた。彼はゆっくりと周囲を見回し、優雅に片膝をついた。「我が名は、エルサニタ。異世界より召喚された大魔導士だ。貴国を、そしてこの世界を救うために」声は低く、響きが美しい。王も魔術師も思わず息をのんだ。


これは…まさに英雄だ。


だが、その隣にもう一人、ポツンと立っていた。


Tシャツにジャージ、片手にスマホ。ボサボサの髪に、眠そうな目。年齢は十六かそこら。明らかに場違いな少年は、きょろきょろと辺りを見回し、小声で呟いた。「え……マジで? 召喚? 異世界転生?」彼はポケットから眼鏡を取り出し、慌ててかけた。そして、魔法陣の外に並ぶ華やかな王族や騎士たちを見て、ますます縮こまった。国王が、ゆっくりと立ち上がった。


「君たちが……予言の」


言葉をつづける前にエルサニタが杖を振り上げた。「まずは実力をお目にかけよう。」


刹那、魔法陣の上空に巨大な炎の魔法陣が展開される。轟音とともに、火の鳥が三羽同時に生まれ、空を舞った。熱風が中庭を吹き抜け、石畳が赤く熱を帯びる。「これが私の魔法――《鳳凰天翔》!」


歓声が上がった。騎士たちは剣を抜いて敬礼し、魔術師たちは口が開きっぱなしだ。完璧だ。まさに予言の大魔導士。その横で、少年林ククオは、おどおどと落ち着かない様子だった。次は、少年ククオの番だ。ククオは深呼吸して、指を構えた。スマホの画面をチラ見しながら、記憶を頼りに詠唱を試みる。


「えっと……水よ、来い……《ウォーター・ボール》!」


ぴゅっ。


指先から、水が勢いよく飛び出した。長さはせいぜい二メートル。水鉄砲みたいに、弧を描いて地面に落ちる。すぐに蒸発して、ちょっとした水たまりができただけ。静寂が、中庭を包んだ。


そして、次の瞬間――爆笑と怒号が巻き起こった。


「なんだあれは!」「小便じゃないか!」「詐欺師め!」


エルサニタが、優雅に笑いながら肩をすくめた。「どうやら、召喚に少し……ミスがあったようだな」


国王の顔が、みるみる紅潮していく。ククオは、ただただ俯いて、スマホをぎゅっと握りしめた。


(やばい……これ、マジで追放ルートじゃん……)こうして、予言の救世主は二人召喚された。一人は英雄として迎えられ。もう一人は――偽物としての運命が、今、始まろうとしていた。

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