第3話

白虎の騎士ヴィラン-3


帝国とドラゴンの戦いは激化の一途を辿っていた。もともとは些細なことがきっかけだったのだが、報復に対する報復、和平の決裂の結果がつもりに積もって、すでに100年に及んでいる。

最初は帝国が優勢だった。そもそも国力に差があり、またドラゴンは身内争いが激しい種族だ。総力は帝国に匹敵するかもしれないが、足の引っ張り合いが祟って各個撃破されていることが多かった。だからこそ決着がつかずにダラダラと長引いてしまっているとも言えた。


それがここに来てドラゴン達が連帯を始めた。いや連帯というのとも違う。突き詰めた足の引っ張り合いの均衡が崩れ、決定的な強者が頭をもたげてきたのだ。

その中でも特に強力なドラゴン4人が、手を取らずとも互いの領域を尊重する協定を結んだ。


最も好戦的なオルドロス

理性的だが帝国への敵意が決定的なヴォルス

比較的温和なフローゼ

最も強いのだがイマイチやる気のないアルベスト


帝国が戦うのは、もっぱら前者の二人だった。長きにわたる戦いは国力の低下を招き、両者の差は徐々に縮まろうとしていた。


・・・・


「久しぶりに来ましたね。ミレリア様」

「そうですね。ヴィラン」

暖かい日差しの中をミレリア、不死隊一行を進んでいく。場所はミレリアの故郷。ヴィランが最初にミレリアに会った街だ。

あれから10年以上の月日が過ぎた。筆頭で入隊したヴィランはメキメキと力を付け、不死隊の中でもすでに5本の指に入るほどの力を持つようになった。

ミレリアからの信頼も厚く、その忠誠心は、自他共に認める熱意を持って知られている。ミレリア様ファンクラブ名誉会員だ。


門をくぐって城壁の中に入ると、明らかに以前とは様子が違うことに気が付く。

ミレリアが眉をひそめた。

「しばらく見ないうちに、ここまで侵攻されているなんて…」


以前来たときはもっと先にあった戦線が、とうとうこの街にまで迫ってきている。崩された城壁を必死で補修するもの。外に射る矢を作るもの。対空用の巨大バリスタ、岩石でできたゴーレムの調整をするもの。

ドラゴン族は普段は人間とさほど変わらない姿形をしているが、戦闘になると空を飛ぶ飛竜や、丘のような岩竜に変貌して戦う。これらに対しては城壁はあまり役に立たない。

もともと、ドラゴンを想定した守りの設計がされていないのだ。


帝国としては、すでに撤退を視野に入れており、住民の避難を進めているのだが、頑なにこの街から離れることを拒む人たちもいる。

軍部としてはこれ以上食い止めるのは無理だからさっさと片づけてほしいのが本音。自分の故郷だからと言って非合理的なことをするのは辞めろ、帝国を私物化するな。といった声も出ており、そこで直々にミレリア様が説得に参ったという次第である。


立ち退きを拒む住民の家一つ一つをミレリア様が訪問していく。全員を一か所に集めた方が楽だと思うのだが、そうはしない。この人はそういう方なのだ。


「ずっとこの街に住んできました。今さら別の場所に引っ越そうだなんて考えられません」

「何とかしてドラゴンども追い返すことはできないんですか?」

「あなたなら、あなたならなんとか出来るのではないですか?」

ミレリア様はこういった意見を根気強く聞き、できない理由を時間をかけてわかりやすく説明し続ける。最終的にはほとんどの人たちが納得してくれた。

結局のところ、彼らもどうしようもないことは分かっている。ただ、誰かに自分のつらい話を、聞いてほしいだけなのだ。ミレリア様はそうおっしゃった。


数日かけて、一通りの家を回った。最後に残ったのは、海辺のあばら家に住む、漁師の家だった。


海辺を歩くミレリアは、どこか懐かし気に見える。ヴィランは気になったことを聞いてみた。

「この辺りにお住まいだったんですか?」

ミレリアは海風に髪をたなびかせながら言った

「ええ、この辺りはあまり変わらないわね。岩とか崖とかはちょっとだけ、形が変わっているけれど…」

生涯のうちに、波が岩を穿つ様子がわかるのか。改めてこの方が1000年生きているということを実感する。

「いつもこの辺りの岩に座って、友達と、三人で遊んでいたの。あの頃は楽しかったわ…」

寂しそうに笑うその姿をみて、言いかけた言葉を飲み込んだ。


やはり、今は楽しくないのでしょうか?


・・・・


用事が終わり、ミレリア一行が、帰り支度をしている時だった。

監視魔法を展開している魔術師から、緊急の連絡が入った。

「ドラゴンです。オルドロスと…ヴォルス!その配下ども」

「総員戦闘態勢!!!」

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